文=北條聡

Jの収益構造はコマーシャル収入に依存

 プロサッカークラブの収益構造は基本的に以下の3つが大きな柱となっている。(1)放映権収入(2)マッチデー収入(3)コマーシャル収入だ。

 この3つのバランス(構成比率)がよければ、理想的な経営体と言えるだろう。現代のシステムと同じように4-3-3(4:3:3)や3-4-3(3:4:3)あたりが、ちょうどいい。その意味で、イングランド・プレミアリーグの収益構造は、かなり優れている。

 驚くような大金が転がり込む「放映権バブル」が何かと話題になるが、マッチデー収入やコマーシャル収入でも十分に稼げるクラブが少なくない。当然、クラブによって構成比率にバラツキはあるが、世界的な人気を誇るメガクラブは(2)や(3)の比率も高い。

 そこで、Jリーグである。ヨーロッパの主要リーグと比べると、収益構造における三本柱の比率が大きく偏っている。というのも(1)の放映権収入が少ないからだ。Jリーグから「配分金」として、各クラブに渡る放映権収入は1億8000万円(注・J1クラブ)だった。2015年度の浦和を例に取ると、営業収益(売上高)が約60億円だから、比率は3%程度。全体の1割にも満たない。同年度のJ1で最も営業収益の少なかったのが約15億円の甲府で、ようやくその比率が2ケタ(13%)に届くのが現状である。

 今季から配分金が約2倍に増額(3億5000万円)されるが、営業収益の高い浦和のようなクラブにとっては、三本柱の一つに数えにくい。Jリーグは今後10年間で、総額約2100億円の放映権収入を手にするが、そこから「制作費」などを引いた分を、J3を含む全52クラブに分け与えるから、必然的に1クラブ当たりの「分け前」は少なくなるわけだ。

 そこで、Jの収益構造は(3)のコマーシャル収入に大きく依存している。2015年のJ1を例に取ると、その比率が40%を超えるクラブは実に14クラブ。そのうち、50%以上が柏、名古屋、神戸、甲府の4クラブで柏と名古屋に至っては60%以上を占めていた。

空席を埋めるために「和製NSC」の設立を

©Getty Images

 では、マッチデー収入はどうか。飲食代などを含まぬ「入場料収入」の比率を見ると、2015年度のJ1の場合、全体の4分の1に相当する25%以上を占めていたのは浦和、仙台、松本、新潟の4クラブで、30%を超えていたのは浦和と仙台のみ。なお、入場料収で10億円を超えていたのは浦和(約22億円)だけだった。

 大半のクラブは全体の5分の1相当(20%)の収入を確保しているが、この比率を上げていかないと、売上高はなかなか伸びないだろう。2017年のJ1クラブのチケット代を見ていくと、最も安価な券種(大人1人・自由席)は1800~2500円。さらに、割安のシーズンチケット(年間パス)は2万円(鹿島と鳥栖)から3万85000円(仙台)となっている。

 高いか、安いか。価格そのものよりも、それに見合うサービスを提供できているかどうかが重要だろう。またプレミアリーグのように1スタジアム当たりの平均収容率が90%を超えれば、客単価を上げたり、観客席を増築したりする手もあるが、Jクラブのスタジアムには総じて「空席」がある。まずは、それを埋めることだ。

 近年、アメリカのMLS(メジャーリーグサッカー)が活況を呈しているが、その一因にチケット販売の強化がある。2010年、チケット販売の専門家を養成する『ナショナル・セールス・センター』(NSC)を設立。卒業生の多くは各クラブで職を得ており、NSC時代に叩き込まれた電話営業などのノウハウを十全に生かし、販売実績を挙げている。実際、各クラブはチケット業務に関わるスタッフを20人近く抱えているという。

 さらにサッカー専用スタジアムの保有を促進し、顧客満足度の向上にも努めてきた。こうした地道な取り組みの末、いまや各クラブにおけるマッチデー収入は30%から40%を占めるようになった。MLSの「ドブ板戦術」から学ぶべき点は数多くありそうだ。Jリーグも『和製NSC』を立ち上げてみてはどうか。


北條聡

1968年、栃木県生まれ。早稲田大学卒業後、Jリーグが開幕した1993年に『週刊サッカーマガジン』編集部に配属。日本代表担当、『ワールドサッカーマガジン』編集長などを経て、2009年から2013年10月まで週刊サッカーマガジン編集長を務めた。現在はフリーとして活躍。