千葉ジェッツ 島田慎二代表インタビューvol.2「経営と集客って結構似ているというか、経営そのものだと思います」
「ウチは選挙活動が日本一うまいクラブです」 稲葉 千葉ジェッツと言えば観客動員です。どのクラブの社長もジェッツの手法を知りたいだろうし、「何でも聞いてくれ」という話ですので、今日はその秘密を教えてください(笑)。 島田 経営と集客って結構似ているというか、経営そのものだと思います。共通しているのは、どちらも雲をつかうようなもので、フワッとしていることです。経営ってどうやったら良くなるのか、一言では言えません。集客も同じで、だからこそ難しい。不確定要素の中で確定要素を高めていく、確率論を上げていくことですね。要は選挙と一緒なんです。浮動票を固定票につなげていく。「なんとなくジェッツは好き」という人は浮動票で、本当にアリーナに足を運んでくれるかどうか分かりません。いくら選挙活動で握手したって、その人が忙しければ投票に行かないわけです。それとほとんど一緒ですよ。 稲葉 浮動票をフワッとしたまま取り込むのではなく、固定票に変えていく? 島田 集客で最初にやったのは政治家との接触です。政治家の力を借りるんじゃなくて、確実に票を取っていくやり方を学びました。選挙活動と言うと街頭に立って握手する姿を想像するかもしれませんが、ちゃんと自分たちの票田を作り、その票田を普段から回り、票田の人たちの投票日の予定まで調べますよ。それはもう緻密です。ただの口約束じゃない、でも賄賂は渡せない中で、確実にその日に投票所に向かわせる。そのためのコミュニケーションをやっているんですよね。 稲葉 それをジェッツに置き換えるわけですね。 島田 ウチも同じで票田があるわけですよ。船橋アリーナに5000の票を集めるために、確率を高める作業を緻密にやっています。票田は例えばバスケ協会枠、千葉ジェッツ後援会枠、パートナー枠、コアブースター枠、ファンクラブ枠、もちろん浮動票枠もあるし、SNSでリーチする超浮動票枠なんてのもあります。それを全節全試合において組み入れていく。ここで何人、そちらは何人と、パズルみたいな作業です。それで票を読み、「ここは3000人まで見えている、あと2000はこうしよう」、「あと2週間あるからこの手が打てる」とか。それをシーズン通してずっとやっています。 稲葉 なるほど。選挙活動と同じだとおっしゃる意味がよく分かります。 島田 だからジェッツが人気チームというわけじゃないんです。ウチは選挙活動が日本一うまいクラブです。票田を育成し、票を埋める作業を徹底的にあきらめずに毎節やる。やると決めたらやり尽くすという作業をどこよりもやってるのがウチの強さです。地方のクラブだと「ウチなんて何もしなくても3000人は入るよ」というクラブがいて、それはすごいと思うんですけど、ウチは違います。そういう意味では努力の結晶です。 「やると言ったら絶対にやるという空気があります」 稲葉 観客動員は今シーズンになって、さらにドンと増えていますね。 島田 その努力の繰り返しで作った固定票に、エンタテインメントだったり、チームの魅力だったり、勝ち星だったり、富樫勇樹のような人気選手もいる、というポジティブ要因がオンする。それで3000だった固定票が4000になり、4200になり……これが今のジェッツなんです。 稲葉 今のB1にだって、毎試合フタを開けてみなければ何人入るか分からない、という試合運営をしているクラブもあるでしょう。と言うか、少なくないですよね。 島田 そう思います。固定票を作る努力をしないまま、そこにポジティブ要因だけを乗っけると、「先週は3000人だったけど今週は1500人しか入らない」みたいな話になりますよね。口で言うと簡単に思うんですけど、血のにじむような努力をウチはみんなしてるわけです。今シーズンは1試合平均4500人を目標にしています。30試合で13万5000人。やると言ったら絶対にやるという空気がウチにはあります。実際にそれをやってきたので成長もしてきました。 稲葉 この『固定票を作る努力』は具体的な個人へのアプローチとしては何なのですか? 島田 「とにかく来てくれ」、「是非一回見てくれ」と言うしかないですよね。ただ、夢は語ります。「いつかは地元に貢献する強いチームを作るから」と。その中で100人来て、リピーターになってくれるのは10人しかいないかもしれない。ジェッツが弱いからと来なくなったりとか。でも、その努力を繰り返して、「次こそは」、「次こそは」とやっているわけです。 稲葉 この1年で固定票が大幅に増えていると思うのですが、その実感はありますか? 島田 ものすごくあります。まずはネット購買層が飛躍的に伸びています。またスポンサーの方々に買ってもらう分も倍々ゲームで伸びています。後援会を見ても、これまでは付き合いで来ていた人が、今では夢中になって応援してくれています。これまでは我々の営業努力で呼ばれてきた感じだったのが、今は強く感情移入している雰囲気になっています。それは手応えとしてすごくあります。
構成=鈴木健一郎 写真=野口岳彦