文=横井伸幸
スペインでは3クラブに中国資本が投入
数年前まで欧州サッカー界で幅を利かせていたのは中東マネーだが、最近は中国のお金だ。
今シーズン初めの時点で、かの国と深い関係を持つクラブの数はイングランド、オランダ、チェコ、イタリア、フランス、スペインを合わせて16。注ぎ込まれた金額の合計は19億2900万ユーロ(約2270億円)に及ぶ。
スペインに関していうと、最初に目をつけられたのはアトレティコ・マドリーで、15年1月、大連万達グループ創業者のワン・ジエンリンが4500万ユーロ(約53億円)をもってクラブの全株式の20%を取得した。これは筆頭株主ミゲル・アンヘル・ヒル・マリンの52%に次ぐ数字である。
続いて16年1月、車のラジコン等を製造するRastarグループがエスパニョールの全株式の56.2%を手中に収め、チェン・ヤンシェン会長がエスパニョールの会長の座にも就いた。その後、彼はスペインサッカー史上最大となる1億5000万ユーロ(約176億円)の資本増強を敢行している。
そして同年5月、Link International Sports Limitedのオーナーであるジャン・リージャンが当時グラナダを所有していたイタリア人ジノ・ポッツォと話を付け、3700万ユーロ(約44億円)でクラブを丸ごと買い取った。
サポーターにとって最優先事項はクラブの存続

この手の買収は「金に物をいわせた無粋な行為」と思われがちだが、少なくともスペインの人たちは冷静だ。そもそも、そんな事態になるのはクラブ財政に問題があるから。それゆえ、生粋のサポーターほど国外からの金銭的援助をおとなしく受け入れる。彼らにとっての最優先事項はクラブの存続なのだ。
それを踏まえてエスパニョールの現状を見ると、同クラブのオーナー交替はいまのところ成功しているといえる。
まず、ここ数年間1部残留争いの常連だったのが、今シーズンは終盤に入っても降格圏から遠く離れた9位。次に債務も順調に減っており、新会長誕生の頃の1億7000万ユーロ(約200億円)は1年少々で1億2500万ユーロ(約147億円)にまでなった。GMラモン・ロベルトによると、クラブはこれを「20-21シーズンにはゼロにし、借り入れなしでやっていけるようにする」という。
他方、収入増加も画策しており、今季予想される7400万ユーロ(約86億円)・純利益210万ユーロ(約2億5000万円)を、4年後には1億2500万ユーロ(約145億円)・純利益1000万ユーロ(約12億円)にするつもりだ。
こうした計画性は役員間の混乱が耐えなかったかつてのエスパニョールには見られなかったものである。GMラモン・ロベルトは言う。
「これまでのエスパニョールは会計年度が終わるたび『何をしたか』を説明するだけだったけれど、チーム、ソシオ(クラブ会員)、財政、クラブそれぞれの目標を事前に明確にするようにしました。後に我々の手腕を評価してもらうためです」
では、その目標を具体的にどうやって達成するのか。テレビ放映権やスポンサー契約、選手売却といった従来の収入源を太くするだけでは足りないが――。
「スタジアムを有効活用していきたい。我々の本拠はギネス社とstadiumbusinessawards.comによって10年の世界最高のスタジアムに選ばれたのに、それを2週間に1度の試合の日にしか使わないというのは宝の持ち腐れです」
エスパニョールのスタジアムはコルネヤとエル・プラットという2つの町に挟まれており、脇には5万4000㎡の床面積を持つショッピングモールがある。ここにさらに1万9000㎡の商業施設を作り、スタジアム自体はコンサート等に開放する。
それで年間250万ユーロ(約2億9000万円)。さらにスタジアムのネーミングライツを売って年間最低で350万ユーロ(約4億円)が入ってくるとGMは計算している。
もう一本ある"金のなる木"は現在Rastarのロゴが入っているユニフォームの胸スペースだ。
「16-17シーズンにはスポンサーを見つけて契約を結びたい。年間200万ユーロ(約2億3000万円)にはなるはずだが、この額はエスパニョールの知名度と共に上がる可能性があります」
そこでクラブが重要視しているのが国外市場である。常設ではないものを含めアルジェリア、UAE、米国、日本にサッカースクールを開校してきたエスパニョールは、近々中国やアジアの数カ国にもこのネットワークを広げるという。
「中国にはレアル・マドリーやバルサ、アトレティコがすでに進出しています。しかし我々の会長は中国人です。グラナダを除いて、リーガで唯一というアドバンテージがエスパニョールにはあります」
実際、中国で初めてとなるエスパニョールのペーニャ(クラブ公認のファンクラブ)が昨年広州に誕生している。中国人会長率いるエスパニョールが中国ひいてはアジアにおいて大きな可能性を秘めているのは間違いない。
TEAMマーケティング (UEFAチャンピオンズリーグ) Head of Asia Sales 2017/04/17 14:58
Jリーグも若干の改善を最近行いましたが、外資規制撤廃にまで達していないので、ぜひ本格的な外資規制緩和を!
もっと読む日本では、「外資=悪」、「日系=善」的な、時代錯誤でかなり極端な見方をする向きもあるかと思います。
しかし、20年以上に渡って5ヶ国に移り住んできた経験から、「良い外資も悪い外資もいる」し、「良い日系も悪い日系もいる」ということに、過ぎないかと思います。
ゆえに、Jリーグ側において、外資によるクラブ買収の際に必要なのは(感情論を除くと)、他のビジネスと同様に、自分たちの納得の行く徹底した「Due diligence」のシステムを作れば良いだけの話だと思います。
あとは、根強い外資アレルギーが残る日本ですので、改革を断行する強いリーダーシップも必要ですね。
このまま黙っていれば、少子高齢化社会+人口減(=市場縮小)のダブルパンチで、日本スポーツの縮小も避けられないので、重要な経営資源である「人・金・情報」は、国内外に拘らず、良いものをドンドン日本に持って来るべきだと思います!
Go Japan!
江戸川大学教授 元福岡ソフトバンクホークス取締役 2017/04/17 00:27
外資の導入は、NPB、Jリーグも、新たなステージを切り開くためには、真剣に検討する時期に来ているのではないか、と思います。
もっと読む「イノベーションは非連続的に現れる」ヨーゼフ・シュンペーター。
TVプロデューサー 2017/04/26 18:47
クラブのオーナーがいわゆる「お金持ち」に代わった場合、道楽や趣味の延長なのか、それとも本当にサッカー愛があるのか、が気になります。
もっと読む前者の場合、高給選手を集めるだけ集めて結果を得られず数年で撤退し、選手も一気に去ることでクラブが低迷することが危惧されます。一方後者は、選手獲得だけに偏らず、スタジアム、クラブハウス、練習場、下部組織、有能なフロント収集した組織組成、サポーター獲得施策など長期的視野で資金を投下してくれるイメージがあります。
あえて両極端な例を出しましたが、要は、何かしらの理由で撤退しても資産やノウハウが残るか残らないかが重要だと思うのです。外資は前者パターンになる危険性がより高くなると判断されてしまいがちなのかもしれませんが、であれば、資金の使い方のルールや仕組み作りで出来ることもあるはずです。
つまり、サッカーを愛しているお金持ちならば、外資か外資じゃないかは、あまり意味をなさないのではと思わせてくれた記事でした。