文=菊地高弘
大舞台で結果を残す天性のスター性
プロ球団スカウトと話していると、その多くがこんな内容の言葉を口にする。
「本当に凄い選手は、探さなくても勝手に目に飛び込んでくる」
吉川尚輝(中京学院大)を初めて見たとき、そのことを思い出した。身長177センチ、体重79キロと野球選手としては大柄ではない。それなのに、キャッチボールをしているだけで不思議と動きに目を奪われる。ユニホーム姿が映える。それが吉川尚輝という選手が持つ、天性のスター性なのかもしれない。
中京学院大と対戦して敗れた、ある大学の監督はこんな感想を漏らしている。
「まるで吸い寄せられるように、いいところで吉川くんのところに打球が飛ぶ。ウチは彼を目立たせるために攻撃しているようでした。吉川くんはそういう星の下にいる選手なのでしょうね」
2016年6月の大学選手権。中京学院大対日本文理大との開幕戦には、バックネット裏にスカウト陣が大挙して押し寄せていた。お目当てが「大学ナンバーワン遊撃手」の呼び声高い中京学院大の遊撃手・吉川であることは明白だった。
その試合で吉川は挨拶代わりにセンターオーバーの先制タイムリー三塁打を放ち、守っては躍動感あふれるフィールディングでチームの完封勝利に貢献する。多くのスカウトは吉川のプレー能力以上に、このような大舞台で結果を残す星の強さに魅力を感じたのではないだろうか。
流れるような守備ワークでアウトを重ねる
©共同通信 走攻守三拍子揃った選手と評されることの多い吉川だが、本人がもっとも自信を持っているのは守備だ。
「個人としては守備からアピールして、流れをつくりたいと思っています。自信はあるのですが、逆シングルの捕球とか基礎からやり直しました」
二遊間を抜けそうなゴロに跳ねるような足運びで追いつき、流れるようなスローイングで刺す。万全ではない体勢でもリストの強さを生かして強い送球が投げられる。本能のままに、体が反応するままにプレーしているのだろう。その野性味のあるフィールディングには夢が詰まっている。
かつて吉川は高校卒業後、東都大学リーグの強豪・亜細亜大に進学する予定だった。だが、練習に参加するなかで挫折し、入学を辞退。一転して中京学院大に進学している。中京学院大はもはや球史に残る二塁手となった菊池涼介(広島)を輩出したチームで、選手の自主性に任せた運営が特徴だ。そんな自分のペースでのびのびと野球に取り組む環境が肌に合ったのだろう。吉川は大学球界を代表する遊撃手へと成長していった。
2016年のドラフト会議、吉川は巨人の外れ外れ1位としてプロへの扉を開いた。プロでは二塁手としての活躍が期待されているが、1月の新人合同自主トレの時点で上半身のコンディション不良を訴えたとされ、キャンプは三軍スタートと出遅れた。
それでも、やはり本当に凄い選手は、探さなくても勝手に目に飛び込んでくるのだろう。華やかな舞台でこそ映えるフィールディングが超満員の東京ドームで見られる日も、そう遠くはないはずだ。
(著者プロフィール)
菊地高弘
1982年、東京都生まれ。雑誌『野球小僧』『野球太郎』編集部勤務を経てフリーランスに。野球部研究家「菊地選手」としても活動し、著書に『野球部あるある』シリーズ(集英社/既刊3巻)がある。
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