文/BBCrix編集部 写真/榎本壯三

施設や“盛り上げ”で、球団の求めるレベルを目指す

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「日南市は生まれ育った地元です。だから、子どものころから春といえばキャンプでした。当時、宮崎でやっていたのは、日南市のカープ、宮崎市のジャイアンツ。大学時代には、カープのキャンプに関わるアルバイトをやったこともありますよ」

 そう話すのは、一般社団法人日南市観光協会観光振興課で課長を務める廣池幸治氏。宮崎市にある大型リゾート施設・フェニックス・シーガイア・リゾートに勤務し、団体営業を担当するなど、観光業界での長いキャリアを持つ。2年前に転職し、同観光協会に加わった。日南市南郷町で行われている、埼玉西武ライオンズのキャンプをサポートするのは今回で2度目である。

「キャンプ地である南郷スタジアム内に観光協会の部屋をいただいているので、基本的にはそこで作業しています。メディアなどからわたしたちのほうに届いた問い合わせがあった際、球団広報との連携が素早くできるので助かります。やることは多く、1日があっという間に過ぎていきますね」

 西武は、秋のキャンプでは長らく南郷町の施設を使ってきたが、春のキャンプをやるようになってからまだ15回目だ。廣池さんは、日南市南郷町の施設が選ばれている理由について見解を述べる。

「なんといってもこの場所の温かな気候ですよね。それから球場内のこと。練習環境を、プロの選手がトレーニングする場としてのレベルに仕上げられているかが重要です。主には芝の状態などですね。南郷スタジアムは市営ですが、指定管理者には宮崎県内でもトップレベルの技術と経験を持つ人を置いています。そうしたことは球団の信頼に繋がっているんじゃないでしょうか。そして残るは、キャンプをいかに盛り上げるかといったところになってきます」

 “キャンプをいかに盛り上げるか”は、観光協会としての腕の見せ所となっている。

「キャンプの期間中、南郷スタジアムに隣接する場所に“ライオンズスクエア”というスペースがあるのですが、そこの運営は観光協会でやっています。訪れた方に飲食を楽しんでもらったり、グッズを販売したり。週末にはファン感謝祭として抽選会を開催して、地元の特産品の振る舞いなどもしてきました」

 抽選会などのイベントには選手の協力もとりつけていて、球団の担当者とコミュニケーションをとり、状況に応じ参加可能な選手を挙げてもらっている。

「前年の8月くらいから、球団とのキャンプに関する話し合いははじまっています。そこではいろいろなことを話すのですが、わたしたちとしては、期間中のイベントの企画の提案をしています。それを球団に見ていただいて、肉付けして、形をつくっていくという流れですね」

 そうやって実現してきたのが、2月の第1クールの終わりの休日に実施している選手の観光企画などである。選手に日南市の観光を楽しんでもらうことで、それを通じて地元のPRを図るというものだ。今年は2年目の多和田真三郎、また入団したばかりの新人3選手が参加し、日南市南郷町が漁獲量では日本一の「カツオの一本釣り」の模擬体験や、カツオの調理、試食などを楽しみ、これはスポーツ紙などでも報じられた。

“地元の熱”をさらに高めていきたい

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 南郷キャンプを訪れる人々は、週末で1300人ほど、平日で600~800人ほどだという。昨年との比較だと少し増えているとのことだが、松坂大輔(現・ソフトバンク)が所属していた頃は、1万人くらいの集客があった。「それがプロ野球という世界」と廣池氏は理解を示すが、自分たちでコントロールすることのできない、スター選手に恵まれるか否かとは別の部分で、努力を続けていくことが自分たちの使命だとも語る。

 スターの存在に左右されないものにするために、いま廣池氏が意識しているのは、地元に“ライオンズファン”をもっと増やし、そういう人たちに毎年足を運んでもらうことである。

 県外から日南に来るファンは増えており、宿泊施設が足りなくなるようなことも起きている。確かに南郷スタジアムのスタンドには、グッズで身を固め、カメラを抱えながら練習を見守る熱烈なファンもかなり目についた。だが、そうしたファンだけに頼るのではなく、地元に住む人々の球団への関心の底上げも図ることを重視している。

「地元の熱を高めたい。その部分で、日南でキャンプをはじめてからの歴史が長いカープに比べ足りない部分があります。それは仕方のないことですが、ライオンズ担当としては、やることはやっていかなければならない」

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大学まで野球を楽しんでいたという廣池氏に、今年のキャンプの印象を聞いた。

「秋から辻発彦監督に代わられました。練習を見させてもらっていると、守備、守備、守備という感じですね。ライオンズのイメージは主砲をしっかりと据えて、打つほう中心というものでしたので変化を感じています。期待する選手? やっぱり両方を兼ね備えた浅村(栄斗)さんですかね」

 日本シリーズで西武と広島が激突し、日南市の人々が熱狂的な声援を送る―――。廣池氏が目指すのは、そんな未来なのだろう。後編では同じ日南市観光協会に所属し、広島のキャンプの担当を務める方に話を聞く。

後編につづく

【後編はこちら】プロ野球春季キャンプを迎え入れるということ

前編で紹介した西武・南郷キャンプがはじまって15回目であるのに対し、同じ日南市内にある天福球場で行われる広島のキャンプは今年で実に55回目を数える。非常に長い歴史がある分、地元への認知もやはり高いものがある。この伝統あるキャンプに対し、迎え入れる側の担当者のスタンスは、西武とは少し違った部分もあった。

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BBCrix編集部