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個々に任されている部分が多い投手陣のキャンプ

©️Baseball Crix

――前編では打者のことを中心に話を伺いましたが、投手のキャンプの厳しさという面ではどうでしょうか? 投手として現役生活を送った小松さんですから、ご自身としての経験もおありだと思います。

小松 投手について言うと、他の球団と比べても大きな差はないと思います。走り込みなどは少し多いかもしれませんが、どこだってキャンプはきついものなので「こんなものかな」って思います。

――特別に投げ込みが多いとか、そういうこともなく?

小松 強制的な投げ込みなどはありません。ピッチャーというのは、個人勝負の世界です。つまり、どれだけ質のいい練習するかということですね。メインはブルペンで、あとはバッティングピッチャーをする機会もある。それにランニングとウェイトトレーニング、その他のトレーニングを織り交ぜながら、ある程度自由に幅を持ってやる感じです。そしてシート打撃、紅白戦と進みます。

――選手それぞれにかなり任されているということでしょうか。

小松 はい。この日はこうしようとか、このキャンプはこういうテーマを持って取り組もうとか。紙に書いてあるスケジュールは同じであっても、選手の意識次第で差が広がるのが投手のキャンプなのだと思います。量で追い込むのとは別の厳しさ、難しさがあるんです。それこそ、自分の置かれている立場も見極めないといけないですしね。自分は先発でいくのか、中継ぎでいくのか。最終的には首脳陣の判断ですからわからないことも多いのですが、それでもイメージしながらピッチング練習をする必要があります。そうしないと、意味のあるものにはなりません。

――走り込みの話がでましたが、ランニングはどんなところを走っているのでしょう。

小松 併設された室内練習場や近辺の坂道を走ったりしています。あとは二軍が利用する東光寺球場(※)に陸上のトラックがあるので、そこを走ることもあります。やはり、ピッチャーは走らないといけない。走る動作は人間の動きの基本中の基本なので、すごく大事だと思います。量についてはトレーナーが考えて指示をくれます。がっつりやる日もありますけど、軽めにして敏捷性を高めるトレーニングをやる日もあります。ですから、トータルで言うと、めちゃくちゃ多いってことはないですね。春よりも秋のほうがハードというのは野手の場合と同じです。

本当に大事な場面で出るプレーは練習によって決まる

――カープは若手選手も多いですが、キャンプでは「同世代の選手と競い合いながら」といったムードはあったりするのでしょうか?

小松 うーん、どうですかねえ。最終的には自分になると思います。自分の現役時代を思い出しても、周りを見ながら練習していたという記憶はあまりないですね。シーズン中に感じた自分に足りないものを補うための練習をやってみたり、オフに自分で勉強してきた練習をやってみたり、取り組み方はあくまで自分の意思で決めていたと思います。

――個々が目的意識を持って臨んでいる。なにをやるかは自主性に基づいている面も多いと。

小松 ただ、いい意味で“やらされる練習”っていうものも大事だとは思います。人間って弱いものなので、あと一歩というところを追い込んでいくのは難しい。だから、誰かにやらされることで体力つけていくというのが効率的であることもある。

――いまの広島は、個々の選手の自主性を重んじつつ、“やらされる練習”も適度に課して力を伸ばしている。どちらかだけではないということなんですね。

小松 そういうところはあると思います。シーズン中に調子を落としたときなど、そこで休むべきか、さらにトレーニングを続けるべきか、判断が難しいこともあります。日頃から自分で考えて取り組むことで、知識も増え、そういった場面での見極めもうまくいくようになる。黒田(博樹)さんなんかも、毎年手探りでやられていましたし、自分の身体を実によく理解されていたなと思わされることは多かったです。

――選手がそれぞれの身体をよく知ることを大切にしている。

小松 結構、原始的な練習もあって、「動作解析をして科学的に」みたいなことにはそこまで力を入れてはいません。やはりどちらかというと、カープは自分たちで培った経験に基づく知識と練習量で戦っているチームだとは思います。よく走りますし、シャドーピッチングだってします。疲れが出たり、うまくいかなかったりする場合は、休んで調整するよりは動いてつかんでいく。練習のなかで打開策を見出そうとするのが、自分たちなのかなとは思います。

――これだけやったのだから、というメンタル面の自信にもつながりそうですよね。

小松 それはもちろんあると思います。本当に大事な場面で、「足をこう上げて」「こう体重移動して」なんて考える選手はいません。そこで出るのは、無意識に落とし込まれたもの。それは結局、練習でやってきた動きなんですよね。そこを極めるためには、やっぱり練習しかないんです。

――量はもちろん、質にもこだわった練習ですね。

小松 そうです。ただやるだけではなくて、なんのためにやっているのかを考えながらやる練習。それが大事なんだと思います。

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※一軍がキャンプを張る天福球場と同じ、宮崎県日南市の日南総合運動公園内にある球場。二軍が利用しているが、日南入りが一軍よりも少し遅いため、キャンプ序盤は一軍選手も利用できた。

(プロフィール)
小松剛
1986年、高知県生まれ。室戸高から法大に進み六大学野球を舞台に活躍。2008年のドラフト会議で、広島東洋カープから3位指名を受けて入団。1年目には7度の先発を含む25試合に登板し5勝を挙げた。2013年オフに選手を引退してからは球団の広報業務を担当している。


BBCrix編集部