[CLOSE UP]川村卓也(横浜ビー・コールセアーズ)劇的な勝利を演出した『千両役者』が横浜で見つけた『充実感』
劇的決勝弾を別にすれば、得点よりもサポートで働いた試合 千葉ジェッツに競り勝った4日の試合、残り1.7秒の最後のポゼッションを託された川村卓也は、劇的な決勝ブザービーターを決めて勝利の立役者となった。 36分半のプレータイムで15得点を挙げてはいるが、スタッツを見るとフィールドゴール率は18本中5本の27.8%と冴えない。それもあって会見に姿を見せた川村は、劇的な勝利の後にもかかわらず「僕がもうすこし確率良くシュート決めていれば、もっと楽な展開になったと思う。うれしい半面、反省の多い試合でした」と落ち着いて試合を振り返り始めた。 スタッツでは得点以外の部分、6リバウンド7アシスト4スティールこそ、この試合の川村のプレーを表している。シュートタッチが悪い中でも、様々な形でチームに貢献し、劣勢の中で耐えるゲームを支えてきた。 「自分がシュートを打って、入らないから何もやらないまま交代する。20代前半の僕だったらそうかもしれません」と川村は言う。「今の年齢、経験を重ねてきて、シュートが入らないなら味方を生かしたり、ディフェンスを頑張ったり、最低限やらないといけないことをやって、たまたま数字が乗ったのが今日であって。36分出ている中で考えながら動いていたら数字につながりました」 「シュートだけの川村というのはもうお腹いっぱい」と、川村はおかしそうに笑う。「シュート以外でも川村がいたら(相手にとっては)面倒くさいでしょう」 『決めてやる』という気持ちがあれば入ってくれるもの 富樫勇樹に3ポイントシュートを決められ、70-70と追い付かれた場面。最後のチャンスを決めない限りは勝てないと川村は判断していた。「残り1.7秒、あそこで託してくれて自分が決めれば、苦しい思いをせずに明日に備えられると思いました。過去にああいうシュートを何本も決めたし、何本も外してきたし」と川村は言う。 「自分がビーコルに来て、ずっと勝ちたいと思っている中で積み重ねた思いを、今日は一つのシュートに乗せられたと思います。チームが『タクで行こう』と言ってくれる今の状況に感謝しています」 重すぎる一本を託される時の気構えを、川村は「絶対に気負わないこと」と語る。「自分が決めてやるという前向きな気持ちだけを持って取り組んでいます。チームが僕に託してくれたということは、それが入っても入らなくても、チームとしてやるべきことであり、僕が託された仕事の一つです。技術的なことはそのシチュエーションによって変わってきますが、今日みたいに僕がシュートが入らない中でも『決めてやる』という気持ちがあれば入ってくれるもの」 ここで不意に例に挙げたのが『神様』の言葉だった。「30分の0でもオレは打ち続けるってマイケル・ジョーダンは言っていました。いくら外れても果敢に攻め続けること、打ち続けることは常に心掛けています。そういう気持ちが、ああいうシュートにつながるのではないかと思います」 「ビーコルの仲間になっていく過程が僕にはうれしい」 最後のチャンスを川村に託したのは、チームだけではなく3347人の観客も同じだった。ヒーローインタビューで川村は開口一番に「ホームって良いものですねえ」とブースターに語り掛けている。 JBL、NBLでキャリアを積んだ彼は、昨夏に『外様』として横浜にやって来た。シーズン半分を過ぎた今、チームやファンとの関係をこう語る。「最初に来た時はまだ『お客さん』という立場で見られている雰囲気を感じていました。だけどゲームを重ねて徐々に認められて、ビーコルの仲間になっていく過程が僕にはうれしい。ビーコルに溶け込めていると感じます」 「声援というのは特に、京都戦のシューターに3本のフリースローを与えてしまった場面で3本とも外させたというのは僕らにできることではないので。皆さんが楽しみながらブーストして、僕らのことを助けてくれたら、それこそバスケットを見に来てくれてる醍醐味を味わえているのではないか。本当に力強いです」 ヒーローインタビューの最後、川村はブースターと一緒に戦う姿勢を強調した。「僕らはプレーオフに行きたいので一つも落とせない。下位を争っているのは確かだけど、プレーオフを目指して白星を重ねていくつもりです。応援よろしくお願いします」 今日も14時から横浜国際プールで千葉ジェッツと対戦する。昨日の劇的勝利でチームの雰囲気は最高だろうが、相手が格上であることに変わりはない。だがそれでも「一つも落とせない試合」だ。川村と横浜は、ホームでの観客の後押しを必要としている。
文=丸山素行 写真=B.LEAGUE