文/BBCrix編集部 写真/榎本壯三

広島のキャンプの集客は、例年比1.5倍のペース

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 一般社団法人日南市観光協会では広島の日南キャンプのサポートも行っている。こちらの担当を務めるのが、観光振興課の村田満年係長だ。日南市で生まれ育ち、福岡の大学を卒業したのち宮崎県に帰郷。宮崎市内の広告代理店勤務を経て、宮崎市観光協会で働くようになった。同協会では、巨人やソフトバンクのキャンプ、また秋に若手選手を集めて行われる教育リーグ、みやざきフェニックスリーグのサポートをするなど、球団を相手にした業務の経験を積む機会に多く恵まれた。

「3年前、生まれ故郷の日南市に新しく観光協会ができて、市内でキャンプを行う球団の受け入れを担当することになったんです。それまでは市や商工会議所などが対応していたのですが一本化されていなかった。それを改めようという動きが出ていたんです」

 そうした改革のなかで、地元出身であり、キャンプの受け入れについては豊富な経験を持つ村田氏に声がかかった。そして宮崎市の観光協会から日南市の観光協会へ“移籍”が実現。そして広島担当をまかされたというわけである。

「日南市に訪れる観光客は年間200万人くらい。それに対し、昨年の集計だとカープのキャンプへの来場者は5万7000人ほどでした。これは日南市で暮らす方も含めてではありますが、それでも約1カ月の期間で、それなりの数字にはなります。多くの方々が、地元で宿泊や食事をしてくださったりするわけですから、経済効果としては相当大きなものです。昨年の優勝もあり、今年は1.5倍くらいのペースで来場していただいています。なお、宮崎市でキャンプをしているホークスは約30万人、ジャイアンツが10万人ちょっとくらい。確かにそれらの数字は凄いのですが、宮崎市の人口は40万人ぐらいなのに対して、日南市は約5万人ですから、それを考えるとカープのキャンプの集客力はかなりのものだと思います。もちろん単純な比較はできませんけどね」

“歴史”に甘えず選手が過ごしやすい環境をつくりたい

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 広島が日南市にある天福球場でキャンプをするようになったのは、1963(昭和38)年のことだ。ジョー・ルーツ監督が就任し、チームカラーを赤にして初優勝を果たしたのが1975年であるから、広島と日南市の間の絆はそれよりもずっと前から結ばれている。もはや広島を語るうえで、日南キャンプは欠かせない“歴史”と言っていいだろう。ただ、そうした絆に甘えていてはいけないと村田氏は考える。

「前職では、誘致に関わる仕事もしてきました。そのときには、球場の施設やその他のホスピタリティ面の充実を他の候補地と競い合いました。カープについて言えば、その点では100%ではない部分もあります。そうしたなかで、キャンプを実施していただけているのは本当にありがたいと思います」

 だからこそ、できることから改善を図り、球団にとって快適なキャンプとなるような気遣いを心がける。「非常に細やか」と思わされたのは、今年の2月5日、天福球場と日南市内の商店街の間で実施した優勝祝賀パレードの話だった。

「久々の優勝ということもあって、地元から声があがり企画が立ち上がりました。1万2000人もの方々が集まり、『商店街にこれだけ人が入ったのは初めてではないか』といううれしい声もありました。でも、選手はキャンプ期間中そのあたりを普通に通りがかっていて、地域の方と自然な形で交流をしていました。だから、そういった場所でおおがかりにパレードをやることで、周囲に気づかれることも増えそれが期間中の選手の生活に影響を及ぼすのではないかと心配したんです」

 結果的には球団側の快諾もあって実現したが、そこには「選手が過ごしやすいキャンプ」を追求する村田氏のスタンスが伺える。

©️共同通信

 キャンプは球団にとっては合宿、つまりトレーニングの場であると同時に、プロとしてはこちらも重要な、ファンに対するアピールの場でもある。どのように比重を置くかは、球団によって違う。そういったことを、これまでの多くの球団と仕事をした経験から理解していた。そのうえで、かねてから厳しい練習を第一に取り組んできた、広島というチームの特徴を考えた、村田氏だからできた配慮であったのだろう。

「この仕事の難しさはそのあたりにあると感じています。球団側の目線、日南市民側の目線。その両方を持ちながら、折り合いをつけていかないといけない。昨年であれば、来ていただいた5万7000人の方々に、日南市を十分にアピールできたかと言えばまだまだでした。そのためにわたしたちとしてはやるべきことはあります。ただ、選手たちが行うキャンプという場を使わせてもらう以上は、いろいろな配慮が欠かせません」

 温暖な気候、快適な施設、おいしい食べ物など、宮崎県が球団からキャンプ地として選ばれ、信頼を得ている理由は数多くある。ただ、今回話を聞いて感じたのは、受け入れる側にバランス感覚に長けた担当者がいることも大きな理由なのではないかということだ。キャンプが球団、ファン、地域の全てがメリットを見出せるものとなるために、各地で力を尽くしている多くの人々に大きな賞賛を送りたくなった。


BBCrix編集部