文=村上晃一

日本代表ヘッドコーチのジョセフはTeamJAPAN総監督でもある

 ラグビーでは、試合メンバーが絞り込まれる前の大枠の候補メンバーを「スコッド」と呼ぶ。2017年4月10日、新年度のラグビー日本代表スコッド37名が発表された。彼らは、日本で開催される2019年ラグビーワールドカップ(RWC)の日本代表候補でもあり、これから続くサバイバルマッチの舞台に上がることを許された選手たちだ。

 ただし、今回発表のメンバーは、4月22日に開幕するアジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)のためのスコッドで、世界最高峰のプロリーグである「スーパーラグビー」に参戦するサンウルブズの選手の大半は入っていない。ARCと同時期にニュージーランド、アルゼンチンへの遠征があるからだ。

 現在、日本代表の強化は、3つのカテゴリーに分かれて行われている。日本代表、サンウルブズ、ナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)だ。NDSとは、将来日本代表に選出される可能性のある人材に加え、サンウルブズのメンバーのうち遠征に参加しない選手を招集し、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチをはじめとした日本代表スタッフのもと育成、強化し、日本代表、サンウルブズへのスムーズな合流を目指す取り組みだ。

 4月8日、サンウルブズ対ブルズ(南アフリカのスーパーラグビーチーム)戦は、今季のサンウルブズで初めてプレーした選手が多かった。稲垣啓太、木津武士、田村優といった2015年RWCの日本代表メンバーたちもいた。彼らは2015年以降、国内外の試合が続いて疲労が蓄積していたため、国内シーズンが終了した1月からいったん体を休め、NDSのキャンプでのトレーニングで準備し、サンウルブズに合流した。そして、サンウルブズの今季初勝利に貢献したわけだ。

 ジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチは、この3つのカテゴリー、そして日本代表に準ずるジュニア・ジャパン、U20日本代表も含めて、2019年に向かってのTeamJAPAN総監督でもある。サンウルブズはプロチームとして、スーパーラグビーに参戦しているが、「日本代表強化の場」と明確に位置づけられており、ニュージーランド、南アフリカなどの代表選手がひしめく各チームと戦うことで選手層の底上げを狙っている。

 したがって、戦術は統一されており、サンウルブズと日本代表のサインプレー、選手間のコミュニケーションの時に使うコールなどは同じだ。スーパーラグビーの戦績は芳しくないが、若い選手に経験を積ませ、戦術面については着実にレベルアップを続けているし、課題だったスクラムも抜群の安定感を誇っている。

 4月、5月のARCは、日本、韓国、香港がホーム&アウェイで対戦する。あくまで見据えるのはRWC2019であり、直近では、6月に来日するルーマニア代表、アイルランド代表という欧州の強豪に勝つことだ。6月はスーパーラグビーが休止期間のため、サンウルブズの主力も日本代表に合流する。また、現在海外のスーパーラグビーチームでプレーするリーチ マイケル(チーフス)、アマナキ・レレイ・マフィ(レベルズ)、ツイ・ヘンドリック(レッズ)のRWC2015組も参加の意向を表明した。

 6月のメンバー入りを巡る争いはし烈だ。4月10日の記者会見では、報道陣から「若手主体でも圧倒できる韓国、香港との戦いで選手の評価ができるのか?」という質問も飛んだが、ジョセフヘッドコーチは、「日本代表のプレースタイルを正確に遂行できるかどうか、内容で見て行く」と語った。

2015年と比べると大きく変わった日本代表のプレースタイル

©Getty Images

 日本代表のプレースタイルはRWC2015当時とは大きく変わった。前体制のエディー・ジョーンズヘッドコーチは、できるかぎり自分たちがボールを保持し、パスでボールを動かし続け、何度も相手にぶつかりながら防御を崩すスタイル。そのため長時間のハードトレーニングで鍛え上げ、相手より多く走ることが必要だった。

 一方で、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、防御背後に蹴り込むキックを多用して陣地を進め、手数少なくトライを獲りきるスタイルだ。日本代表には海外出身の選手が多いが、それでも強豪国に比べれば、体格、パワー、スピードともに劣っている。そんなチームがどうやって勝っていくのかは日本ラグビーの永遠の課題である。

 端的に書けば、エディー・ジョーンズは、小さなチームは守る時間が多くなると勝てないと考えた。ジェイミー・ジョセフは、体が小さいからこそ消耗戦を避け、体力を温存して最後まで精度高くプレーしたほういいと考える。プレースタイルが違えば、選出されるメンバーも変わる。前体制ではボールをしっかりキープでき、愚直に走り続ける選手が必要だったが、現体制はスピーディーに動き、どのポジションの選手にもパス、キック、ランなどマルチなスキルを求める。2015年の日本代表選手だったからといって、当たり前のように選ばれるわけではないということだ。

 いずれにしても、持たざる者ゆえの工夫した戦いは、綱渡りのような緊張感があり、世界のラグビー関係者、ファンから支持を得ている。RWC2015で南アフリカに勝利したことで、日本ラグビーの存在感は飛躍的に高まり、2016年11月の欧州遠征では、ウェールズのカーディフで行われたウェールズ代表対日本代表戦に約7万4000人の大観衆が訪れた。ここでも日本代表は、終盤に30-30の同点に追いつくなどスタジアムを大いに沸かせた。日本ラグビーは世界のラグビー界のアイドルになりつつある。

 5月10日には、京都迎賓館でRWC2019のプール(組)分け抽選会が行われる。日本代表はすでに出場を決めており、どのチームと同じプールになるのか注目だ。「相手が決まればターゲットを絞ってのチーム作りをしていきます」(ジョセフヘッドコーチ)。2019年までラグビー日本代表の動きから目が離せない。

村上晃一

著者プロフィール 村上晃一

1965年、京都府生まれ。10歳からラグビーを始め、現役時代のポジションはCTB/FB。大阪体育大時代には86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年にベースボール・マガジン社入社、『ラグビーマガジン』編集部勤務。90年より97年まで同誌編集長。98年に独立。『ラグビーマガジン』、『Sports Graphic Number』などにラグビーについて寄稿。