プロ野球、本当に成功しているのはどの球団? パ・リーグ編

今月31日に開幕するプロ野球のペナントレース。昨年のパ・リーグは日本ハムが大逆転で優勝を飾り、10年ぶりの日本一にも輝いた。日本ハム、ソフトバンクの2強時代が続くのか? 他の球団の巻き返しはあるのか? 各球団の編成について分析してみた。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

文=西尾典文


【分析内容】
対象期間は2007年〜2016年の10年間。項目は以下の5項目を分析。

・スカウティング(ドラフト上位指名選手の活躍度)
・育成(ドラフト下位指名選手の活躍度)
・トレード・FA(獲得選手の活躍度)
・外国人(獲得選手の活躍度)
・将来性(選手の年齢構成)

ドラフトに関しては2006年〜2015年の指名選手が対象。またドラフト上位指名の定義は下記とした。

・ドラフト上位指名:各年1球団2名まで
2006年と2007年の分離ドラフトは高校生ドラフトの1巡目、2巡目指名の選手、大学生・社会人ドラフトの希望枠もしくは1巡目指名の選手。2008年以降は1位および2位指名の選手。
※07年の西武のみ裏金問題のペナルティで高校生ドラフトが4巡目からの参加のため、上位指名は大学生・社会人ドラフト1巡目指名の平野将光投手の一人のみとなる。また、入団拒否のケースも下位の選手は繰り上げないものとした。

日本人選手の成功基準は投手、野手ともそれぞれ下記とした。
・投手:通算40勝or通算250試合登板orタイトル獲得。セーブ、ホールドは0.5勝とカウント。
・野手:通算500安打or通算500試合出場orタイトル獲得

※タイトルはベストナイン、新人王も含む。在籍年数が少ない選手は今後の見通しでクリアが期待できる場合は成功とカウントした。

また、外国人選手は投手、野手とも中心選手としての活躍と判断した場合を成功選手とした。


戦力補強は、ほぼスカウティングと育成のみ

©共同通信

■広島:総合1位(22P)

・スカウティング:1位(6P)
 投手の成功選手は前田健太、今村猛、福井優也、野村祐輔、大瀬良大地の5人。野手の成功選手は安部友裕、堂林翔太、菊池涼介、鈴木誠也の4人。抽選の末に1位で獲得したのは大瀬良だけだが、チームの骨格を担う選手をしっかり獲得できている。25年ぶりの優勝もうなずける成果と言えるだろう。

・育成:1位(6P)
 投手の成功選手は中崎翔太。野手の成功選手は会澤翼、丸佳浩、小窪哲也、松山竜平、田中広輔、西川龍馬の6人。投手は未完の大器タイプをなかなか戦力にできていないのが課題。中崎に続く投手を育てたいところだ。野手はあらゆるタイプがそろい、上位指名に負けない選手を育てているところは見事だ。

・トレード・FA:6位(1P)
 元々、自前で選手を育てるという意識が強く、12球団で唯一FAで選手を獲得していない。また対象期間中にトレードで獲得した選手は8人いるが、戦力となったのは木村昇吾くらい。外から選手を獲得することには目が向いていないと言えるだろう。

・外国人:3位(4P)
 過去10年で主力級の活躍を見せた投手は8人。ルイス、バリントン、サファテ、ミコライオは他球団へ移籍後も戦力となり、昨年はジョンソン、ジャクソン、ヘーゲンズが優勝に大きく貢献した。一方の野手で主力となったのはアレックス、エルドレッドの2人だけ。投手陣が苦しいチーム事情ということもあるが、野手の獲得には課題があると言わざるを得ない。

・将来性(選手の年齢構成):2位(5P)
 投手陣の主力で30代はジョンソンだけで十分に若さのある構成になっている。ただ24歳以下の若手で主力と呼べるのは予備軍の岡田明丈くらい。前田健太のように高校卒からエースになれる素材が欲しい。野手も主力のベテランは新井貴浩とエルドレッドだけ。鈴木誠也に続く若手の大砲候補がほしいが、年齢的なバランスは悪くない構成だ。

高齢化からの脱却は、やはり他球団からの獲得!?

©共同通信

■巨人:総合4位(19P)

・スカウティング:3位(4P)
 投手の成功選手は菅野智之、澤村拓一の2人だけ。ともにチームに欠かせない存在となっているが、それ以外があまりにも寂しい状況だ。野手は坂本勇人、藤村大介、長野久義、小林誠司の4人がいるが、藤村は活躍したのは1年だけ。投手、野手とも戦略に迷いが見られる。

・育成:5位(2P)
投手は田口麗斗、高木勇人の2人。野手も寺内崇幸、松本哲也、橋本到の3人と数がそもそも少ないが、今後の伸びが期待できそうなのが田口くらいというのが寂しい。毎年育成選手を多く指名しているが松本以外は戦力になっていないのが現状である。

・トレード・FA:1位(6P)
 2006年オフ以降、FAで獲得した選手は今シーズン入団の3人を除くと10人。投手では杉内俊哉、野手では小笠原道大、村田修一が主力として活躍し一定の効果は得られている。トレードも成功率は高くないが谷佳知、青木高広、香月良太、立岡宗一郎が戦力となっている。特に、今が伸び盛りの立岡は会心のトレードと言えるだろう。

・外国人:2位(5P)
クルーン、グライシンガー、ゴンザレス、ホールトン、マシソン、マイコラス、イ・スンヨプ、ラミレス、ロペスの9人が主力になっている。他球団で実績を残した選手を高額で獲得するという戦略でコストはかかるものの、まずまず成功しているとは言える。

・将来性(選手の年齢構成):5位(2P)
主力投手で20代の選手は菅野、澤村、田口の三人。30歳前後が多く数年後は危険な構成だ。野手のレギュラーも坂本、小林以外は軒並み30代。岡本和真という期待のホープはいるものの、実績のある選手が邪魔になり若手の抜擢が遅れている。

将来性はピカイチも、即戦力の獲得選手が長続きしない

©共同通信

■DeNA:総合2位タイ(21P)

・スカウティング:2位(5P)
投手で成功は加賀繁、山崎康晃、石田健大、今永昇太が成功基準をクリアするペースで田中健二朗、須田幸太も可能性がある。近年獲得した選手のほうが、スケールが大きいことに勢いを感じる。野手の上位指名はわずか4人とそもそも数が少ないが、筒香嘉智、高城俊人、白崎浩之の3人は成功ペースと確率は悪くない。

・育成:2位(5P)
投手は大原慎司、井納翔一、三上朋也の3人。野手は梶谷隆幸、下園辰哉、山崎憲晴、荒波翔、戸柱恭孝に加えて、桑原将志、宮崎敏郎、関根大気も予備軍と言える。全体数は多いが高校卒は3人だけ。特に投手は高校卒でも短い年数で退団している選手が多いのは課題と言える。

・トレード・FA:4位(3P)
トレードは寺原隼人、石井裕也、真田裕貴、江尻慎太郎、清水直行、長田秀一郎が主力として活躍しており、成功確率は高い。ただ、いずれも短い年数で退団しており、目先の戦力補填としてしか機能していないのは課題だ。FAは4人獲得しているが成功は久保康友だけ。過去に移籍した選手をFAで再獲得するケースが2度あり、ここでも長期的な戦略の欠如が課題となっている。

・外国人:5位(2P)
主力として活躍した選手は、投手ではクルーン、ソーサ、エレラ、野手ではカスティーヨ、スレッジ、ラミレス、ブランコ、バルディリス、ロペスとそれなりに成功している。ただ、ほとんどが1年限りの活躍で長続きしていない。他球団からの移籍組も多く、スケールの大きい選手が少ないのも課題だ。

・将来性(選手の年齢構成):1位(6P)
投手陣はここ数年に入団した選手の主力定着率が高く、20代が多いのが強み。高校卒のスケールの大きい投手が出てくれば更に将来の見通しは明るくなる。野手は梶谷、筒香、桑原、関根など高校卒が多くさらに若さがあるのが強み。網谷圭将、細川成也と粗削りだがスケールの大きい若手がいるのも心強い。

外国人とベテランへの依存度が高い

©共同通信

■阪神:総合2位タイ(21P)

・スカウティング:4位(3P)
投手は榎田大樹、藤浪晋太郎、岩貞祐太が成功選手。藤浪の存在は大きいがそれに続くエース候補が獲得できていないのが課題だ。野手は伸び悩む選手が多い中で北條史也、高山俊の2人が出てきたことが大きい。2人の活躍が阪神の将来を変えると言っても過言ではないだろう。

・育成:4位(3P)
野手の成功選手は上本博紀、藤川俊介、原口文仁、梅野隆太郎がいるが、原口以外は年々成績が後退しているのが気がかり。投手はさらに深刻で新人王を獲得した上園啓史は通算15勝で退団。15年のドラフトで入団した竹安大知、望月惇志、青柳晃洋への期待は大きいが、それ以前に獲得した選手は総じて戦力になっていない。

・トレード・FA:2位(5P)
2007年オフから2016年にFAで入団した選手は4人と意外に少ない。そのうち新井貴浩、高橋聡文が主力となり藤井彰人もまずまずの結果を残している。トレードも平野恵一、久保康友は大成功。新井良太、今成亮太も一軍の戦力となっており、かつてに暗黒時代に比べるとうまく補強できていると言えるだろう。

・外国人:1位(6P)
過去10年で主力として活躍した外国人は投手6人、野手3人。メッセンジャー、オ・スンファン、マートン、ゴメスはタイトルを獲得しブラゼルも10年にベストナインを受賞。タイトル獲得者の四人は国内球団からの移籍ではなく自前で獲得した選手というところにも、外国人担当スカウトの慧眼が現れている。

・将来性(選手の年齢構成):3位(4P)
主力投手陣で若いのは藤浪と岩貞だけ。先発、リリーフともベテランへの依存度が高く、若手の成長が待たれる。野手も若手は伸びてきたがFAで糸井嘉男が加入してレギュラーの平均年齢が上がった。ドラフト1位の大山悠輔を抜擢するなどして、昨年の若返りの流れを継続したいところだ。

ドラフトでもトレードでも戦力補強に難あり

©共同通信

■ヤクルト:総合6位(10P)

・スカウティング:6位(1P)
投手は小川泰弘、野手は山田哲人と投打の柱を1位指名で獲得しているがそれ以外は成功とは呼べない指名ばかり。野手は西浦直亨、広岡大志と楽しみな選手はいるが投手は、すでに退団した選手も多く壊滅的な状態だ。今年1位で入団した寺島成輝のような大物をもっと狙う必要があるだろう。

・育成:6位(1P)
野手は上田剛史、三輪正義、中村悠平、比屋根渉が成功基準のペースで、西田明央もブレイクの兆しがあるのはプラス材料。高校卒が3人いるのも頼もしい。一方の投手で主力は社会人出身の久古健太郎と秋吉亮だけ。故障者が多く、2軍でもローテーションを組むのが難しい状況だ。

・トレード・FA:5位(2P)
2007年オフにトレードで獲得した川嶋慶三、押本健彦の2人は活躍を見せたが、ここ数年は山中浩史が先発の一角に入っているだけ。FAも相川亮二は正捕手となったが、それ以外の3人は期待以上の活躍を見せられていない。自由契約から獲得した坂口智隆は久しぶりの大当たりだったが、戦略的に補強はできていないと言える。

・外国人:4位(3P)
投手はグライシンガー、イム・チャンヨン、バーネット、ロマン、オンドルセク、ルーキの6人、野手はラミレス、ガイエル、バレンティン、ミレッジの四人が主力として活躍した。しかし過去10年で複数年に渡る活躍を見せたのはイム、バーネット、バレンティンくらい。かつてに比べると成功率は落ちている。

・将来性(選手の年齢構成):4位(3P)
投手陣は石川雅規、館山昌平のベテランがまだまだ主力。小川と秋吉も中堅で次代を担う若手の有望株が非常に少ない。野手は山田の出現で西田、廣岡の抜擢も進み将来像が見えてきた。外野に若手が出てくれば見通しはさらに明るくなるだろう。

以前よりも若返りは進むが、将来性はまだまだ不安

©共同通信

■中日:総合5位(12P)

・スカウティング:5位(2P)
投手は岡田俊哉、大野雄大、福谷浩司、又吉克樹が成功し小笠原慎之介も1年目から戦力となっている。確率と選手のスケールを見ても悪くない印象だ。一方の野手は堂上直倫がようやく成功基準に到達したが完全に守備の人となった。期待の高橋周平も完全に伸び悩み、世代交代の進まない大きな要因となっている。

・育成:3位(4P)
投手は浅尾拓也、田嶋慎二がリリーフの柱となり若松駿太もローテーションの一角に定着。小熊凌祐、武藤祐太、祖父江大輔も成功予備軍に名を連ねて健闘している。こちらも問題は野手。大島洋平は看板選手となったがそれ以外で目立つのは遅咲きの福田永将くらい。社会人出身の選手を多く獲得したが軒並みプロの壁に苦しんでいる状態だ。

・トレード・FA:3位(4P)
過去10年でFAにて獲得したのは和田一浩と小笠原道大だけだが、和田は主砲となり小笠原も晩年ながら代打で存在感を示しており、2人とも狙い通りと言える。一方のトレードは控え選手しか獲得できておらず、効果的な補強となった例はほとんど見当たらない。

・外国人:6位(1P)
投手はチェン、ネルソン、ソーサの三人、野手はウッズ イ・ビョンギュ、ブランコ、ルナ、エルナンデス、ビシエドの6人が主力となっている。ただ、2007年以降で複数年活躍したのはチェンくらい。独自のドミニカ路線も大成功と呼べるのはブランコの最初の2年だけで、機能しているとは言い難いのが現状だ。

・将来性(選手の年齢構成):6位(1P)
投手は大野、田嶋、又吉、岡田など20代の中堅が中心となり、若返りは進んできた。13年ドラフト1位の鈴木翔太、ルーキーの柳裕也が活躍すれば、さらにその傾向は進みそうだ。一方の野手は一時の超高齢化は脱したものの大島はベテランに差し掛かり、平田良介、福田もすでに中堅となっている。高橋の伸び悩みがここでも大きな影を落としていると言えるだろう。

プロ野球、本当に成功しているのはどの球団? パ・リーグ編

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西尾典文

1979年、愛知県生まれ。大学まで野球部で選手としてプレーした後、筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から技術解析などをテーマに野球専門誌に寄稿を開始。修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材し、全国の現場に足を運んでいる。