文=日比野恭三

ビジターも含めて全試合視聴できる環境を整えることの難しさ

 ケーブルテレビ(CATV)の4月の番組表が自宅に届いた。表紙には大きく「プロ野球開幕!」の文字が躍る。地上波放送が激減したいま、プロ野球中継はCATVの主力コンテンツの一つになっている。

 さらに「保存版」として、「2017年 日本プロ野球 公式戦日程」と題した別紙が添付されていた。すべてのカードと、その試合を放送するチャンネルが一覧にまとめられている。いつも、見たい試合にたどりつくまでの“チャンネル探し”に途方に暮れてしまう身としては、とても助かる資料だ。

 アイコン化された放送チャンネルの凡例が紙の右肩に載っているのだが、その数はじつに20。球団は12しかないにもかかわらず、CATVでは20ものチャンネルにわたって試合が放送されるということだ(地上波は含まれていない)。

 一つの試合を複数のチャンネルで同時に中継することもたしかにあるが、日程表を細かく見ていくと、多チャンネルの複雑さに思わず頭を抱えたくなってくる。特に痛感するのは、贔屓の球団の試合を「ビジターも含めて全試合視聴できる環境を整えることの難しさ」だ。

 各球団の主催試合を中継するチャンネルはおおむね固定されている。下記に示した“基本の関係”をまずは抑えておかねばならない。

日本ハム=GAORA
ソフトバンク=FOXスポーツ&エンターテイメント
ロッテ=TBSニュースバード
西武=フジテレビTWO
楽天=J SPORTS1/J SPORTS2
オリックス=J SPORTS3

広島=J SPORTS1
巨人=日テレG+
DeNA=TBSチャンネル2
阪神=GAORA/スカイA
ヤクルト=フジテレビONE
中日=J SPORTS2

 ホームゲームだけ見られればいいという考え方なら、基本的には上記のチャンネルのうち、好きな球団の試合を中継している1つが見られるようにすればいいだけで話はシンプルだ。

 だが、シーズンの半分、70試合以上はビジターゲーム。やはりそこもしっかり見ておきたいとなれば、いまは交流戦もあるので、上記のチャンネルすべてを見られるようにする必要がある(細かく論じるとキリがないので、いくぶん単純化している)。

 その点、スカパー!の提供する「プロ野球セット」(月額3980円+基本料421円)は、「12球団公式戦全試合放送」を謳っていて、とてもわかりやすい。だが、CATVのほうはそうわかりやすく言い切れない事情を抱えているようだ。

広島と阪神と中日のファンがCATVで全試合を追いかけることは不可能?

 各球団の主催試合を中継するチャンネルはおおむね固定されている、と先述したが、ところどころ、イレギュラーな放送体制となっている試合が見受けられるのだ。整理してみると、それらは3種類の対戦カードに集約される。

 ずばり「広島対巨人」「阪神対巨人」「中日対巨人」の3つだ(前に書いたほうが主催球団)。

 広島対巨人は13試合のうち12試合が空白、つまりどのチャンネルでも放送されない予定となっている。残る1試合は、メインのJ SPORTS1ではなくフジテレビONEが担当する(※筆者の手元にあるCATVの日程表に基づく。以下同)。

 阪神対巨人は12試合のうち2試合が空白だ。他球団との対戦カードはGAORAとスカイAの2局中継が基本だが、巨人戦だけはGAORAのみが2試合、スカイAのみが4試合、またそれとは別にBS1が4試合という形で中継される模様。

 中日対巨人は13試合のうち7試合が空白。残る6試合は、メインのJ SPORTS2ではなく、フジテレビONE(3試合)とフジテレビTWO(3試合)が中継する。

 CATVが放送しないのは、その試合の放映権が専ら地上波用に売られたためだろう。買い手は多くの場合、民放ローカル局だと想像される。いまだに巨人戦の放送は、他のカードよりも視聴率を稼げる“利権”なのだろうか?

 とにかく、広島と阪神と中日のファンがCATVで全試合を追いかけることは不可能らしい。欠落した巨人戦が居住エリアの地上波で放送されればよいが、そうでなければ“穴”は埋められないだろう。

 パ・リーグ球団のファンにとっては、動画配信サービス「パ・リーグTV」(月額1566円)の利便性は高い。パ・リーグ公式戦の全試合に加えて交流戦の巨人主催試合、阪神主催試合も含まれている。しかし、やはり、巨人・阪神以外が主催球団となった交流戦の試合はカバーしきれない。

 特定の球団の143試合すべてを追いかけたい――そんなシンプルなファンの望みを叶えることはかくも難しい。

 Jリーグの放映権を10年総額2100億円で買い取った「DAZN(ダ・ゾーン)」のジェームス・ラシュトンCEOは、以前、こう語っていた。

「我々は日本のスポーツファンにとって野球が非常に重要なスポーツであることを理解しています。もし12球団の放映権について長期的な契約を結ぶことができるとすれば、それは大変貴重なチャンスだと思います。ぜひ、そうした交渉が始まるといいのですが(笑)」

 DAZNによるJリーグ中継は運営上の課題を指摘されてはいるが、「そことさえ契約すればすべて見られる」という、視聴者にとっての簡便性の高さはプロ野球中継の現状と比べるまでもない。

 歴史的なしがらみを解きほぐし、煩わしさや“見たいのに見られない”もどかしさからファンを解放し、いつでも手軽に試合を視聴できる環境をつくること。それは時代の要請だと強く思う。


日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。