文=横井伸幸

労働条件の劣悪さが国際プロサッカー選手会の調査で明らかに

 第一生命保険が全国の保育園・幼稚園児および小学校の6年生までを対象に行っている「大人になったらなりたいもの」アンケートの男児部門で、サッカー選手が7年連続で1位に選ばれていた。海外移籍が珍しくなくなった昨今、納得の結果といえるだろう。プロ選手になれば国際的な舞台で活躍できるかもしれないのだ。

 しかし世界レベルで見た場合、サッカー選手という職業はかなり厳しい。選手間の競争が激しいのはもちろんのこと、労働条件の劣悪さがFIFPro(国際プロサッカー選手会)の調査で明らかになっているからだ。

 FIFPro自身が特に注目したのは給料に関すること。欧州、北中南米、アフリカ、アジアの54カ国87リーグでプレーするおよそ1万4000人に尋ねたところ、「毎月もらっている額は手取りで1000ドル(約11万円)以下」という選手は、なんと45.3%もいた。

 一方で1001ドル以上4000ドル(約44万円)以下は29.1%、4001ドル以上8000ドル(約88万円)以下は11.5%いたが、これだってけっして多くはない。国・リーグによって異なるであろうが、イングランドとウェールズのプロ選手が加入する労働組合PFAの統計を例にとると、選手生活は平均8年で終わってしまう。

 また、たとえ心身は選手生活を続けられる状態にあっても、クラブが契約してくれないことにはプロとしてやっていけない。

 それなのに、アンケートに応じた選手たちの平均契約期間はたったの22.6カ月。育成部門を出てプロ契約を結んだケースでは平均30.1カ月、移籍金が支払われた末の入団契約では平均25.4カ月と多少伸びるが、逆に一旦契約が切れてフリーエージェントとなってしまうと、次にオファーされる契約は短くなる傾向がある(平均19.5カ月)。

 さらに、どれほど少ないにせよ契約上もらえるはずの給金が正しく支払われないという問題もある。定められた日に全額受け取っていると答えたのは全体の58.7%で、残りの4割強は1カ月を超える遅配に悩まされているという。

3つの層から成る世界のサッカー労働市場

©Getty Images

 と、ここまで聞いて、どれもこれも金銭的にネガティブなニュースをしばしば耳にするアフリカの話だろうと思われるかもしれない。

 だが、アンケートによれば、この業界最高の労働市場であるはずのヨーロッパでも状況は大差なし。そこでプレーする選手の30%以上が「1000ドル以下」や遅配を被っている。

 FIFProは世界のサッカー労働市場を3つの層から成るピラミッドに喩えている。
 
 最上部の一番小さな層に属するのは才能とスキルを兼ね備えた一握りのスターで、彼らのほとんどは欧州の5大リーグ(英プレミア、西リーガ、伊セリエA、独ブンデスリーガ、仏リーガアン)でプレーしている。

 2段目の層に属する選手の数はそれより多く、レギュレーションがしっかりしていて比較的経済力もある5大リーグの2部や南米のトップクラブ、北欧や北米などでプレーしている。
 
 そして一番大きな3段目に属するのは東ヨーロッパやアフリカ、中南米のいくつかの国でプレーする選手たちで、彼らは良いプレーだけでなくプロ生活をできる限り長く続けることをも目標に日々を過ごしている。
 
 日本でプロを目指す子供たちは1・2層目だけを見つめて進んでいけばよいが、世界にはその下で過酷な環境と戦っている選手がいることを教えてやるのも悪くはなかろう。


横井伸幸

1969年愛知県生まれ。大学卒業後たまたま訪れたバルセロナに縁ができ、01年再び渡西。現地の企業で2年を過ごした後フリーランスとなった。現在は東京をベースに活動中。記事執筆の他、スポーツ番組の字幕監修や翻訳も手がける。