文=大島和人

成熟された川崎vs伸びしろのあるA東京

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 Bリーグ初年度のチャンピオンシップは4強が出揃った。準々決勝(クオーターファイナル)の4試合は、いずれも上位シードが2連勝で勝ち抜けを決めている。またbjリーグ経験のあるクラブはすべて敗れ、NBL時代からの強豪が順当に勝ち残った。

 準決勝(セミファイナル)も準々決勝と同様の「変則2戦先取方式」だ。2試合終了時に1勝1敗で決着がつかなかった場合は、2戦目が終わった直後(原則20分後)に、「5分ハーフ」の延長戦(名目上は第3戦)が開催される。

 今回はBリーグのレギュラーシーズンを見ていないかった人にも分かるように、準決勝の見どころをじっくり説明したい。

 一つ目のカードは川崎ブレイブサンダース(中地区1位/第1シード)とアルバルク東京(東地区2位/第4シード)の対戦だ。第1戦が19日(金)の19時05分から、第2戦は20日(土)の17時05分から、川崎市とどろきアリーナで開催される。

 川崎は全体1位の高勝率でレギュラーシーズンを突破した。旧NBLでは13-14シーズン、15-16シーズンと直近3季のうち2度の優勝を誇っており、ポストシーズンの強さも証明済みだ。

 センターのニック・ファジーカス、シューティングガード辻直人、ポイントガード篠山竜青といった主力は13-14シーズンから変わりのない定番の構成だ。辻、篠山と永吉佑也は16日に発表された日本代表最終候補16名へ名を連ねている。

 ファジーカスは210㎝の長身ながら反転からのフェイドアウェイ、片手のフックとシュートの形が豊富。加えてミドル、3ポイントシュートと遠目から正確に打てる精度も傑出している。動きは少し重く見えるがそれでもスペース、間を作る駆け引きは圧巻。今季は1試合平均27.1点という断トツの数字を残して、レギュラーシーズンの得点王になっている。ファジーカスと辻が「2対2」の形を作るピック&ロールは連携も含めて絶妙で、川崎の大きな強みだ。

 唯一と言っていい今季の新戦力がライアン・スパングラー。オクラホマ大を卒業して初のプロキャリアが日本という若手パワードワードだ。203㎝という体格で機動力や跳躍力に優れる彼は、リバウンドと速攻で活きる。ファジーカスにない強みを持っており、彼の加入で川崎は攻守の幅を広げた。

「個」を見れば四強間の差はほとんどないが、川崎の強みは成熟と選手層だろう。藤井祐眞は主に試合の途中から出てくる若手ガード。得点力が高いだけでなく、激しい守備で流れを変えられるタイプだ。永吉や野本建吾のような今後が楽しみな「走れる2メートル級」の若手も複数いて”つなぎの時間”に攻守の強度が落ちない。

 A東京は川崎と逆に「伸びしろ」を残すチームだ。今季はB1初得点男のトロイ・ギレンウォーターがチームの和を乱す行動により、1月末で解雇となった。ほぼ同時にアンドリュー・ネイミックも契約解除となり、クラブはシーズン半ばに外国籍選手3名のうち2名がクラブを去るという緊急事態に陥っていた。

 しかしクラブはジェフ・エアーズ、トレント・プレイステッドというアメリカ人のビッグマン二人を緊急補強。どちらも2月25日の滋賀レイクスターズ戦には間に合い、3ヶ月足らずの間に連携を作ってきた。エアーズはサンアントニオ・スパーズの一員として13-14シーズンのNBA制覇に貢献した大物。既にリバウンドやスクリーンなどで大きな貢献を見せている。

 A東京が誇る“Bリーグ最高のファンタジスタ”が元NBAポイントガードのディアンテ・ギャレット。196㎝・85㎏という長身でありながら、切れ込んでよし打ってよし技巧派だ。彼がボールハンドラ―として攻撃の全権を司っている。田中大貴も192㎝・93㎏の恵まれたサイズを持ちながら、スピードと広いレンジからのシュートが光るアウトサイドプレイヤー。ギャレット、田中の両ガードがA東京の二大得点源だ。

 また田中ともに次の日本代表に招集された207㎝の竹内譲次は、外国籍選手と五分に渡り合う日本人最高レベルのインサイドプレイヤー。ザック・バランスキーは日本育ちのアメリカ人選手(登録上は日本人扱い)で、今季は「ざっくばらん」な名前で話題にもなった。彼はオールラウンドなプレーが可能で、「6thマン」として、チームに不足するものを巧みに埋める選手だ。

 A東京はスター軍団という先入観を持たれやすいが、実は正中岳城のような「渋め」の人材が゙豊富。外国籍選手二人を欠いていた時期にも、日本人+ギャレットという陣容で名古屋や滋賀を下し、栃木と五分の戦いを見せた。35歳の青年指揮官・伊藤拓摩ヘッドコーチ(HC)は謙虚でユーモアもあるナイスガイだが、チーム作りの手腕は間違いない。

地域密着の栃木vsバスケ界の救世主・三河

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 二つ目のカードはリンク栃木ブレックス(東地区1位/第2シード)とシーホース三河(西地区1位/第3シード)の対戦だ。第1戦は20日(土)の13時05分から、第2戦は21日(日)の12時05分から、ブレックスアリーナ宇都宮で開催される。

 栃木は4強の中で唯一の実業団を母体としない市民クラブ。2008年の田臥勇太獲得が現在の成功に至る大きな要因で、トーマス・ウィスマンHCの下で翌09-10年のJBLを初制覇。ウィスマンHCの退任などで一時やや低迷していたが、13-14シーズンのライアン・ロシターが加入し、翌年にはウィスマンHCも復帰。そこからチームは上昇軌道に戻り、B1初年度の今季は最激戦区の東地区を制した。

 栃木は4強の中でファンの”熱”がもっとも高いチーム。早くから地域に密着して、ファンと良い関係を築いてきたことが奏功している。準々決勝の2試合もチケットは早々に完売していた。対戦相手の千葉ジェッツはオールジャパンを制した難敵だったが、栃木は観客の後押しも受けて2連勝で勝ち上がりを決めている。

 準々決勝の第1戦では千葉がフリースローを16投中7本しか決められないという異常事態が発生。第2戦も観客の生み出す「空気」が22点差からの逆転勝利を支えた。観客とコートの物理的な近さ、音楽と照明、天井や壁からの反響といった要素もあり、強烈な「アウェイの空気」が醸し出されていた。栃木のある選手が「6点分くらいの違いがある」漏らしていたほどだ。

 チームリーダーはもちろん田臥勇太だが、彼の出場時間は20分前後に止まることが多い。一方で遠藤祐亮、古川孝敏とハードな守備と得点力を併せ持つバックコート陣が揃っており、インサイドはロシターがリバウンド、得点でチームを牽引する。またジェフ・ギブスは188㎝・110㎏の体格と驚異的な身体能力を持ち、腕の長さも含めて”あり得ない”プレーを連発。日本代表の竹内公輔(A東京の竹内譲次と双子)も含めて人材は十分だ。

 ただし最大の強みはチーム力。点差がついても諦めず、チームとしての戦いを貫き、しばらくすると相手が崩れている…という展開は千葉との第2戦だけでない。

 三河は小説『ファイブ』のモデルになったチーム。このクラブは日本のバスケ界が低迷し、各企業の休廃部が続いていた時期に佐古賢一を筆頭とした”リストラの犠牲者”を救った。そんな選手たちを再生させて、2001-02シーズンの初制覇も含めて計6度も日本一に輝いている。鈴木貴美一HCは就任23年目。日本代表の指揮を執ったこともある名伯楽だ。

 アイシン時代からチームの栄光を支えてきた”レジェンド”が桜木ジェイアール。アメリカ生まれで元NBA選手の彼は、今季で計16季目の在籍となり、08年には日本国籍も取得している。206㎝の体格と高いスキル、状況判断を兼ね備えるパワーフォワードで、今季は外のシューターを活かすアシストに冴えを見せている。

 日本人プレイヤーは比江島慎と金丸晃輔に注目だ。190㎝のシューティングガード比江島は独特のしなやかさ、バランスで相手の逆を取るドライブを武器とする。相手の守備が揃った状態から「一手目」を打てる攻撃のクリエイターで、直近の日本代表にも入った。長谷川健志・前日本代表HCも彼を代表のエースとして重用していた。

 192㎝のスモールフォワード金丸は純粋なシューター。3ポイントとフリースローの成功率は、今季のB1でも最高のレートを記録している。琉球ゴールデンキングスとのチャンピオンシップ準々決勝では、2試合で50点を挙げていずれもチームのポイントリーダーになっていた。

 4強はいずれも互角で、しかもそれぞれ違う方向にキャラ立ちをしている個性派軍団。現地に来られない方も、NHK-BSやスポナビライブなどで、Bリーグ初年度の大一番を目にしてほしい。


大島和人

1976年に神奈川県で出生。育ちは埼玉で、東京都町田市在住。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れた。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経たものの、2010年から再びスポーツの世界に戻ってライター活動を開始。バスケットボールやサッカー、野球、ラグビーなどの現場に足を運び、取材は年300試合を超える。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることが一生の夢で、球技ライターを自称している。