インタビュー=池田純、岩本義弘

《後編》[池田純インタビュー]UCLA大アメリカンフットボール部 庄島辰尭「学生スポーツはアメリカ人の心に根付いている」《前編》[池田純インタビュー]UCLA大アメリカンフットボール部 庄島辰尭「スカラーシップの85人に入れる選手に」

巨人の倍額のサプライヤー契約を結ぶUCLA

池田 NFLのドラフトで上位にいる人たちは、学校でどういう存在なのでしょうか。すごいスターみたいな感じですか?

庄島 ポジションや選手によっても変わってくると思うんですけど、アメリカンフットボールチームの選手自体がUCLAの中では目立つ存在です。キャンパス内で歩いていると目立ちますし、特にもてはやされているというわけでもないんですけど、教授や普通の生徒とかからは「応援していますよ」「テレビも見てるよ」と、よく言われます。そういう感じで常に目立っているので、自分たちがどれだけしっかりとしていなきゃいけないかが重要になってきます。そういう文化から選手たちはフットボール以外でも、生活面でもしっかりと行いを正さないといけないなとなっているんだと思います。

池田 OBもいっぱいいるじゃないですか。彼らともいろいろな絡みがあるのですか?

庄島 あまり絡まないですね。OBも数年間はなかなか下級生、現役生たちと関わりません。戻ってくるときも何かコーチとかで関わるわけでもないですし、1選手として戻ってきた仲間としてしか別に存在感はありません。日本の高校や大学みたいにOBが帰ってきてコーチをするみたいなことはないですね。

池田 チームのウェアやユニフォームは誰が作ったり決めたりしているんですか?

庄島 チームのブランドスポンサーが、必ずどのチームにもあります。今年の6月まではアディダスとサプライ契約を結んでいたので、自分たちはアディダスのウェアを年間何ドル分という形でもらっていました。普段着からフットボールで着る練習着、ユニフォーム、スパイク、靴。そういうものを一式全部いただいています。それが今年の6月からはアンダーアーマーに変わったんです。アンダーアーマーに変わったら、今度は全部一式、アンダーアーマーになりました。

池田 サプライ契約は、誰が決めているんですか?

庄島 UCLAのアスレチックデパートメント。体育協会のすべてを司っているところのヘッドがアンダーアーマーと契約をしました。

池田 UCLAの他のスポーツも全部アンダーアーマーになったのですか?

庄島 そうですね。学校全部です。

岩本 全部変わるとなると、巨額のお金が動いていますね。

池田 そういうことも選手は意識しているんですか?

庄島 そうですね。やっぱりユニフォームのデザインなどは、格好良さにもつながるので。『このブランドがいいな』っていう意見もありますし、『これに変わるから、やった』とか、『イヤだ』っていう気持ちも選手の中ではあります。特に今年のUCLAとアンダーアーマーの契約というのは全米で、歴代ナンバーワンの大きな契約になるということらしいので、楽しみです。

池田 その金額がいくらかとかも知っているんですか?

庄島 15年間で280ミリオンドル(約310億円)。

池田 すごいね。大学スポーツで。

岩本 すごい。言ってみたら、価値は巨人の倍ですからね(※巨人とアンダーアーマーは5年で50億円の契約を締結)。そんなにしょっちゅう変わるわけじゃないから、本当にすごいタイミングに居合わせているということだよね。

庄島 はい。

アメリカの大学に常設されているグッズショップ

池田 そうした契約についてはアスレチックデパートメントのトップが結んでいると思うのですが、その人は知っていますか?

庄島 自分たちはあまり話すことはないんですけど、チームのすべてを見ていますし、試合のときも、しっかりと観戦をしています。自分たちのスポーツ団体としてのオーガニゼーションをしっかりとコントロールしてくださっている方というふうに認識しています。

池田 アメフトだけではなくて、他も全部やっているんですか?

庄島 他のスポーツもです。

池田 結構年配の人ですか?

庄島 そうですね。去年のUCLAのアメリカンフットボールは思うような結果が出せませんでしたけど、バスケや水球とか、いろいろなスポーツを大きな視野で見ると、UCLAにはとてもレベルの高いスポーツが集まっています。アスレチックデパートメントには感謝しなくてはいけないなと思います。

池田 今、UCLAって書いてあるウェアを着ているじゃないですか。みんな、そういう服を着ているんですか?

庄島 普通の生徒もこういうシャツを着ますね。UCLAって書いてあるジャケットとか。他のスポーツの選手は、そのスポーツごとにWater poloとか、BasketballとかSoccerとかBaseballとか着ている人が常に歩いています。ファンの人たちも、こういうシャツを着ていますし、普通の生徒も自分の学校のプライド意識というか、UCLAと書いていなくても青のシャツだったりとか、黄色のシャツだったりとかを着ますね。そういうものを着る文化が根付いているので。自分の学校のプライドというか、アメリカではスピリットというんですけど、魂。自分の魂という形で、みんなそれを着飾っている感じです。

池田 そういうグッズを売っているUCLAのショップってあるんですか?

庄島 どの大学にもギフトショップという形で、「ブックストア」が必ずあります。そこでUCLAのグッズやシャツといった学校のブランドものを扱っています。

岩本 細かくいろんな雑貨が全部ブランディングされてそうですね。

庄島 ブックストアなので、本屋なんですけど、そういうギフトショップになっています。もちろん教科書とかが買えるようにもなっていますし、あとはコンビニのように、いろんな雑貨も買えます。でも、ブックストアという名目で、必ずその学校のグッズを売っているショップが、どの大学にもあります。

池田 日本にはそういうものがないから、それを作らないといけないですね。今UCLAに生徒は何人いるんですか?

庄島 UCLAの生徒は約4万4000人です。

池田 アメフトのローズボウルで試合をやると、どのくらい見に来るのですか?

庄島 試合は年間12試合あって、対戦カードによって席の埋まり方も変わってきますが、USC対UCLAの試合のように、本当のライバル戦とかになると、もう満席になりますね。

池田 学生たちも、みんな試合結果を気にしていますか?

庄島 気にしていますね。自分の学校のプライド意識もありますし、とにかくアメリカンフットボールみたいなスポーツになってくると、ほとんど国技みたいなものなので。どんなに精通していない人でも点数や結果とかに敏感になってくるんです。なので、「昨日勝っておめでとう」みたいなことを言われたりとか。生徒だけでなく教師とか、普通のスタッフからも言われたりします。

池田 アメフトがやっぱり一番人気ですか?

庄島 そうですね。UCLAは各スポーツが優秀なので、どれか1つが頭飛び出ているというわけではないんですけど、アメリカンフットボールとバスケは2大人気スポーツですね。

岩本 4大スポーツの中でも、やっぱりアメリカンフットボールが一番、格上だよね。

庄島 そうですね。

岩本 日本にいると、その感覚が肌では実感できないから、そこがすごいですね。

庄島選手の所属はスポーツ学部ではなく環境学部

池田 UCLAにはスポーツ学部もあると思うのですが、そこには入らないのですか?

庄島 スポーツ学部もありますが、自分はもともと環境学に興味があったのでそっちに入っています。

池田 どうして環境学に興味を持ったんですか?

庄島 自分がアメリカンフットボールを始めて、食事に気を使うようになったんです。自分の食事のことを考えているうちに、話が大きくなっていき、環境について自分で考えるようになって、食に関係する環境というものに興味を持ちました。それを勉強したくて環境学部に入りました。

池田 そうすると、結構、勉強しているんですか?

庄島 UCLAに優秀な教授がたくさんいますので、そういう方々の中で勉強させていただくと、いろいろな面白いことを学べるんですね。

池田 1日何時間くらい学校の授業とは別に勉強しているんですか?

庄島 学部によっても変わると思うんですけど、自分の場合は授業が11時から4時くらいまであって、それと別に勉強は1日に2時間から3時間かけるという感じですね。

池田 飲みに行ったりすることもあるのですか?

庄島 自分は全く飲まないですし、外で遊ぶこともないですね。でも、勉強、アメリカンフットボール、遊び、すべてをしている選手もいますよ。そういう人たちは、時間のマネジメントもしっかりできていますね。

池田 フットボールの練習では、筋トレも毎日やっているのですか?

庄島 筋トレはチームで行われるウェイトプログラムが、シーズンによって変わってくるんですけど、今の冬の時期は筋トレが週に3回、走り込みが週3回というふうになっています。あとは、個人でやるものは自由にやりなさいということなので、自分は個人でもやっていて、チームのものと個人のものを合わせて週6回、筋トレしています。

池田 個人でやるときも、大学の施設でやるんですか?

庄島 アメリカンフットボールチームのジムは使えないんですけど、学校内にある普通のスポーツジムも充実しているので、そこで個人でトレーニングしてます。

岩本 チームで使えないのは、時間が決まっているからですか?

庄島 そうですね。時間が決まっているのと、ケガをしたときに訴訟問題になってしまう可能性があるということで、ストレングスコーチたちがしっかり管理している状況でしか使えないんです。

池田 アメリカンフットボール部のジムの器具も、部で買っているんですか?

庄島 そうですね。器具も部で買ったり、あとはスポンサーシップでマシーンやウェイトを扱っているブランドが供給してくれます。色もUCLAカラーになっていたり、名前を書いていたりとかされています。

池田 もう、プロですね。それだけの環境があれば、それは日本でやりたくなくなりますよね。

庄島 いやいや、もともとアメリカでやりたかったので、日本でやりたくなかったというわけではないんですけど(笑)。

池田 メディアが来て取材をすることも結構あったりするのですか?

庄島 選手単位でいうとエースとかには、練習にもメディアが来ますし、試合のときになるとカバレッジもあります。チーム内でメディア担当をしている人もいますし。チーム内に広報をしている人もいます。

池田 それは何人いるんですか?

庄島 多分、全部を合わせて4〜5名ですね。大学で雇っている人というのではなく、アメリカンフットボール部のスタッフという形で、専門のスタッフになります。

しっかりと管理されている大学アスリート

池田 メディアトレーニングもやれているんですか?

庄島 インタビューのとき、どういう受け答えをするべきかを学ぶワークショップもあります。また、ソーシャルメディアでどういうことを言ってはいけないかとか、そういう勉強もさせられますので、基礎的なものは一応、学んでいます。

岩本 完全にプロの新人研修と同じですね。

池田 うん。今何歳ですか?

庄島 自分は23です。

岩本 必然的に大学でアスリートをやっている人の方が、普通の学生よりも、すごくそういうところも含めて意識が高いですよね? 実際に周りの人、自分がチームメートを見ても、すごく規律正しくやっているということでしょ?

池田 バイトはしていいんですか?

庄島 それも全部、報告しなくてはいけないんです。自分の場合は留学生なので、学生ビザということでキャンパス内でしか働けません。普通の選手、時間がある人は一般の学生だったら自由に働いてもいいのですが、お金を得ているのであれば、それは全部NCAAに報告しないといけません。

岩本 自分のアメリカンフットボール部のところだけではなくて、NCAAにも報告しないといけないのですか?

庄島 はい。UCLAにいるコーディネーターを通してNCAAに報告します。

池田 UCLAのフットボールのトップというのは誰になるんですか?

庄島 やはりヘッドコーチのジム・モラコーチ。彼がすべてをコントロールしている形になります。

池田 彼は誰と契約してるの?

庄島 アスレチックデパートメントと契約をしています。

池田 5億くらいもらってるんですよね?

庄島 自分はちょっと金額までは把握していませんけど。

池田 でも、すごいもらっているということは知ってるんですか?

庄島 はい。

池田 そういう職業への憧れも学生にはあるんですか?

庄島 チームの中で、自分もコーチ業に就きたいなというふうに目指している仲間もいます。元選手が、グラデュエートアシスタント(卒業生のアシスタント)として、大学院に行きながら、コーチをやっている契約の人もいます。先ほど、ちょっと話が出てきましたけど、OBで戻ってくる、コーチをするという本当の方法は、そういうふうに大学院に行きながらチームと契約をして、コーチをするという方法しかないですね。

池田 アスレチックデパートメントには何人くらいいるんですか?

庄島 総数は把握していませんが、フットボールだけでも数人いると思うので。

池田 ヘッドコーチの人とかはアスレチックデパートメントが見にきたりすると、鬱陶しいなみたいのはないんですか?

庄島 すべてが綺麗なわけではないので、何かちょっとはあると思うんですけど。自分が把握している中では、アスレチックデパートメントとフットボールは別に悪い関係ではありません。自分は、すべてのスポーツがデパートメントと関係がいいからこそ、優秀な成績を残しているという考え方なので。

池田 スポーツに関しては、UCLAが一番いいんですか?

庄島 スポーツにおける優勝回数は全米で1位なので、スポーツと学業でトップの学校と言っても過言ではないですね。もちろん学業の面ではスタンフォードやバークレーに負けてしまう部分もありますし、スポーツの種類・種目によっても、負けてしまうところがあったりします。それでも、明確に見える優勝回数ではUCLAが一番ですし、オリンピック選手輩出数もUCLAが一番なので、そういう面で自分たちの方が上かなっていうふうに勝手に思ったりしています。

池田 大学が好きなんですね。

庄島 そうですね。

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池田純

1976年1月23日生まれ。 横浜出身。 早稲田大学商学部卒業後、住友商事株式会社、株式会社博報堂を経て独立。 2007年に株式会社ディー・エヌ・エーに参画し、執行役員としてマーケティングを統括する。 2012年、株式会社横浜DeNAベイスターズの初代社長に就任。 2016年まで5年間社長をつとめ、観客動員数は1.8倍に増加、黒字化を実現した。 著書に「空気のつくり方」(幻冬社)、「しがみつかない理由」(ポプラ社)がある。