北卓也(川崎ブレイブサンダース)常勝監督のコーチング論vol.4 ケガ人が復帰し準備万端、いざ『タイトル奪取』へ!
外国籍選手の獲得は「最後は性格が重要」 60試合という日本バスケットボール界においてかつてない長丁場の戦いを制し、レギュラーシーズンでリーグトップの勝率を収めた川崎ブレイブサンダース。昨シーズンのNBL制覇に続くリーグタイトルを狙う川崎の北卓也ヘッドコーチに話を聞く。 まずは現在のチームについて。長期離脱していたライアン・スパングラーが4月下旬に復帰。ケガがちだった辻直人もコンディションを上げ、今週末から始まるチャンピオンシップにベストメンバーで臨む。 「時間はかかりましたが、ライアンが戻って来てくれて良かった。コンディショニングの部分で心配もありましたが、動きは問題ありません。ライアンがいない中でも、穴を埋める選手の台頭がありました。ライアンが戻ったことで試合に出られなくなる選手もいるので、そのコントロールで難しい面はあります。戦術を工夫して誰が出てもいいようにしていきたいです」 離脱期間は長かったにせよ、スタートダッシュに大きく寄与するなど頼りになるスパングラー。今季の川崎にとって唯一の新加入選手であった彼を獲得する経緯を聞いてみた。 「去年に在籍したブライアン・ブッチ(現ライジングゼファーフクオカ)はシュート力があって本当にいいプレーヤーでしたが、リバウンドをもっと強化したかったです。ブッチは大きかった(212cm)ですが、運動能力やパワーがあるタイプではなく、ニック(ファジーカス)とのコンビだと、クイックネスやスピードのところがウィークポイントになります。帰化枠もベテランのジュフ磨々道で、速さに欠ける面を狙われていました」 「そこで、走れてリバウンドが取れるプレーヤーを探していたところ、ライアンが候補に挙がってきました。もうちょっと大きい選手がいいとも思いましたが、全米大学選手権でファイナル4にまで進出した試合映像を見たら本当にアグレッシブで、ルーズボールにも素早く反応して飛び込むハードワーカーでした。あとは運動能力もあって、走れる選手でした。実際に見に行って、シュート力も思っていたよりはある。話しても好青年だったので、彼に決めました」 外国籍選手を取る際、代理人の渡す映像は良い部分を集めたハイライトとなる。やはり試合を通して見ることで分かることもある。そして北が重視するのは、直に会ってみての感覚だ。「一番は会って話してみての感覚です。そんな長い間いるわけではないので、しゃべった時の直感も大切にします。いろいろな情報を集めますが、最後は性格が重要になります」 ケガ人は出たが「残った選手が成長した部分はすごくある」 5年前に加入したファジーカス獲得の経緯についても教えてくれた。「当時チームに足りないのが得点力だったので、得点が取れる外国籍選手を探していたところ、ちょっと面白いシュートを打つけど入る選手がいると、彼の名前が挙がってきました。確かにスタッツを見ると、NBAのDリーグで1試合に30点も取ってたり、サマーリーグで数字を残している。そこからニックの情報を集めるようになりました」 また、現役時代、北は色々な外国籍選手とプレーしてきた。その中でも影響を受けた選手は多数いるが、共通しているのは練習熱心であることだ。 「スティーブ・バードやフレデリック・ルイスは本当に賢かったですし、練習も一生懸命ハードにやる選手でした。外国籍選手は日本人選手の模範になる存在です。なので、そういう意味でも練習から一生懸命やっていて、日本人の手本になるような選手であってほしいです」 バスケットボールの世界では、シーズンに長期離脱していた中心選手がプレーオフに間に合ったことで、その選手を中心に使ったが噛み合わない、というのもありがちなケース。その辺りのことを北はどう考えているのだろうか。 「やはり、ゲーム勘の面での難しさはあります。ライアンは今季がチーム1年目ですし、連携やコンビネーションがどこまで戻るか。オフェンスはできると思います。デイフェンスについても運動能力がありますので、リバウンドはかなり期待しています。これまでリバウンドを取られて負けた試合が何試合かありましたが、その辺りはライアンの復帰で強化できます。ただ、これはやってみないと分からないですね」 「辻やライアンがいない中、残った選手が成長した部分はすごくあります。ポイントガードの2人(篠山竜青、藤井祐眞)が得点によく絡むようになりました。長谷川(技)もしっかりアタックするなど良くなっています。ただ、中心選手が帰ってくると、彼らにボールを預けることが多くなります。その辺りのバランスは難しいです。辻やライアンは離脱していた分、自分がやってやろうという気持ちが強くなってしまい、ボールを持つ時間が長くなりがちです。ポイントガードとしっかり話して、全員でボールをシェアして触れるようにしていくことが一番だと今は思っています」 「本当は、みんな試合に出してあげたい」 そして今季の川崎の好成績に欠かせなかった若手の成長だが、育成について北はまずは焦らないで地道にコツコツと段階を踏んでいくことが必要で、時間が短くとも試合に出すことでこそ伸びる部分もあると語る。 「大学を卒業していきなり試合に出られる選手は一握りしかいません。大半の選手についてはコツコツだと思います。まずは練習から信頼を得ることが一番です。練習で信頼を得たら試合に出してみようとなりますし、最初は短い時間の中でも自分の良さをアピールできるようになればいいですね」 「たとえ5分でも試合に出ることで違いはあると思います。短い時間でも自分のどこが通用する、しないを学べます。本当は、みんな試合に出してあげたいのですが、そういうわけにもいかない。勝負なので仕方がないです」 最後に、今までにない試合数となったレギュラーシーズンは北にとってやはり長かったのか。率直な感想を聞いた。 「毎回のことですが、シーズン最初には『長いな』と思います。ただ、ここまでくるとあっという間だったなという感じです。ただ、いろんなことが起きるなと。ヘッドコーチは今年で6年目ですけど、本当にいろんなことが起こります。それに対しての準備の部分で、私自身勉強になっているところが多いです」
文=鈴木栄一 写真=B.LEAGUE