Bリーグは2024年12月26日、Bプレミアのライセンス交付クラブ発表会見を実施し、26クラブが26年秋に開幕する同カテゴリに参入することを公表した。事業規模などでカテゴリ分けする構造改革「B.革新」のもと、競技成績による昇降格制を廃止し、平均入場者数(4000人以上)、売上高(12億円以上)、一定基準のホームアリーナなどの参入条件が設定された中、出色の勢いで注目度を高め、早々と2次審査までにライセンス交付を決めたのが、人口22万人ほどの街、群馬県太田市をホームタウンとする群馬クレインサンダーズだった。
23-24シーズンの平均入場者数は5244人。ホームとするオープンハウスアリーナ太田のバスケ興行時の座席数約5,000席(昨季時点)を上回る、稼働率100パーセント超えという驚異の数字をたたき出した。今季開幕前に行われた会見でその事実が報告されると、どよめきと笑いが起こったほど。シーズンの観客動員数はBリーグ3位の15万7320人と、13位だった前年から約6万人も増やした。
なぜ、それほどまでに群馬のバスケットボール熱が高まっているのか。10月17日に配信されたポッドキャスト番組「島田のマイク」でのBリーグ島田慎二チェアマンの発言が、背景を端的に言い表している。
「エンターテインメントとしてのあか抜け感とファンの皆さんの熱狂感はすごい」
島田チェアマンは今季開幕戦を視察。そこで実感したのが、圧倒的な「演出力」だったという。その「演出力」の原動力となったのが、23-24シーズンからフル稼働した新ホーム、オープンハウスアリーナ太田の存在だ。19年、創業者の荒井正昭社長が群馬県太田市出身という縁もあり、不動産事業を展開するオープンハウスグループが群馬クレインサンダーズの運営会社を子会社化。B2で準優勝経験がありながら、運営会社の債務超過などが原因でB1昇格を果たせないなど経営面で苦しんでいたクラブの再生、さらにバスケを軸とした壮大な地方創生・地域活性化プロジェクトが、ここからスタートした。
「本当にゼロから考えないといけないと思ったのがMAをした当初の思いです。その時にまず、新しいアリーナをつくる必要があると感じました」
群馬クレインサンダーズの吉田GMは、そう振り返った。そもそも群馬には東京、沖縄、愛知などのようなバスケットボール文化がなく、プロスポーツチームを一丸となって応援しようという空気も醸成されているとはいえない状況だった。
中央大学時代に体育会バスケ部で活動していた吉田GMだが、「競技が好きな人も、そうではない人も楽しめる。試合の結果や内容にかかわらず、ここに来ればみんながワクワクする。そういう場所をつくる必要がある」と、スポーツの競技性以上にエンターテインメントとしての側面にバスケットボール、Bリーグの可能性を見出していた。それまでは市民が利用する体育館に会場を即席で設営するような状況だったが、B1昇格を果たした21年に前橋市から太田市に本拠を移転すると、太田市と官民連携体制を整え、他チームに先行してBプレミアの基準に合致した仕様のホームアリーナ建設を本格化させた。
企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)を利用し、総事業費約82億円のうち約44億円をオープンハウスグループが太田市に寄付するスキームを構築。23年4月の竣工後は、指定管理法人としてアリーナとクラブの一体経営を実現させ、ネーミングライツも取得するなど整備を進めた。
「スポーツビジネスではなくスポーツ“エンタメ”ビジネスをやるんだというのは、今でも強く意識しているポイントです。バスケットボールがまだ根付いていない場所でビジネスをやるのだから、バスケだけをやっていても仕方がない。エンタメ要素を全ての面で強めていく。ですので、演出にこだわったことは必然でした」と吉田GM。アリーナ建設の担当者と米プロバスケットボールNBAの視察を重ね、テーマとして定めたのが「非日常感」と「没入感」だった。
単に大きな“ハコ”を求めるのではなく、人口22万人ほどの太田市に見合った5000人前後のコンパクトな設計とし、そこにNBAで使用されている日本最大級のセンターハングビジョンを設置。50機のスピーカーと24機のサブウーハーからなるフランス、エルアコースティックス社のサウンドシステムを国内のバスケットボールのアリーナとして初めて導入し、どの席でも最高の臨場感を味わえるNBAクラスの観戦環境を構築した。
こだわりはハード面にとどまらない。総合演出はプロ野球やJリーグなどでブランディング、クリエイティブの企画制作を担い、高い評価を受けている株式会社バスコム(本社・東京都渋谷区)が担当。演出チームには、各分野のトップクリエイターをぜいたくなまでに集めた。
音楽のプロデュースを「TOKYO No.1 SOUL SET」などで活躍する川辺ヒロシ氏が担当。DJはスクラッチ技術の世界一を決める大会「DMC WORLD CHAMPIONSHIP」で優勝したDJ IZOH氏が務めている。同大会はさきの紅白歌合戦にも出場したCreepy NutsのDJ松永氏が制したことでも知られ、まさに世界の音楽シーンで活躍する面々が「音」をつくり出している。ライブエンターテインメントで活躍する照明やレーザーの特効で固め、今季の映像は広告やミュージックビデオなどで世界に名をはせる「CEKAI」が制作。カメラマンには広告や音楽業界で活躍中の新進気鋭のクリエイター、川上智之氏を起用した。
吉田GMは「これまでバスケットボールの演出をしてきた方たちにこだわるのはやめようと、各分野で一流の方々による演出チームをつくりました」と説明する。バスケ界の常識にとらわれない演出で、オープンハウスアリーナ太田の「非日常感と没入感」を実現。24年度のグッドデザイン賞も受賞したコンパクトなアリーナが、演出という武器によってビッグなインパクトを生み出し、多くの人々を惹きつけているというわけだ。
そうした取り組みが、冒頭でも紹介した全試合満員どころか、100%をも超える驚異の座席稼働率となって結実している。売上もチケットやグッズ販売、ファンクラブ会員の増加で前年比126.4%の20億円超に達し、リーグトップ5の規模に成長。クラブの財政状況が良くなればチームの強化にまわせる費用も増える。23-24シーズンはチャンピオンシップ出場こそ逃したものの、31勝29敗とB1で初の勝ち越し。クラブ経営とチーム運営の両輪がかみ合い、好循環が生まれ始めている。
吉田GMは、アリーナ建設と演出の強化について、「想像以上に大きな影響を感じています。集客はもちろんのこと、印象的なのは選手のリクルートにもつながり始めていること。実際に今季からは選手のリクルートの際にオープンハウスアリーナの演出の映像を見せており、ほとんどの選手の目の色が変わるし、ここでプレーしたいと思ってくれたり、クラブの本気度を感じてもらえたりするようになっている」と経営面にとどまらない相乗効果を証言。B1東地区2位(25年1月4日現在)という好成績を収める中、「有望の選手や指導者が集まって来てくれている点でも、このアリーナの影響は大きいと感じている」と続けた。
そして、何より象徴的なのが、吉田GMのこの言葉だ。
「アミューズメントパークで言えば、ディズニーランドやUSJのようなポジションを目指したい」
Bリーグの他クラブどころかスポーツの枠をも超えた世界的なコンテンツを“ライバル”に定める姿勢が、まさにクラブの今を示している。地域に新たなエンタメを根付かせ、全国トップ級のバスケ熱へとつなげている群馬クレインサンダーズ。ホームタウンの太田市、オーナー企業のオープンハウスグループ、そして群馬クレインサンダーズが三位一体となって推進するアリーナ運営、クラブ運営の未来に熱い視線が注がれている。