文=鴫原盛之

 1986年12月に第1作目が登場し、今年の4月には最新作「プロ野球 ファミスタ クライマックス」が発売された「ファミスタ」シリーズ。同じく、1994年に第1弾が発売された「パワプロ」こと「実況パワフルプロ野球」シリーズも、昨年12月に「実況パワフルプロ野球 ヒーローズ」がリリースされ、スマホアプリ版も根強い人気を誇っている。

 後者は20年以上、前者に至っては30年以上もシリーズ作品が発売されていることには、今さらながら驚かされる。では、「ファミスタ」「パワプロ」両シリーズが長い間売れ続ける理由は、いったいどこにあるのだろうか。以下、筆者の実体験を元に、プレイヤー目線で見た野球ゲームの人気の要因について述べさせていただく。

見事なまでに計算された「1試合30分の原則」

「ファミスタ」「パワプロ」両シリーズに共通している特徴としては、実在のプロ球団や選手が実名で登場(※)すること、あるいは選手個々の能力や、本物の野球のルールを忠実に再現していることがまず挙げられるだろう。今では信じられない話だが、「ファミスタ」以前の野球ゲームは選手に名前すらなく、打率や防御率などのデータも存在しない、あるいは単に背景画として描いただけの「飾り」であることが、ごく当たり前だったのだ。

※筆者注:正確には、初期の「ファミスタ」はNPBの許諾は受けておらず、球団名はパロディで、選手名は「くろまて」「ひかしお」など、4文字以内のひらがなで表現した「なんちゃってネーム」である。

©1983 Nintendo

任天堂のファミリーコンピュータ版「ベースボール」の画面。選手名や能力データの表示はまったく存在しない

 実はもうひとつ、上記以外にも忘れてはいけない重要なポイントがあると筆者は考えている。それに気付いたのは、初代「ファミスタ」に夢中になって遊んでいた中学生時代のある日、プレイ中に意図していないにもかかわらず、試合時間がほぼ毎回同じになるのを発見したことがきっかけだった。

 筆者は経験上、対CPUチームとの1人プレイで遊んだときの時間は18~20分になることが多く、乱打戦で多少長引いても25分程度でほぼ試合が終わる。試合終了後、バックスクリーンを見ると毎回のように「0:18」と表示されていたので、初めのうちは昔の野球ゲームの背景画と同様の「飾り」ではないかと思ったほど。これは2人対戦プレイでも同様で、不思議なことに長くても30分ほどでゲームセットになるのだ。

 ここまで書けば、筆者が何を言いたいのかはもうおわかりだろう。そう、ゲームがスムーズに進行することも「ファミスタ」の面白くする要素のひとつであり、ひいては大ヒットにつながったのではないかと考えるのである。

 他の野球ゲームと比較してみると、そのスムーズさの違いがよくわかる。試しに、任天堂のファミリーコンピュータ版「ベースボール」(1983年発売)のプレイ時間を計ったところ37分かかった。つまり、「ファミスタ」の約2倍の時間を要したことになる。(※スコアは6対6で引き分け)。同じく、ファミコンブーム期に大人気となった「燃えろ!!プロ野球」(1987年発売)に至っては、1試合に約1時間も要するのだ。

 この「1試合30分の原則」は、筆者が知る限りでは第2作目の「ファミスタ'87」以降も受け継がれ、シリーズの伝統となっている。当時は友人宅に大勢で集まって「ファミスタ大会」を何度も開催して遊んだ思い出があるが、こうした遊び方ができるのも、前もって1試合が30分で終わることがわかっているからこそなのだ。

©1986 NAMCO LTD.©1986 NAMCO LTD.

初代「プロ野球 ファミリースタジアム」より。これだけ打ち合っても、わずか19分で試合が終わっている。(※バックスクリーン最上部にある数字が試合時間)

「パワプロ」も1試合の所要時間はやはり30分

 実は「パワプロ」シリーズにおいても、「1試合30分の原則」はぴったりあてはまる。シリーズ2作目のスーパーファミコン版「パワプロ2」を久々に取り出してプレイしてみたところ、1試合の所要時間は23分(1-5で負け)だった。

「パワプロ」シリーズには、チェンジの際に守備の選手がベンチに引き上げたり、空振りすると転倒するなどの演出が豊富に盛り込まれている。それでも30分程で試合を終えることができるのは、ボタンを押すと一部の演出を途中でスキップできるようにするなどして、試合の進行を阻害しないよう配慮しているからである。

 また、これは「ファミスタ」とも共通するが、キャッチャーが受けたボールをピッチャーに返球するシーンを省くことで、よりスピーディにゲームが進行するのも見逃せないポイントだ。実際の野球ではあり得ないことだが、テンポよくゲームを進めることで客、すなわちプレイヤーに対する最高のサービスを提供しているのだ。もし仮に、「パワプロ」が1試合1時間もかかるようなゲームになっていたとしたら、はたして今日まで続く大ヒットをかっ飛ばすことができていただろうか?

©1995 KONAMI ALL RIGHTS RESERVED.©1995 KONAMI ALL RIGHTS RESERVED.

「実況パワフルプロ野球2」より。両チーム合計21安打を記録したが、23分で試合が終了した

 後年、とある「ファミスタ」シリーズの開発者にお会いした際に、「いつも1試合30分で終わるのが不思議でしたね」と尋ねたところ、実は最初から30分以内に終わるように計算して作っていたことを明かしてくれた。すでに30年もの昔から、プレイヤーが気持ちよく遊べるように考えて開発していたという事実には本当に感銘を受けた。

「ファミスタ」「パワプロ」以外にも、これまでに数え切れないほどの野球ゲームが登場しては消えていった。両シリーズが前世紀から今なお新作をリリースし続けていられるのは、NPBの許諾による実名の使用や、実況アナウンサーの音声などによるリアルな演出だけでなく、試合進行がスピーディだったことも大きなポイントのように思えてならない。

鴫原盛之

著者プロフィール 鴫原盛之

1993年にアーケードゲーム雑誌の攻略ライターとしてデビュー。その後ゲームセンター店長、メーカー営業などの職を経て2004年よりフリーライターに。これまでにゲーム関連・攻略書籍を多数執筆し、ゲーム関連の学会にてゲーム史の収集・記録なども手掛ける。主な著書は『ファミダス ファミコン裏技編』『ゲーム職人第1集』(共にマイクロマガジン社)などがあり、近刊では『日本ゲーム産業史』(日経BP)にも寄稿。趣味はサッカー観戦で、1980年代からACミランとオランダ代表の大ファン。