ここで一度事実関係を整理する。2018年5月6日東京スタジアム補助グラウンドで行われた日本大学と関西学院大学の定期戦ですべては始まった。関学大攻撃の1プレー目、関学大の司令塔であるクォーターバックがパスを投げ終えた後に背後から激しいタックルを受け負傷退場。

その後もタックルをしたディフェンス選手は悪質な反則を繰り返し、5プレー目で退場処分となる前代未聞の出来事だった。高校、大学とアメフトをプレーし、その後も長年にわたりアメフトを見てきた筆者は、その試合当日の夜に映像を見て衝撃を受けた。こんな反則みたことがないと。しかしすぐに様々な疑問が湧いてきた。なぜ反則した1プレー目で退場になっていないのか、なぜこの選手は反則を繰り返したのか、なぜ激しい反則をしたのに日大はプレーを続けさせたのか、なぜ関学大は1プレー目で抗議をしなかったのか。
唯一救われたのは、負傷退場した関学大のクォーターバックが後半から元気にプレーしていた事だった。

事件が起きて数日後、ニュースや情報番組含めありとあらゆるメディアが一斉にこの事件を報道し始める。日本ではメジャー競技とは言えないアメフトで、しかも学生の試合で起きた反則がここまでの騒動になるとは思いもしなかったが、いまとなっては同年1月に起きたレスリングパワハラ事件でアマチュアスポーツの不祥事がいわゆる”数字になるネタ“とメディアが認識し、そのレスリング事件が沈静化してきたタイミングでこの事件が起きてしまったのだ。
ここから2ヶ月間、日大アメフト部は濃すぎる役者たちと利益誘導を図る有象無象が大騒ぎしたが、日本ボクシング連盟の不正会計事件が勃発するとさらに濃い役者が登場し話題をさらっていき、アメフト騒動は沈静化することになった。

事件から1年半あまり。この事件を振り返ったとき、日大のアメフト部でなければ、学生連盟からタックルした選手の出場停止処分、もしくはそれと合わせて監督やコーチへの厳重注意で終わっていたのではないかと思わずにはいられない事実がいくつも浮かび上がってきた。

まずは日本版NCAAの話からはじめたい。大学スポーツを客が呼べるブランドにしたい。アメリカはNCAAで成功したじゃないか。わかりやすく言えばそういう発想からスタートしたこの構想に大学スポーツの雄、日大は公然と反対していた。

しかし、大学スポーツをブランド化すれば大きな収益を上げられる可能性は大きい。そういう勢力にとって日大は目の上のたんこぶ。絶大な権力を持つ当時の内田監督が率いるアメフト部の不祥事は形勢逆転を目指す上で、これほど美味しいものはないのである。
実はある企業が積極的に日本版NCAAを推し進めようとしていた。この事件をきっかけに、日大が下位リーグに下がったことで上位リーグに上がることができた大学、関東学連で日大系を排除し新たに役員になった者、情報番組への出演やコメントをしていたアメフト関係者などのなかに、この企業との関わりが深い人間が数多くいたのだ。
前述したように、市議会議員を父親に持っていた関学大の被害者選手はタックルを受けた後、後半から元気にプレーをしていた。しかし、後日診断書をとり重症との診断をメディアに公表し事件を大きくしている。この不自然さも、さまざまな大人たちが入れ知恵した結果だと言われている。

次に「日大内の派閥争い」がある。生徒約7万人、卒業生は約120万人ともいえる日本最大のマンモス大学の日大。絶大な権力を誇る理事長は約11年務めているが、その理事長選挙のたびに一部週刊誌でも取り上げられるほどの混乱が起こるのは恒例行事となっている。アメフト部の内田前監督はこの理事長の側近とも言われ、日大本体の理事も兼任していた。反体制派はこの事件を利用して現状の理事長体制を崩そうとし、いまだに内紛が続いている。

このタックル事件を起こした当事者を担ぎ上げ、日大としての会見よりも先に会見させた弁護士の手腕は見事だった。試合をきっちり見たメディアであれば正確に冷静に報道できたが、ただ煽りたいだけのメディアにとっては、当事者である本人が語っているにも関わらず間違っていた時系列や会見内容の裏どりなんてものはどうでもよかったに違いない。
「潰せ」「壊せ」とアメフト界ではもちろん、ほかの競技でも普通に使われている言葉をセンセーショナルに取り上げていたが、アメフトに限らず競技を行う者がこの言葉を指導者から言われた場合、気持ちを高ぶらせ試合に臨むが、このような反則を起こすものは皆無だろう。その後も日大内の各団体などがメディアを使い、現体制を崩壊させようと様々な情報や決議を突き付けたが現在まで現体制は崩壊していない。

そしてもうひとつ、監督、コーチ、日大(体制派)のお粗末すぎる対応に尽きる。これはこの事件がここまで大きくなることを微塵も想像していなかったことに起因している。試合直後のインタビューを振り返れば、監督、コーチの指示がなかった事が監督のインタビューから明白で、しかもこの行為に対して全責任を負うと指導者として当然の発言している。しかしこのような発言がメディアによって切り取られ独り歩きし事件を大きくした。
記者からの質問に対して悪質な反則行為についてはみていないが、そんなに酷かったのかと逆に記者に質問をしている。これはアメフトの監督やコーチにとっては当然である。広いフィールドではボールを追っているのが通常でプレーが終わったスペースに関して目は向けない。しかも監督は当事者に対して、「強豪高校出身ではないが、体躯が良く将来性があるので鍛えている」旨の発言をしているほど選手を慮っていた。しかし前時代的で精神的な鍛え方にこの当事者はフィットせず追い詰められて暴挙に出たことは容易に想像できる。

この前時代的な組織の長である監督は、とにかく競技に対しては厳しいが、学業の単位や就職のことについては細かくフォローするようなタイプで、卒業してから愛情を理解し感謝するOBが多かった。
会見では口下手で説明しても言葉足らず。質問に対しても厳つい風体から誠意をもって答えていたようには見えず、余計な想像をさせてしまい隙を与えてしまった。また日大の会見では、メディア出身者とは思えないあり得ない対応をする司会者や取材者への仕切りで火に油を注ぐ結果となった。

今回のようにメディア、特にテレビの情報番組が内容の裏どりを行わず、専門家の意見についても番組構成上うまくはまりかつ刺激がある事だけを取り上げることは決して許されることではない。テレビが衰退しているとはいえ情報源のNO.1の地位は揺ぎ無く、かつ映像としての刺激も多い。しかも無責任な情報番組の司会者やコメンテーターと称する人間の一方的で無責任な発言によりどれほどの事実とは異なる憶測が飛び交ったか。

今回の事件で、日大アメフト部の生徒に対して罵声を浴びせて、その反応を映像に収めようとしたり、未成年の部員に対し逆に自分はあなたの味方だと言い寄り部内の情報を取ろうとする記者もいた。部員も部員でそのような記者にのっかり、コーチ陣の声を勝手に録音したり、内部情報として嘘を伝えそれが放映されることもあった。
コーチに対しては早朝、深夜の張り込みから、普段の生活のあらを探すための近所への聞き込み、コーチが自分の幼いわが子を学校に送るときでもカメラを回しながらしつこく付きまとうため警察を呼ぶほどだった。なかでも日大アメフト部出身の情報番組担当者はコーチの映像を流すのを止める代わりに様々な交換条件を求めてきていた。このような取材方法に対し、現在日大アメフト部の前コーチ陣に名誉棄損などの法的措置やBPOへの訴えなどを勧めている人もいる。

この騒動での勝者は誰か? 唯一言えるのは日本版NCAAに抵抗した日大アメフト部が敗者であったと言うことだ。今回はオリンピック競技ではなかったが、2020年まであと数日。オリパラまで半年とちょっと。このような事件から火が付く主導権争いは、この大きな節目に合わせてまだまだ出てくる可能性があるが自戒を込めて言う。メディアは冷静な対応をして欲しいと。体制側、指導者側にも大義があるのだから。それが時代に受け入れられないとしても。

日大が2017年、27年ぶりに甲子園ボウルで学生王者にとなった時の前監督の涙が今でも忘れられない。あれがアメフトに人生をかけている人の本当の想いなのだから。


VictorySportsNews編集部