インタビュー=池田純、岩本義弘

《中編》[池田純インタビュー]UCLA大アメリカンフットボール部 庄島辰尭「UCLAとアンダーアーマーの契約金は15年で310億円」《前編》[池田純インタビュー]UCLA大アメリカンフットボール部 庄島辰尭「スカラーシップの85人に入れる選手に」

日本のプロ以上の環境があるアメリカ大学スポーツ

池田 UCLAのカラーは、何色なんですか?

庄島 水色と黄色ですね。先ほど、ちょっと日本とアメリカの違いの話をしましたが、スクールカラーとかの統一性も違うかなと感じます。UCLAでは、どのスポーツでも売っている洋服などは全部水色と黄色で統一されているのですが、日本では同じ大学でも競技によって全然色が違ったりしますよね。そういうものが統一されていなかったところも見たことがあるので、そこはアメリカと日本で違うかなとは感じました。

岩本 UCLAは、バルセロナと並ぶ規模なんですよね。バルセロナは、総合スポーツクラブでいろんな競技をやっていますが、サッカー以外の競技も、チームカラーは全部あの色なんです。アンダーアーマーの契約金を考えても、世界のトップの中のトップとUCLAは張っているんでしょうね。

池田 UCLAのある地域というのは、なんていう地域なんですか?

庄島 UCLAがある地域はウェストウッドという地域なんですけど、ハリウッドからちょっと海岸沿いに10分ほど行ったところです。近くにサンタモニカとか、ダウンタウンほど大きな町ではないんですけど、南カリフォルニアの中ではとても大きな町ですね。

池田 住んでいる人は、大学生ばかりじゃないですよね?

庄島 学校の周りは学生も多いんですけど、近くに大きな病院もあり、一般住宅地もありますので必ずしも学生街かというと、そういうわけでもありません。ちょっと離れればビバリーヒルズやブレントウッドなどの高級住宅街もあったりしますね。

池田 大学と地域の関係はどうなんですか?

庄島 ウェストウッドとか、南ロサンゼルスエリア、西ロサンゼルスエリアというのはUCLAに対してとても良いイメージがあります。町を挙げてUCLAをサポートしていて、キャンパス近くのレストラン、映画館、エンターテイメントは、学生割引があったり、レストランの外や住宅地にUCLAの旗が飾ってあったりします。キャンパスをちょっと離れても、ロサンゼルスの町の人たちが、UCLAをバックしてくれているという感じは受けますね。

池田 地域の人たちは、大学のスポーツ施設に入れるのですか?

庄島 自分が個人でトレーニングしている大学構内のスポーツジムは、一般にあるようなスポーツジムと同じ扱いなので、契約をすれば、学校外の人たちも自由に使うことができます。ただ、アメリカンフットボールのクラブで使っている施設は、フットボール選手しか入れません。アスリートたちがロッカーとして使っている場所とか、トレーナーとのケアのリハビリセンターとか、栄養補給センターみたいなところがある建物は、アスリートしか入れないようにしています。結構、セキュリティも厳しくて、自分の家族すら入ることができません。

池田 車には乗ってもいいんですか?

庄島 車は乗っていいです。ただ、どの車に乗っているかとか、ちゃんと免許は持っているかということも、しっかりチームに報告しなきゃいけません。昔、とある別の学校のスター選手がファンから車をもらって運転していることが明るみに出てチーム自体がNCAAに罰則を受けるというケースもあったので、ちゃんと自分が買ったものかということも報告しないといけません。

岩本 飲み物をもらってもいけないということでしたが、何かご馳走になったりしたらいけないという、そのルールの目的は聞かされているのですか?

庄島 はい。自分たちはプロ選手ではなく、アマチュアだということで、アマチュアは自分たちの能力、つまりアメリカンフットボール選手としての能力で何か物を得てはいけないことになっています。それが金銭であったり、食事であったり、いかなるものであっても、もらってはいけない。フットボール選手としての能力を使って、そういうものを得てはいけないということです。

岩本 あくまでもトップアマチュアなんだということですね。

庄島 はい。

大学アスリート経験者たちの卒業後の進路

池田 UCLAのアメリカンフットボールクラブを出た人は、どういうところに就職する人が多いんですか?

庄島 バラバラですね。ただ、毎週必ずネットワークディナーが行われているので、いろいろなところにコネクションはできます。フットボールクラブのOBだけではなくて、UCLAからのOBだったりとか、コーチたちの知り合いとかが来て、いろいろなネットワークイベントが行われたりします。選手たちがフットボール以外のことでも将来があるように、いろいろなネットワークを築きなさい、ということでやっています。

岩本 毎週あって、それは参加自由なんですか?

庄島 はい。最高学年は必須です。パーティというか、ディナーイベントですね。立食イベントというよりも、普通に席に座って、そこのテーブルにいる方々と話します。

池田 それも大学、アメフト部が催しているのでしょうか?

庄島 多分アスレチックデパートメントが主催で週に1回、大学内でやります。

池田 結構、いろんな会社の人たちが来てくれる?

庄島 そうですね。

池田 偉い人?

庄島 はい。

池田 企業側の人にとっては、どういうメリットがあるのですか?

庄島 自分たちがコーチから言われているのは、「企業の方々はフットボール選手を欲しているんだ」ということです。フットボール選手のように、つらいことにも負けない心を持っているとか、規律のある生活を送ることに慣れている選手が欲しいと。多分、企業側からしたら、そういう人材が欲しいのかなと。

池田 きちんとしたリクルーティングなんですね。

岩本 ただご飯を食べるだけですか? スピーチがあったりする?

庄島 そういう方々のスピーチやプレゼンがあったり、あとは今のようにオフシーズン中は、週に1回はUCLAのフットボールに限らず卒業生のいろいろな企業を訪ねます。そこで「自分はこういう方向で、この道に進んで行った。だからキミたちも、今やらないといけないことは、こういうことです」という話を聞くワークショップをやったりしています。

池田 プラプラしている人は、あまりいないんですね。

庄島 もちろん120名もいるので全員が全員っていうわけではないんですけど、ほとんどの選手がちゃんと将来を考えていると思います。

池田 ちゃんとした家の子が多いですか?

庄島 コーチは高校の選手や編入生をリクルートする時点で、選手としての能力だけではなくてバックグラウンドや素行、学力の面も含めてリサーチしています。そのため必然的にちゃんとした選手だけが、この場所に集まるんだと自分は思っています。

池田 そのリクルーティングはアスレチックデパートメントがやっているんですか?

庄島 コーチたちが自分たちでやるんですけど。リクルーティングにかかる費用、ジェット機を使って飛び回ったりとかの出張代とかは、卒業生やUCLAとコネクションの強いロサンゼルスに住む人たちの寄付によって成り立っています。そのコーディネートはアスレチックデパートメントがしています。

岩本 そうしたことを全部、庄島くんが知っていることがすごい。今はフットボールでポジションを取ることが目標だと思うけど、将来的に日本のスポーツ文化のところで何かやってもらいたいですね。やっぱり中でやっている人というのは、すごく貴重ですよ。

庄島が感じているアメリカスポーツの力

岩本 庄島くんの記事を読んだら、日本人で初めてだからということで試合に出ただけで注目されていることには戸惑いを感じている、と言っていましたね。それだけで注目されることには戸惑いがありますか?

庄島 自分の気持ちとしては、別に大したことではないと思っているので。とてもありがたいことですし、誇りに思っていますし、光栄なんですけど、自分の設定しているゴールはそこではありません。自分としては、まだまだそれでは満足ではないという気持ちです。

岩本 我々としては、そうやって頑張って、必死にやっている人を取り上げたいという気持ちはありますよね。

池田 うん。まだNFLに行った日本人はいませんからね。頑張って、僕らにも夢を見せてください。

池田 スーパーボウルは、アメフトに興味があろうがなかろうが、盛り上がるじゃないですか。野球もワールドシリーズまで行くと、さすがに盛り上がりますよね?

庄島 はい。

池田 それに対して、WBCが全然盛り上がらなかったのは、なんでだと思いますか?

庄島 古くからの野球ファンは多いと思うので、別に新しいプロモーションをする必要がないのかなっていうふうに感じています。NFLとか、アメリカンフットボールというのは、トップ・オブ・トップの人気スポーツですけど。やっぱり野球というのはアメリカ人の心の中に古くからあるスポーツで、魂のようなものだと思います。だから特に新しいプロモーションをしているわけではないのかな、というふうに感じていますが、そのせいもあってツウというか、本当のファンの人しか敏感じゃないのかなと思います。

池田 全然盛り上がっていないし、観客席もガラガラでした。テレビでも全然取り上げていませんよね。

庄島 そうですよね。もしかしたら、過去のほうが盛り上がっていたかもしれませんね。今年は全然、取り上げられていませんでした。あと、もう1つ理由があるかもしれないと思ったのが、今はバスケットボールのシーズンが盛んで。特に大学バスケはすごく盛り上がっている時期なので、みんなの目がそっちにいっちゃっているのかもしれません。

岩本 確かに、ESPNでもやたらとバスケをやっていましたね。

池田 やっていた。地域の人も、自分の地域の大学バスケを、かなり追いかけるんですよね?

庄島 そうですね。特に今のUCLAのバスケは全米でもトップレベルの強さで、今年は優勝できるんじゃないかということで、相当盛り上がっていました。

育まれていくスポーツへの愛情

池田 UCLAのバスケの試合は、どこでやっているんですか?

庄島 キャンパス内にスタジアムがあるので、バスケの場合はUCLAのホームゲームは、そこでやるんです。でも、今はトーナメントの時期なので、多分、ホームではやらないと思います。

池田 チケットは、お金を払うんですか?

庄島 普通の観客はフットボールを見に行くのと同じように払います。一般の学生は、普通に比べると安いと思うんですが、払わなくてはいけません。ただ、学生アスリート、自分たちみたいなスポーツチームに所属している人は無料で見ることができます。

池田 結構見に行きますか?

庄島 行きますね。

池田 一番、何を見に行っていますか? バスケ?

庄島 バスケが無難と言いますか、多いですね。応援もしやすいですし。あとはファンベースも多いので。

池田 見に行くときは、本当に応援しに行くのか、それともエンターテイメントとして見にいく感じですか?

庄島 両方ですね。バスケットボールというスポーツが大好きな選手もいますし、スタジアムというか、コートの盛り上がりを体験しに行くという人もいます。そこで一緒にチームの仲間と盛り上がりに行く、というようなこともあります。アメリカンフットボールも同じなんですけど、高校スポーツの頃から、アメリカというのがそういう場所に行って、そこの雰囲気を体験することが大事ということを教えられているので、最初からアメリカ人の心に根付いているんですよね。スタジアムに行って、試合を観戦するということが。もしかしたら、本当にすごいのは高校スポーツかもしれませんね。

池田 盛り上がっているのですか?

庄島 はい。本当に盛り上がる高校スポーツは、学生もそうですし、大学と同じように地域のファンや、サポートしている方々というのが集まってきます。日本とは比べものにならないような、ファンベースがありますね。

池田 日本では、大学も今全然スポーツ見に来なくて困っているんですよ。大学のスポーツのスタンドが、ガラガラなんです。愛校心がどんどんなくなっていっているから、もしかしたら高校から作らないといけないのかもしれません。

庄島 そうですね。日本でも甲子園レベルになってくると、ちょっと違うのかなと思いますけど。アメリカの場合は、アメリカンフットボールとかバスケットボールというのは、高校の時点で自分のチームをサポートするんだという愛校心を持って見ますし、それがもとから根付いているので、大学を見て、プロを見て、というふうに、どんどん上がっていくんだと思いますね。

《中編》[池田純インタビュー]UCLA大アメリカンフットボール部 庄島辰尭「UCLAとアンダーアーマーの契約金は15年で310億円」《前編》[池田純インタビュー]UCLA大アメリカンフットボール部 庄島辰尭「スカラーシップの85人に入れる選手に」

池田純

1976年1月23日生まれ。 横浜出身。 早稲田大学商学部卒業後、住友商事株式会社、株式会社博報堂を経て独立。 2007年に株式会社ディー・エヌ・エーに参画し、執行役員としてマーケティングを統括する。 2012年、株式会社横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任。 2016年まで5年間社長をつとめ、観客動員数は1.8倍に増加、黒字化を実現した。 著書に「空気のつくり方」(幻冬社)、「しがみつかない理由」(ポプラ社)がある。