JR南船橋駅から徒歩圏内にできた巨大アリーナ
JR南船橋駅から5、6分ほど歩いた場所に白い巨大なアリーナが現れる。船の航跡とジェット気流をイメージしたというメッシュ状のアルミパネルで外装飾された曲線美のある外装となっている。アリーナとJR高架を挟んだ反対側には、大規模ショッピングモール「ららぽーとTOKYO-BAY」がある。
お披露目記者会見が行われたサブアリーナには、経済担当やバスケ担当の記者やライターが集まったこともあって、記者会見場には100人を超えるメディアや関係者で埋まり、関心の高さが伺えた。
三井不動産の若林瑞穂常務執行役員は、会見で力をこめた。
「ららアリーナ東京ベイはまさにスポーツエンターテイメントを活かし、街づくりの中核を担う事業。コロナ禍を経てスポーツをはじめとするリアルの価値の強さが再認識されたが、世の中のデジタル化が進めば進むほど、人々はデジタルでは得られない感動体験がある五感で感じるリアル体験により高い付加価値を生み出していく時代となっていく」
一方、MIXI木村弘毅社長も決意を新たにしていた。
「千葉ジェッツ専用ホームアリーナ建設はチームのさらなる成長と地域社会への貢献に向けた大きな一歩。この専用ホームアリーナを通じてソフトとハードの融合による新しい体験を創出し、より豊かなコミュニケーションを創造することを目指す。アリーナを地域交流の場として活用して、スポーツを通じた地域社会を活性させる取り組みも積極的に行っていきます」
会見後にはメインアリーナを内覧したが、特に一番ワクワクさせられたのは3階に設置されたVIPルーム。部屋の内装であったり、バルコニーから見えるコート全体の景観など、ラグジュアリーな雰囲気を味わえる作りになっていた。
アリーナお披露目イベントに登場した千葉ジェッツの日本代表・金近廉は「ロッカールームがNBAっぽい」と、この場所がホームアリーナとなる新シーズンを楽しみにしていた。
各地で建設が進む多目的アリーナの背景にバスケBリーグ 大型アリーナを渇望していた千葉ジェッツ
2021年4月に沖縄アリーナ(沖縄県沖縄市)、23年4月にオープンハウスアリーナ太田(群馬県太田市)、23年5月にSAGAアリーナ(佐賀県佐賀市)と、スポーツの試合や音楽ライブなどエンターテインメントに即した大型多目的アリーナが、この数年次々と開業している。他にも、現在建設中だったり、建設計画が決まってこれから建て始めるものも含めるとかなりの数のアリーナが全国で建設が進んでいる。
一つの契機となったのが、バスケBリーグのプレミア化プロジェクト「B革新」。2026年・2027年シーズンから、NBAに次ぐ世界的なリーグへと高めていくべく、リーグのプレミア化を構想した。その参入条件が、売上高12億円、平均入場者数4000名、そして収容人数5000人以上等の基準を満たすアリーナなどだった。さらにアリーナにはVIPルームの設置やトイレの設置数の基準を求めるなど、チーム側にとっては高いハードルとなっている。この条件をクリアするために、Bリーグの各チームが自治体と組んで建設したり、自前で資金調達して建設したりと、アリーナ建設やアリーナの改装などに取り組んでいる。
なかでも大型アリーナを渇望していたのが、リーグ随一の人気チームである千葉ジェッツだ。
千葉ジェッツの田村征也社長は「(これまで)船橋アリーナで試合をしている時には非常に多くの需要を頂いて、昨シーズンのレギュラーシーズンはすべての試合が完売状態。(試合の)チケットが取れないということが課題にもなっていた。アリーナが大きくなったことで、今までは船橋アリーナで4600人ぐらいがマックスなんですけど、それ以上のお客様に足を運んでいただけるような状況になるかなと思っております」と期待をこめた。
とはいえ、これまでの倍の1万人を集客するのは、人気チームとはいえそう簡単なことではない。
「(集客の)プラスアルファの部分に関しては、これまで2年間、我々のお客様のIDや、BリーグのID、LINEのIDといったところを中心にお客様との接点を作るような、いわゆるCRMの施策を非常に積極的に進めていた。開業後は今まで接点持たせていただいたお客様を中心に、集客を図っていきたいなというふうに考えております」
冒頭のお披露目会見で、MIXIの木村社長が「(千葉ジェッツの)ファンクラブ会員数は9145名で前年と比べ約4000名増加しました。さらにグッズ売上高やスポンサー収入、SNSフォロワー数も右肩上がりで、その影響力は拡大し続けています」と紹介していた。
また、千葉ジェッツの田村社長は、新アリーナの中で特に力を入れたい、推したいのがVIP向けサービスだという。
「新しいチャレンジになるのが、VIPラウンジとボックス。あの質感とかクオリティは、僕もいろいろアリーナを見てきましたけども、トップレベルではないかと思う。加えて我々のホームアリーナにおいてボックスを我々の方で販売させていただく。来ていただいたお客様には、フルコースの料理を提供させていただいたり、ラウンジではビュッフェ形式でお料理を提供させていただく。そこのお客様のターゲットとしては、いわゆるラグジュアリー層を狙って取っていきたい。食事を提供するパートナーさんも、沖縄で超一流の料理を提供しているところと契約する予定。スポーツエンターテイメントでコース料理を出すっていうのは恐らく今までにない。リッチなラグジュアリーな体験ができるようなVIP事業を運営していければいいなと考えている」
試合観戦チケットとコース料理を合わせて、高価格帯の付加価値サービスを提供し、単価の上昇を狙っていくという。
一般の試合チケット代が上がることを危惧するファンやブースターもいるだろう。田村社長は「VIP席やコート側の席などは単価を高くさせていただければと思っていますが、アリーナの上の階層はお求めやすい価格で提供できればと思っています。イメージとしては、飛行機のファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミーといった様なグラデーションですね」と、ひとまずはこの声を聞いて安心だろう。上の席といっても、すり鉢状に設計されているだけあってコートまで十分近く見える。
商業施設×スポーツで事業力・収益力アップに繋げたい三井不動産
一方で、新たな取り組みとして熱が入るのが三井不動産だ。オフィスビル、ホテル、リゾートなどの開発、運営であったり、ミッドタウン、ららぽーとなどといった大型商業施設を数多く手がけている。中でも、近年はスポーツを生かした事業に力を入れている。
ららぽーとでスポーツイベントや3x3(3人制)バスケの大会を開いたりするなどし、ららぽーとへの集客と滞留を図っている。そして、2021年には東京ドームをTOB(株式公開買い付け)で買収して子会社化。大型スポーツ施設を手にしたことで、自前でのスポーツエンターテインメントビジネスへの関わりを本格化させている。今回の「ららアリーナ東京ベイ」は、三井不動産にとって初めてイチから作った本格的な大規模アリーナ。運営に関してはMIXIがメインである合弁会社TOKYO-BAYアリーナマネジメントで行っていくことになる。今後は「東京ドームの興行ビジネスで培ったブッキングやマネジメントの経験を、ららアリーナ東京ベイでもいかしていく。人材交流も行っていく」(三井不動産・肥田雅和執行役員)という。
千葉ジェッツのリーグ戦だけでなく、既にMr.Childrenのコンサート、アイススケートのショー、サッカー元日本代表・本田圭佑が主催する4人制の大会といったイベントも続々と決まっている。
三井不動産にとって新規事業の部類であり、期待のかかるプロジェクトでもある。「ららアリーナを訪れた来場者が隣接するららぽーとにも足を運んでもらうような仕掛け作り、相互送客を取り組んでいきたい」(三井不動産・肥田雅和執行役員)
2024年3月期の三井不動産グループの決算資料によると、連結営業収益が約2.3兆円で、そのうち施設営業は8%ほど。さらにその内訳を見るとスポーツ・エンターテインメントは28%(ホテル・リゾートが72%)。単純計算だと約515億円となる。割合としてはまだまだ同社にとっては小さいが、今回の様なアリーナで施設営業の収益が多く見込めるであろうし、ららアリーナを生かしてららぽーととの相乗効果も期待できるだろう。隣接するアリーナが、大型商業施設への集客や売り上げにどれほど貢献するのか、三井不動産にとっては重要な実験の場と見ているだろう。もしここで成功を収められれば、同様のパッケージを今後、三井不動産が持つ他の大型商業施設でも検討していくかもしれない。
スマホゲーム会社からスポーツリアルエンターテインメント会社へと変ぼうしつつあるMIXI
そして、MIXI。当初はソーシャルネットワーキングサービスで、その後はモンスターストライクを代表する様にスマホゲームの会社として大きくなっていった同社が、この5年で力を入れているのがスポーツ事業。
依然として主力事業は人気スマホゲームのモンスターストライクがあるデジタルエンターテインメント事業ではあるが、収益自体は右肩下がりとなっている(それでも十分な利益をまだ出してはいるが)。それに代わる収益の一つとして投資しているのがスポーツだった。2019年に千葉ジェッツ、2021年にはサッカー・JリーグのFC東京を子会社化している。スポーツ事業の中では、スポーツベッティングサービス「TIPSTAR」、チャリ・ロトのオンライン車券販売高が大きな割合を占めているが、この新アリーナによってスポーツ事業の収益増が期待できるだろう。スポーツ事業を拡大したいMIXI側にとって、新アリーナができたことは非常に大きい。
新アリーナでは、千葉ジェッツの試合以外にも、モンスターストライクの毎年恒例の大規模イベントが7月に開催が決まっていたり、他にもモンスターストライクの全国大会などを行っている同社は、新アリーナができたことでより自前のIPを収益化しやすい環境にはなっている。
この様に三者三様の思惑が上手く重なったことで完成したアリーナともいえる。
続々控える次なる大型アリーナ 愛知にはアジア随一規模
ららアリーナ東京ベイに続き、今年10月には長崎、来年6月には東京・お台場でも大型アリーナが完成予定だ。先日の6月17日には、来年7月にオープン予定のIGアリーナ(愛知県)の内覧会も行われた。まだ建築途中ではあったが、名古屋市中心部の立地ながら1万7千人が収容可能な国内最大級のアリーナとなる。こちらもバスケBリーグの名古屋ダイヤモンドドルフィンズがホームアリーナとする。
Bリーグの島田慎二チェアマンは6月18日のメディアブリーフィングで、続々とできるアリーナへの期待について問われると「素晴らしいですね。今年、来年と続々とできて。バスケ界の発展だけじゃなくて地域創生リーグとうたって、地域を盛り上げていくために、経済効果を常にもたらすためにも、バスケだけではなく、色んなエンターテインメントを誘致しながら貢献していこうといっている」と話し、「Bリーグの成長戦略において、アリーナは1丁目1番地。これまでに沖縄、群馬の太田、佐賀に(本格的な)アリーナが3つできましたが、B1の平均入場者数のランキングのベスト5に、その3つが入っている。オーナーの力も大きいけど、アリーナの力も大きい」と答えた。
人を呼べる大規模多目的アリーナが出来たことによって、その地域にもたらす影響は間違いなくある。ららアリーナ東京ベイは、南船橋エリアにどんなインパクトをもたらしてくれるだろうか。