文=山中忍

就任21年目で初めてCL出場権を逃したヴェンゲル

 プレミアリーグの2016−17シーズンは大物監督の競演が注目された。最古参のアーセン・ヴェンゲル、2年目のユルゲン・クロップ、プレミア就任3度目のジョゼ・モウリーニョ、そして初挑戦のペップ・グアルディオラとアントニオ・コンテ。欧州主要リーグとCLでの優勝回数だけで合わせて20を超える豪華な顔触れだ。しかし、実際の競演具合は微妙だった。

 昨季10位のチェルシーを今季王者に変えたコンテは予想以上の快演を見せた。リバプールとアーセナルに連敗して早期解任まで噂された昨年9月後半、「何としてでも解決策を」という発言に記者陣は半信半疑だった。それが、実際にプレミアでは異例の3バック基本化に踏み切り、破竹の13連勝でチームに自信と勢いを与えた。20チーム制ではプレミア初の30勝で優勝に花を添える過程では、ロナルド・クーマン新体制下で当初はトップ4を狙っていたエバートンを計8−0の2戦2勝で蹴散らしてみせた。

 競争相手となった2位トッテナムでは、マウリシオ・ポチェッティーノ監督が有望株から大物へと1歩も2歩も近づいた。リーグ最多の86得点と最少の26点で38試合を終えたチームでは、トップ下のデレ・アリが課題の得点数を昨季の10から18に伸ばし、29得点のハリー・ケインが2年連続のリーグ得点王に成長。やはり国産の若手であるハリー・ウィンクスも中盤で頭角を現し、イングランドのメディアでは、「外国人の新監督はポチェッティーノを見習うべし」とも言われるようになった。

 しかし、他の大物監督たちは精彩を欠いた。リバプールでトップ4復帰の現実目標を達成したクロップには及第点を与えてもよい。トップ6対決での無敗が格下相手の取りこぼしで相殺されてしまったのは残念だが、攻撃のキーマンであるフィリペ・コウチーニョに怪我で欠場して調子を落とした時期がなければ優勝を争えた可能性はある。

 一方、リバプールとの4位争いに敗れたアーセナルでは、就任21年目にして初めてCL出場権を逃したヴェンゲルが自身の去就で注目を浴びた。6節チェルシー戦(3-0)などはパスサッカーの見本のような快勝だが、それ以上に30節クリスタルパレス戦(0-3)など惨めな敗戦が目に付いた。センターハーフ起用が奏功していたサンティ・カソルラの長期欠場が響いたが、補強でも決定権を持つベテラン監督としては、中盤中央が本職ではない32歳を失った途端にチームのひ弱な「腹筋」が露呈される事態を招いてはならなかった。

監督キャリア初の無冠に終わったグアルディオラ

©Getty Images

 そして、超大物とも言える2名。グアルディオラのマンチェスター・シティ1年目は無冠に終わり、最終節で3位につけるのが精一杯だった。ボールを支配して攻めるスタイルへの取り組みは、チームに今季リーグ最多のパス22706本を記録させ、18ゴールを演出したケビン・デ・ブライネをプレミアのアシスト王へと進化させてはいる。しかし、7節トッテナム戦(0-2)で「グアルディオラ流の対決でポチェッティーノに敗れた」と言われように、マンCを作り変えるには時間が必要だった。“スイーパーキーパー”としてのクラウディオ・ブラボ獲得は失敗としか言いようがない。

 モウリーニョはリーグカップ優勝とヨーロッパリーグ優勝でマンU1年目を終えた。後者はCL出場権の獲得と共に、テロ事件直後に「マンチェスター不屈」を世に示す優勝でもあった。とはいえ、指揮官自身が仄めかした「成功」という今季評には頷けない。別ルートでCL復帰を実現したがプレミア6位は期待外れ。リーグ戦25試合連続無敗はクラブ新記録だが、うち12試合が格下相手を含む引分けで勝てなかった印象が強い。移籍1年目に大物らしく国内外で計28得点のズラタン・イブラヒモビッチがいなければ、今季は「失敗」に終わっていただろう。

 モウリーニョが、クラウディオ・ラニエリに贈った「友よ、笑顔を絶やさずに。誰も君が打ち立てた歴史を消せやしない」というツイートにはさすがの品格があった。だが、昨季にレスター優勝の奇跡を起こしたラニエリが降格の危機を招いて途中解雇された事実も消えない。他にも、昨季7位のウェストハムで上昇への舵取りが期待されたスラベン・ビリッチが、ディミトリ・パイェの流失や新スタジアム適応への苦戦もあって11位への降下を防げなかった。

 もっとも、同じ中位では59歳のトニー・ピュリスと39歳のエディ・ハウが、それぞれウェストブロミッジとボーンマスを10位と9位 に押し上げ、大物監督がプレミアに挑戦する理由でもある「リーグ全体の競争力」を示してもいる。降格したサンダーランド、ミドルズブラ、ハルの北東部トリオは揃って新監督を探さなければならないが、同地域からはニューカッスルのラファ・ベニテスが2部優勝監督としてプレミアに戻ってくる。来季こそ、大物をはじめとする実力派監督陣の本格的な競演を期待したい。


山中忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。94年渡欧。第二の故郷西ロンドンのチェルシーをはじめ、「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会、及びフットボールライター協会会員。著書に『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』(ソル・メディア)など。多分に私的な呟きは@shinobuyamanaka。