“特別指定選手枠”がネックとなりMLS行きは困難か

 セリエAで13試合連続出場なし、2017年に入ってからは1月25日のコッパイタリア、対ユヴェントス戦の後半ロスタイムに出場したのみと、所属するミランで試合から遠ざかっている本田圭佑。3月下旬に行われる2018年ロシア・ワールドカップ アジア最終予選の日本代表メンバーには招集されたものの、試合勘の欠如が不安視されている。

 ミランとの契約は今年6月30日まで。今のところミラン側にこの契約を更新する意思はなく、シーズン終了後の移籍が確実視されている。気になる移籍先の候補として、中国超級リーグの上海上港や、1月の移籍市場でオファーを送り、本田に断られたイングランドのハル・シティ、トルコのフェネルバフチェなどの名前が挙がっている。2月下旬には、MLSのシアトル・サウンダースへの移籍が秒読み段階に、という報道も出た。

ミランに所属する日本代表のMF本田圭佑がMLS(メジャーリーグ・サッカー)のシアトル・サウンダースへ移籍目前であると、イタリアメディア『TuttoMercatoWeb』が報じている。 (中略) これまでプレミアリーグのサンダーランドやハル・シティ、MLSのLAギャラクシーなどから問い合わせを受けたほか、1月の移籍市場閉幕間際にはラツィオからの電撃オファーが報じられたが、結局ミラノからの“脱出”は叶わなかった。
ミラン本田圭佑がMLSシアトル移籍へ合意目前…伊メディア独占報道 - Goal.com

 MLSの移籍市場が2月14日から5月8日まで開いていることも噂の信憑性を高めたが、その後、移籍成立の報道は聞こえてこない。実際のところ、本田がシアトルに移籍する可能性はどれぐらいあるのだろうか。

 報道が出た時点ではMLSはまだ2017シーズンの開幕前だったが、3月4日にシーズンが始まっている。また、MLSはチームの年俸総額に制限を加える「サラリーキャップ制」を導入しており、その制限を受けずに高額年俸を受け取れる「特別指定選手」は1チームあたり3人となっている。MLSの平均年俸は4000万円弱だが、本田がミランで受け取っている年俸は3億円弱。サラリーだけが判断材料ではないとは言え、現実的に考えれば本田側は特別指定選手としての契約を望むはずだ。ただ、サウンダーズにはアメリカ代表FWクリント・デンプシー、元キューバ代表MFオスバルド・アロンソ、ウルグアイ代表MFニコラス・ロデイロと3人の特別指定選手がいるため、本田が入り込む余地はない。たとえ通常の契約で加入したとしても、ロデイロやデンプシーとのポジション争いが待ち受けており、ミラン時代と状況が変わらなくなる可能性もあるため、サウンダーズ移籍の確率は低いのではないだろうか。

“オーナー兼選手”としてプレーする選択肢も

©Getty Images

 1月に噂があったフェネルバフチェはどうだろうか。「10番タイプの選手を求めている」ということで本田の名前が取り沙汰されたが、1月の移籍市場でタイプが似ているオレクサンデル・カラヴァエフを獲得したため、本田の線は立ち消えになった。来シーズンに向けてのチーム編成で再び本田に食指を伸ばす可能性はあるが、このクラブは現在、UEFAのファイナンシャル・フェアプレー制度に接触する可能性があるため、補強や選手のサラリーに多くの資金を投入できない。サンダーランドからレンタルで加入したオランダ代表MFイェレマイン・レンスの買い取りにも二の足を踏み、レンタル延長を打診するほどの状況の中、本田の獲得に積極的に動くとは思えない。

 日本に復帰する可能性はないだろうか。イギリスの通信会社『パフォーム』社と放映権契約を締結したことによってJリーグには巨額資金が流れ込み、ヴィッセル神戸が獲得した元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキの年俸は9億6000万円と言われているほどなので、J1リーグのクラブが本田を獲得するのは十分に可能だ。人気や注目度の高さを考えれば、古巣の名古屋グランパスを始め、J2リーグのクラブが獲得に動いてもおかしくはない。本田とクラブ、双方の思惑が一致すれば、J復帰の可能性はゼロではないだろう。

 ヨーロッパにとどまることを望んだ場合、“大穴”的なクラブが一つある。本田自身がオーナーを務めるSVホルンだ。今シーズンはオーストリア2部で戦っており、2017年3月21日時点では10チーム中7位。1部昇格は難しく、3部に降格する可能性もある状況だが、来シーズンも2部で戦うことになった場合は、08-09シーズンのVVVフェンロ時代同様、自らの力でチームを1部に昇格させるというミッションに挑むことができる。彼自身が移籍すれば注目度が高まってスポンサーも増えるだろう。自らを“商品”としてクラブの収入を高める。ビジネスマンとしての本田にとっても悪い話ではないはずだ。

 オーストリアリーグは外国籍選手の制限が他国に比べて緩いため、その点を考慮する必要もそれほど大きくはない。加えて、SVホルンでは現在、本田を名古屋にスカウトした張本人であり、本田自身がSVホルンに抜擢した人物でもある濱吉正則監督が指揮を執っている。本田の能力を知り尽くした指揮官であれば、自然と本田を中心としたチーム作りが進むだろうし、ともすれば本田が“ピッチ上の監督”として振る舞うことも可能だ。

 今の本田が抱える様々な野心に応えられるクラブとして、SVホルン以上の存在はなかなか見当たらない。オーナー兼任選手としてピッチに立ち、クラブとチームを力強く牽引する本田圭佑。かなり魅力的ではないだろうか。


池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。