文=大島和人

予想困難な初代王者争い

 アメリカのプロスポーツは総じてポストシーズのお祭り感が強烈だ。ヨーロッパのプロサッカーに比べると、シーズンを通した”メリハリ”が強い。プレーオフになると日常から祝祭へと一気に切り替わる。バスケットボールは言うまでもなくアメリカ発祥のスポーツ。ゴールデンウィーク期間中のBリーグは大入りが目立っていたが、チャンピオンシップはそれ以上に盛り上がるだろう。

 2016-17のレギュラーシーズンは昨年9月22日に開幕し、5月7日で全日程を終えた。B1の18チームのうち12チームはこれからが本番で、上位8チームがチャンピオンシップ、下位4チームは残留プレーオフに進む。つまり今週末から”お祭り”が始まる。

 1回戦(クォーターファイナル)、2回戦(セミファイナル)は2戦先取方式。5月27日(土)のファイナル(決勝)は一発勝負で行われる。

 なお1回戦、2回戦ではかなり独特なレギュラーションが取り入れられた。1勝1敗で終わった場合は日を改めて再戦するのでなく、2戦目の終了後に前後半5分ずつの延長時限を” 3試合目”の名目で行うことになっている。これはbjリーグで採用されていた日本のオリジナルルール。アリーナを抑える手間、費用やテレビ中継の枠といった”事情”もあるのだろう。

 B1は東地区、中地区、西地区の3地区に6チームずつ分けられていて、まず各地区の上位2チームがチャンピオンシップの出場権を自動的に手に入れた。残る16チームから勝率の高い2チームが“ワイルドカード”して7番目、8番目の出場権を得た。組み合わせは抽選でなくレギュラーシーズンの成績を基準として、たすき掛け式に決められた。

 1回戦は下記の4試合だ。

1「川崎ブレイブサンダース(中地区1位/三地区間1位)×サンロッカーズ渋谷(中地区3位/ワイルドカード下位)」

2「リンク栃木ブレックス(東地区1位/三地区間2位)×千葉ジェッツ(東地区3位/ワイルドカード上位)」

3「シーホース三河(西地区1位/三地区間3位)×琉球ゴールデンキングス(西地区2位/三地区間3位)」

4「アルバルク東京(東地区2位/三地区間1位)×三遠ネオフェニックス(中地区2位/三地区間2位)」

 なお「三地区間1位(2位)」とは東西中の3地区の1位(2位)チーム同士の勝率を比較した結果だ。

 地区ごとにレベルのムラがあり、順位だけで実力を測りがたい。例えば東地区は1位リンク栃木ブレックス(46勝14敗)、2位アルバルク東京(44勝16敗)、3位千葉ジェッツ(44勝16敗)の三強が完全に互角。千葉は東地区の3位ながら1月のオールジャパンを制しており、当然このチャンピオンシップでも優勝候補に挙げられる。

 バスケが野球やサッカーに比べて番狂わせの起こりにくい競技だとしても、8強から優勝争いを1つ2つに絞ることは難しい。私が見るところ5チームが横並びで、その”五強”とは先に挙げた東地区の3クラブと、中地区の川崎ブレイブサンダース、西地区のシーホース三河だ。

田臥の栃木と富樫の千葉が1回戦で激突

©Getty Images

 クオーターファイナル(1回戦)の最注目カードは、栃木と千葉の対決だろう。今季は同じ東地区でリーグ戦8試合を戦い、戦績が4勝4敗と互角。オールジャパンは準々決勝で千葉が81-62と快勝している。

 栃木は元NBA戦士の田臥勇太が円熟のプレーを見せている。若い頃のような派手目のプレーは影を潜めているが、36歳の今は試合の流れを読んだオフェンスパターンの選択、勝負所で飛び出す守備のビッグプレーなどで凄味を見せている。

 また栃木は08-09シーズンから加入した田臥を筆頭に、ライアン・ロシター、古川孝敏、熊谷尚也、遠藤祐亮、渡邉裕規など3年以上連続で在籍している主力が多い。トーマス・ウイスマンヘッドコーチも通算5季目の指揮で成熟度が高い。守備、リバウンドも栃木の強みで、

 千葉は2011年に設立された新興チームで、1月のオールジャパンで初タイトルを獲得した。今季は大野篤史・新ヘッドコーチの下で素晴らしい“化学変化”が起こっている。

 富樫勇樹は23歳で、日本バスケの新スターだ。田臥と「小柄なポイントガード」という共通点はあるが、プレースタイルは正反対と言っていい。最大の魅力は得点力で「ピック&ロール」という大型選手とのコンビプレーから、ズレを作ってシュートに持ち込む形は絶品。富樫はスピードや技術も高レベルだが、相手の動きを見てシュート、パス、突破という最善の選択をできる賢さが真の価値と言っていい。

 また千葉は富樫の他にも小野龍猛、石井講祐、タイラー・ストーンといったシュートの名手が揃っている。超オフェンス型のスタイルも特徴だが、そんな中で渋い仕事を見せているのがヒルトン・アームストロング。Bリーグにも10名程度しかいない元NBA戦士で、211㎝という長身のセンターだ。ただ大物らしいエゴはなく、彼が黙々とスクリーンをかけてスペースや時間を作っている。それが富樫や小野の得点力を引き出している。

 そのアームストロングが7日の仙台戦で負傷したという情報は気がかりだが、”最強の楯”を持つ栃木と”最強の鉾”を持つ千葉の戦いは特に楽しみな一戦だ。

 川崎と渋谷の対決は川崎が優勢だろう。川崎は旧NBLの15-16シーズンでチャンピオンとなり、当時の戦力がB1初年度も引き継がれている。ニック・ファジーカスは1試合平均27.1得点を挙げ、2位に5点差以上をつけて今季のレギュラーシーズン得点王に輝いた。210㎝と大型だが技術、駆け引きで勝負する緻密な選手で、来日5年目の”日本で上手くなった”選手でもある。どんな試合も強烈なマークを受けるが、相手の出方や特徴に応じて効果的な動き、シュートを選択する賢さが光る。

 日本人選手もファジーカスとの連携が出来ている。ガード陣は篠山竜青、辻直人の日本代表組に加えて藤井祐眞が台頭中。栃木とともにセカンドユニット(ベンチプレイヤー)の能力が抜群に高い。

 ただこの試合でファジーカスとマッチアップする渋谷のロバート・サクレは、15-16シーズンまでNBAに在籍していた”バリバリ”の大型センター(213㎝)。ファジーカスにとっても相当な難敵だ。

 三河と琉球の対決も予想は三河の優勢。ただし琉球には残り2試合で1敗も出来ない窮地から、連勝でチャンピオンシップ出場を決めた勢いがある。特に5月6日の大阪エヴェッサ戦は、20点差をひっくり返る劇的な逆転勝利だった。

 三河は208㎝・133㎏のアイザック・バッツが分かりやすい支配力の持ち主。ゴール下のコンタクトプレーやリバウンド、そしてダンクは圧巻だ。3月17日の川崎戦では試合前のウォーミングアップで二度もゴールを”破壊”し、試合開始が40分近く遅れた。スター選手としては突破とパスの”クリエイト”が光る日本人最高のファンタジスタ比江島慎、日本人最高シューターの金丸晃輔という二枚看板がいる。

 A東京と三遠の対決はA東京が有利だろう。A東京はトヨタ自動車を親会社に持ち、琉球とともに開幕戦を戦うクラブにも選ばれた、Bリーグの”巨人軍”的な存在。今季は外国籍選手3名のうち2人がシーズン中に入れ替わる不測の事態もあった。しかし単なる個人任せのスタイルではなく、チームが沈むことは全くなかった。

 A東京の特徴はメインの司令塔を日本人でなく外国籍選手が務めているところ。ディアンテ・ギャレットは元NBA選手で、1月のオールスターでも最多得票に選ばれたBリーグ最高のファンタジスタだ。

 ただし三遠にはジョシュ・チルドレスという元NBA選手がいる。彼は2004年のNBAドラフトで1巡目(全体6位)の指名を受けた超エリート選手。203㎝の長身とスピード、跳躍力を併せ持ち、センター以外のすべてのポジションでプレー可能なオールラウンダーでもある。守備力も高く「元NBA対決」はこの対決の焦点だろう。

大島和人

著者プロフィール 大島和人

1976年に神奈川県で出生。育ちは埼玉で、東京都町田市在住。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れた。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経たものの、2010年から再びスポーツの世界に戻ってライター活動を開始。バスケットボールやサッカー、野球、ラグビーなどの現場に足を運び、取材は年300試合を超える。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることが一生の夢で、球技ライターを自称している。