文=西部謙司

2試合に大きな違いはなく、十分に合格ライン

 大雑把にみれば2つの試合に違いはない。どちらも内容が結果に反映されていない点では同じで、4-0で勝ったタイ戦のほうがより内容に乏しく、より点差がついているだけだ。日本の試合への取り組み方も同じ。まず相手の長所を潰す。相手の力を削いでおいて、相対的に上回って僅差でも確実に勝利することを狙っていた。結果は快勝と大勝なので、狙い以上の結果が出ている。むしろ喜んでいいぐらいだ。

 メディアが全体に批判的とするならば、これまでの予選と違っているからかもしれない。とくに、4年前は日本が圧倒的にボールを支配し、押し込み、チャンスを作り続け、たまにカウンターを食らうけれども、基本的にはゴールが決まるかどうかという予選だった。しかし、今回はそうではない。アジアのレベル差は小さくなった。圧倒して勝つのが当たり前と思っているから必要以上に批判的になっているのではないか。実際には日本と対戦相手の差はずっと小さくなっているので、今回はとにかく丁寧に戦っていく必要がある。これまではUAEやタイに特段の対策など必要としなかったのに、今回はUAE戦でこれまで使っていなかった4-3-3で臨み、タイ戦では山口蛍、酒井高徳というかなり守備型のボランチを並べる安全策をとっている。それも消極的という印象を与えているのだろう。

 しかし、繰り返すが今予選は丁寧に戦っていくのが正解なのだ。その点では着実に勝ち点6ポイントを積んだ2試合は、十分に合格ラインである。

バランスを崩したUAE戦とビルドアップできなかったタイ戦

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 では内容はどうだったかといえば、どちらもかなり問題があった。

 UAE戦で4-3-3を使ったのは、UAEの4-2-3-1の両サイドハーフが中へ入ってくるからだ。とくに、オマル・アブドゥルラフマンはアジア最高クラスのMFで要注意だった。右サイドに位置して中へ入ってくるオマルに対して、長友佑都と今野泰幸を当てる形になっている。この対策自体は奏功したと思う。しかし一方で、人への意識が強い守備に変えたがためにポジションバランスはかなり滅茶苦茶だった。今野と香川真司が前へ出すぎてFWとMFの間が空くなど、3ラインの間隔はバラバラで、UAEに3つの決定機を作られた。GK川島永嗣のファインセーブと相手のシュートミスがなければ3失点はしていたはずだ。

 タイ戦に関しては、ボランチに負傷者が続出したので酒井高徳の起用はある程度予想されていた。ハンブルガーSVでもこのポジションで活躍していた。ただ、ハンブルガーで求められていたのは守備だった。日本がタイを相手にホームで防戦一方になるとは考えられず、攻撃面でも当然貢献が求められる。ところが、もともとサイドバックである酒井高徳は、相手が背中側にいる状況でボールを受けることに慣れていない。そのためにプレー選択が慎重になりすぎた。簡単にいえばバックパスが多かった。ボールを受けるのを恐がっていた。味方にもそれがわかるから、ボールがボランチを経由しなくなり、スムーズなビルドアップができなくなってしまった。パートナーの山口蛍もさほど組み立てに秀でたタイプではなく、日本の攻撃は行き詰まっていた。

日本の先発メンバーは速攻型

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 さらに、日本の先発メンバーは速攻型である。久保裕也、原口元気の両サイドは、スローダウンしたときに中へ入ってパスワークの軸になるタイプではない。カウンターアタックや攻守の運動量、フィニッシュワークでは活躍できるものの、相手を押し込んだときに難があった。香川だけでは頭数が足りず、両サイドバックも久保と原口にスペースを埋められているために加担しにくかった。

 例えば、4-3-3のブラジルはMFの「3」にさほど組み立てのうまい選手はいない。パウリーニョ(広州恒大)、カゼミーロ(レアル・マドリード)、レナト・アウグスト(北京国安)は、タイプとしては酒井高徳と山口に近いわけだ。しかし、スローダウンしたときには両ウイングのネイマールとコウチーニョがインサイドハーフ化して組み立てができるので、ボランチの構成力不足は顕在化していない。ちなみにインサイドハーフとウイングを兼任する選手は現在の流行なのか、メッシ(バルセロナ)、ディ・マリア(パリ・サンジェルマン)、パイエ(マルセイユ)、アレクシス・サンチェス(アーセナル)など、多くの選手がそうした役割を担っている。ウイング化するサイドバックとのセットだ。

 ただ、今予選の日本は相手を押し込むことを主眼としていない。どちらかといえばカウンター向きの編成なので、久保と原口に問題があるわけではない。彼らはインサイドハーフ化するウイングとは別の役割を担っていて、それは忠実に果たしている。ただ、それゆえに押し込んだときにうまくいかなかった。ボランチの構成力不足を補うアイデアもなかった。ミスが頻発したためにタイに攻め込まれている。

 とはいえ、どのみち現状の日本に満額回答を望むのは無理だと思う。問題は多々あっても、そのうえで結果を出したことが最も重要ではないか。


西部謙司

1962年9月27日生まれ、東京都出身。早稲田大を卒業し商事会社を経て、サッカー専門誌『ストライカー』の編集記者となる。1995年から98年まではパリに在住し、ヨーロッパのサッカーを堪能。その後、ストライカー編集部を離れてフリーランスに。主な著書に『ゴールへのルート』(学研)『FOOTBALL FICTIONS 偉大なるマントーバ』(東邦出版)『戦術リストランテ』(ソル・メディア)『初心者の素朴な疑問に答えたサッカー観戦Q&A』(内外出版社)がある。