文=渡辺史敏
開催日を変更し、演出に趣向を凝らす
©Getty Images 現地4月27日から29日の3日間、ペンシルバニア州フィラデルフィアでプロ・アメリカンフットボールNFLの2017年ドラフトが開催される。NFLのドラフトは前シーズンの最下位チームから勝率が低い順に指名権が与えられるウェーバー方式の導入で知られるが、指名権自体も将来を含む他の指名権や選手とトレード可能であるなど、戦力均衡やリーグ運営の観点で制度そのものに注目すべき点が多い。加えて、集客、収益イベントとしても発展を続けており、スポーツビジネス面でも見逃せない内容となっている。
ドラフト自体は、全32チームが前述のウェーバー方式で7巡まで指名。FAによる選手流出などの補償指名を含めると毎年250人以上が指名されることになる。同時にトレードも行われるため、各チームとも他チームの動向を見極めつつ、お互いに丁々発止のやりとりをしながら指名が進行していく。緊張感漂う中、補強に向けて刻々と変化していく状況そのものが、ファンを引きつけるのに十分なコンテンツなのだ。
もともとはリーグ内部の行事としてリーグ本部のあるニューヨーク市内のホテルなどで平日に開催されていたが、1980年、スポーツ専門局ESPNがそのエンターテインメント性に注目し、同年から毎年2日間にわたる完全生中継を開始した。すると一定の視聴者を獲得するようになり、結果、NFLは88年からより視聴率が獲得できる土日開催に移行させたのである。
さらに95年からは、ニューヨーク市内のマジソン・スクエア・ガーデンにある劇場で、観客席をファンに開放した集客イベントとしてドラフトを行うようになった。ファンを盛り上げるために導入されたのが、1巡で指名されることが予想される有力選手を会場に招待し、実際に指名されるとステージに登場させ、コミッショナーからの祝福を受けるという演出だ。
祝福の方法も、当初は指名チームの帽子を手渡す程度だったが、近年ではその場で選手名がプリントされたユニフォームを手渡すようになった。指名選手が1巡指名を示す背番号1の名前入りユニフォームを掲げ、コミッショナーと壇上で記念写真を撮るのがお馴染みの光景となっている。
数年前からは1巡より注目度の下がる2巡を盛り上げるため、当該チームの往年の名選手が登壇し、指名の読み上げを行うようになった。今回のドラフトでは22人の指名有力選手が招待されているほか、初めて選手を送り出す側の大学ヘッドコーチが13人招待されるということだ。
一方で、早い指名が予想されていたものの直前になって不祥事などで評価が下がり、会場に招待されていながらなかなか指名されないという事態もまれに起こる。そうした際には控え室で憔悴した様子で指名を待つ選手の姿が映し出され、それはそれでファンの興味を引くドラマになったりするのだ。
集客イベントとして確立、ツアーの募集も開始
©Getty Images こうしてNFLドラフトは人気のイベント、テレビ番組という地位を向上させてゆき、2006年からはESPNに加えNFL傘下のNFL専門チャンネル、NFLネットワークも生中継に加わっている。2010年にはより視聴率を高めるため、最も注目度の高い1巡のみを分けて木金土曜の3日制とした上、1巡の木曜と2、3巡の金曜に関しては視聴者数が多い夜、いわゆるプライムタイムに開催するようになった。
このような人気獲得のための数々の施策は見事にはまり、昨年のESPNによるドラフト1日目の18〜49歳の視聴率は「2.7」で、ケーブル局としては最高を記録。これは同日に行われたプロバスケットボールNBAが記録した「0.7」の約4倍の数字だ。
集客イベントとしての発展も目覚ましい。ドラフト自体の冠スポンサーとは別のスポンサーをつけたパスやキックの体験アトラクション、優勝トロフィーとの記念撮影などを会場周辺に設け、基本的に入場無料で開放し、お祭りムードを高めている。今では会場の指定席チケットや有名解説者のレクチャー、宿泊などもセットになったツアーが販売されるようになった。
開催地についても1965年から14年まではニューヨーク市内に固定されていたが、15、16年のイリノイ州シカゴを皮切りに開催を希望する都市の招致を受けるようになっている。今回フィラデルフィアにはドラフト開催で8000万ドルの経済効果が見込まれているほどだ。
かつては業界内の行事だったドラフトをここまでの“お祭り”に成長させたNFL。アメリカのナンバーワン・スポーツを自負する彼らのエンターテインメントとビジネスに対する貪欲さは、さすがという他ない。日本のスポーツ界にとっても見習うべき点が多そうだ。