文=松原孝臣

強化のために「関心を高める」必要があった

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 2016年のリオデジャネイロ五輪では、さまざまな競技で日本選手の活躍が目立った。その中でも、目を引いたのがバドミントンである。女子ダブルスで高橋礼華・松友美佐紀組が日本バドミントン初の金メダルを獲得し、女子シングルスでは奥原希望が銅メダル。そのほか、女子シングルスで山口茜、男子ダブルスで早川賢一・遠藤大由組、ミックスダブルスで数野健太・栗原文音組が5位入賞。かつてない好成績で躍進した。

 実はバドミントンの活躍は、リオ五輪に限ったことではない。近年の国際大会で結果を残し続けているのだ。世界選手権などでのメダル獲得も珍しいことではなくなった。

 以前には見られなかった成績をあげられるようになった背景には、協会が主導して取り組んだバドミントンへの関心を高める戦略がある。バドミントンへの関心が高まるきっかけとなったのは、「オグシオ」こと小椋久美子・潮田玲子組だった。ブームと言えるほど人気のあった彼女たちはメディアでも広く取り上げられ、スポーツ総合誌の表紙を飾り、写真集まで出るほどだった。

 それらは、日本バドミントン協会が仕掛けたものだった。写真集は競技団体公認で、メディア出演の働きかけ、2人のポスター起用などを積極的に行なった。日本バドミントンを強くしたいという思いからだ。

増加した収入を無駄なく強化費用に

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 どうして関心が高まれば、強くなれるのか。そこには、日本の競技システムが関係している。バドミントンをはじめ、少なくない競技団体は、協会登録選手から登録料を納めてもらっている。つまり、登録選手が増えれば増えるだけ、登録料も増加する。

 オグシオがブームとなるとともに、バドミントンをやりたいという子どもが多くなり、狙い通り、登録料という収入が増加した。それを無駄にすることなく、強化費用にあてた。ジュニア年代から全国大会を開催して有望選手を発掘し、さらにシニアからジュニアまで積極的に海外遠征させた。それが実を結んだのが、リオデジャネイロ五輪だったのだ。

 五輪競技の場合、資金難に苦しむ団体は少なくない。強化費用の削減を迫られ、結果、海外遠征などで選手が身銭を切らざるを得ない場合も目にする。コーチやサポートスタッフの不足も珍しくはない。その中で成績を向上させるのは、非常に困難だ。

 スポンサー集めをはじめとして、資金をいかにして獲得するかその方策を見出すのは容易ではない。その苦労を知った上で、ただ、本当に可能性がないのかどうか、あと一歩、知恵を絞ってみるのも重要ではないだろうか。

 小椋と潮田の写真集が出たとき、「アマチュア競技の選手が写真集?」と五輪競技の連盟関係者から驚きの声があがったことを思い出す。そのときのトーンを考えると、おそらくは、日本バドミントン協会の強化へとつなげる戦略には思い至っていなかったように思う。

 普段から心がけ、網を張っていたからこそ、バドミントン協会は、2人の人気を好機と捉え、成功に結びつけた。それを前例として学べるかどうかで、今はマイナージャンルと言われているスポーツの未来も、大きく変わってくるのではないか。


松原孝臣

1967年、東京都生まれ。大学を卒業後、出版社勤務を経て『Sports Graphic Number』の編集に10年携わりフリーに。スポーツでは五輪競技を中心に取材活動を続け、夏季は2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオ、冬季は2002年ソルトレイクシティ、2006年トリノ、 2010年バンクーバー、2014年ソチと現地で取材にあたる。