5歳から18歳までの青少年を対象(日本では小学4年生〜高校3年生)としたNBAバスケットボールスクールのカリキュラムは、同リーグの国際バスケットボール事業部がNBAの現役および元選手、あるいは元コーチ、選手育成のスペシャリストと協議して作成されている。一方で、青少年のバスケットボール育成に特化した株式会社ERUTLUC(エルトラック)の協力を得ながら、日本のこの世代の子どもたちに合わせた内容にもなるという。

 リーグの要旨によれば、同スクールではオンコートでのトレーニングのみならず、ストレングス&コンディショニングやバスケットボール教育にも重点を起き、選手や保護者、コーチ組織が上達と育成の過程を理解し、実行できるように設計されているという。

 今後は参加者はそれぞれの希望によって「ベーシッククラス」と「アドバンスクラス」に分かれ、エルトラックのコーチ2名と、同校の先生2名による指導の下、毎週金曜日の夜に同校で活動に取り組んでいく。

 NBAではやはり少年少女向けのプログラムである「Jr. NBA」やグローバルなバスケットボール育成およびコミュニティ支援プログラムの「バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ(BWB、FIBAとの共同運営)」などがあるが、NBAバスケットボールスクールは授業料制となっており(日本では月8800円)、参加者は継続的に指導を受けられるところが特徴だ。

 5日の体験会で子どもたちの指導にあたったNBAアジア・バスケットボールオペレーションのナタリア・アンドレ氏は、このNBAバスケットボールスクールのプログラムがNBAの選手やコーチらによって開発されているという点で、他のユース向けプログラムとは一線を画したものであると自負した。

 「このプログラムは授業料制となっていて、本当にバスケットボールの技術を伸ばし次の領域に到達したいと望む子どもたちが集まる場所です。NBAバスケットボールスクールはそうした彼らの希望を叶えるものとなります」(アンドレ氏)

参加者と一緒にバスケットボールを楽しむナタリア・アンドレ氏

 NBAアジア・マーケティング&コミュニケーション担当バイスプレジデントのシーラ・ラス氏は、各国のバスケットボールにはそれぞれの特徴や状況があり、NBA側が一方的にカリキュラムを各開催国で押し付けるかのように展開しているわけではないところが良さだと述べている。

 「カリキュラム自体はNBAが中心となって作られているものではありますが、しかし私たちは各国のバスケットボールの事情やどういった運営者がいるかを知る必要がありますし、それに応じてプログラムをカスタマイズできると考えています。

 日本人の子どもたちは中国やフィリピンの子どもたちとはかなり違いますよね? ですからその地域に応じた『味付け』をすることがとても大切なのです」(ラス氏)

 その「味付け」を適切にするために協力するのがエルトラックということになる。同社は2002年に「バスケットボールの家庭教師」事業を興すと、そこから5年後に株式会社化し育成世代へのプログラムを展開。同時に数多くの指導員の育成もしてきた。

 同社代表取締役の鈴木良和氏によれば、約1年半前にNBAから日本での同スクール展開について声がけがあったという。パリオリンピックにも出場する日本女子代表でアシスタントコーチも務める鈴木氏は、ラス氏が述べる通りNBAがカリキュラムを「縛りすぎ」(鈴木氏)ることなく、日本での育成世代の指導に多くの知見を持つエルトラックからもアイディア等を出しつつ、それを融合していったという。

 これまでは関東圏での活動が中心だったエルトラックにとっても、NBAのという圧倒的なブランド力のあるリーグの事業と手を携えられることで子どもたちがバスケットボールを楽しめる機会を全国的に展開ができるようになる可能性が生まれると、鈴木氏は強調する。

 「日本全国に子どもたちがバスケを楽しんで、成長できる場所を提供していけるというのは、僕たちだけではできない、すごい大きな機会を作りうるんだと感じています。本当にそれを成し遂げたらすごい事業になっていくのではないかと考えています」(鈴木氏)

左:株式会社ERUTLUC代表取締役社長鈴木良和氏、右:NBAアジア・マーケティング&コミュニケーション担当バイスプレジデントのシーラ・ラス氏

 近年では渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)や八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)が登場したことも、日本のバスケットボールの人気と盛り上がりに寄与した。「日本人では無理だ」という精神的な障壁が低くなったこともあって、今後も彼らに続く才能が現れることへの期待感は高まっている。

 NBAはオーストラリアで若手養成機関の「NBAグローバルアカデミー」を運営しており、日本からも川島悠翔とジェイコブス晶(現ハワイ大)が在籍してきた。「2人の日本人選手がNBAにいることは後進への道を切り拓いたという点で非常に大きなこと」と強調するアンドレ氏は、NBAバスケットボールスクールを通じて日本の隠れた才の存在が同アカデミーの指導者等の目に触れる可能性を大きくするかもしれないと話す。

 当面は、渋谷教育学園渋谷中高校での開催となるが、同所以外での展開の可能性もあるという。鈴木氏は同スクールの全国的な展開とこれを通じて日本各地で指導者の育成を期待する。

 「僕もヨーロッパなど世界中の育成の環境を見てきましたが、海外では地域で優れている子は良いコーチがいて良い環境にあるクラブに自然と集まってきます。ですが日本はどこに八村塁や渡邊雄太がいるかがわからない。そういう小さい時から選抜されるエリートだけがいる環境ではなくて、日本中のあらゆるところにバスケットが楽しめる場所があることで、選手が出てくる可能性につながると思っています」(鈴木氏)

 ラス氏も、育成世代に対しNBAのリソースを生かしながら同スクールなどの成長の場の提供することで彼らの可能性を増幅させる道を作ることが、同リーグの考える主旨であるとする。

 「Jr. NBAやこのバスケットボールスクール、グローバルアカデミーと様々なプログラムがありますが、この後、さらにもっと多くの選手がこの『パイプライン』に加わってくれたらと考えています」(ラス氏)


永塚和志

スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。