文=座間健司

指揮官ジダンだからこそ成立したローテーション

 レアル・マドリードが通算33度目のリーガ制覇を達成した。毎シーズンお決まりのレアル・マドリードとバルセロナという2大クラブ(近年では時々アトレティコ・マドリード)の38節に及ぶ持久走にレアル・マドリードは5シーズンぶりに競り勝った。

 レアル・マドリードの勝因、そしてバルセロナの敗因として地元メディアが盛んに取り上げるのが、ローテーションだ。

 レアル・マドリードは、クリスティアーノ・ロナウドの起用法に象徴されるように、絶対的なエースであろうが、過密日程を考慮し、休息をとらせた。たとえばリーガ32節スポルティング・ヒホン戦、34節デポルティーボ・ラ・コルーニャ戦、36節グラナダ戦などシーズン終盤の格下相手のゲームにはポルトガル人ストライカーは招集されなかった。彼だけでなく、主軸であるベンゼマ、トニ・クロース、モドリッチらもピッチに立つことなく、普段はベンチに座るイスコ、モラタ、ハメス・ロドリゲス、ルカス・ペレスを先発で起用し、なおかつとりこぼさなかった。と同時にもう1つの大きなタイトルであるチャンピオンズリーグでは不動のスタメンを起用し、ロナウドはチャンピオンズリーグ準々決勝バイエルン・ミュンヘン戦で2試合5得点、アトレティコ・マドリードとの準決勝ファーストレグではハットトリックを達成した。ジダン監督は主軸を休ませ、他クラブではエースになれるイスコ、モラタらのタレントら豪華な陣容もきっちり使い切るという見事なローテーションでリーガを制覇し、欧州王座連覇に王手をかけている。
 
 一方、バルセロナは昨夏に1億2280万ユーロ(約142億円)を使い、6選手を補強したが、フランス代表センターバックのウムティティがスタメンの座を掴んだが、アンドレ・ゴメス、パコ・アルカセルなど他の5選手はスタメンを脅かすどころか、ローテーションで起用されたゲームでもことごとく結果を残すことができなかった。ゆえにバルセロナはどのゲームでもMSN(メッシ、スアレス、ネイマール)を中心にいつものメンバーが名を連ねた。メンバーの質と量は、レアル・マドリードのそれとは全く見劣りしない陣容に推測されていたが、補強した選手の適応が遅く、ルイス・エンリケは新加入選手のタレントを引き出せなかった。その結果、リーガでは取りこぼしが多く、主軸もチャンピオンズリーグ準々決勝ユベントス戦では2試合無得点で敗退した。

ロナウドより326分、出場の長かったメッシ

©Getty Images

 ローテーションの他に焦点となるべきは、両指揮官のマネージメントの違いだ。特にエースとの関係だ。つまりジダン監督によるクリスティアーノ・ロナウドの起用法とルイス・エンリケ監督によるメッシのそれだ。スペイン紙『マルカ』によれば、クリスティアーノ・ロナウドは今シーズンこれまでに4,036分ピッチに立ち、40得点を決めた。一方、スペイン紙『エル・パイス』によれば、メッシは4,362分出場し、53得点18アシストを記録した。時間にしてみれば、メッシの方がロナウドよりも326分、約3試合半多くピッチに立っただけだ。しかし、この3試合半にジダンとルイス・エンリケのマネージメントの違いが見て取れる。

 クリスティアーノ・ロナウドとメッシは言わずもがなピチーチ(リーガ得点王)、バロンドールと毎シーズン個人タイトルを争うフットボール史の頂点に名を残す偉大な名手だ。選手であれば、誰もが1分でも長くピッチでプレーしたい。メッシ、ロナウドが「プレーしたい」と言えば、休息をとった方がいいと思っていても、なかなか「ノー」と言える監督はいない。なぜなら彼らの機嫌を損ねれば、本来の力をピッチで発揮してもらえない可能性あるからだ。ピッチでプレーするのは結局選手であって、彼らが走らなければ試合は勝てない。プロフェッショナルで、しかも世界最高峰のクラブで活躍する選手たちの自尊心は強く、その中でもエースの2人のプライドは高い。高くなければ今彼らがいる位置にはない。しかし、クリスティアーノ・ロナウドは格下との出場試合数が減り、と同時に得点王の可能性が遠ざかることを承知し、ジダンのローテーションを受け入れた。メッシは補強した選手が見込んでいたパフォーマンスをできなかったというチーム事情は違えど、ほとんどピッチに立ち続けた。ジダンはロナウドを説得でき、ルイス・エンリケはメッシを納得させられなかったのではないか。

 ジダンは現役時代、世界中の誰もが知るスーパースターだった。そんな人間の言葉は、ラファ・ベニテスのような他の監督たちと同じ事を言っていたとしても、レアル・マドリードに所属する現代のスターたちにさえ、違う響きを持って伝わる。ジダンだからこそ、レアル・マドリードでローテーションができたのだ。

 新監督を選び進めるバルセロナとは対照的だ。バルセロナは「エルネスト・バルベルデにロッカールームがオーケーを出した」や「ネイマールがウンスエと喧嘩、ウンスエという選択肢はなくなった」とまるで選手たちが指揮官を選んでいるかのような報道が目立つ。マドリード寄りではなく、バルセロナ寄りのメディアからもそんなニュースが出る。ロッカールームのイニシアチブが、監督と選手どちらにあるのか。それが今シーズンのレアル・マドリードとバルセロナの相違する点でもあった。

 ジダンはグアルディオラのように革新的な戦術、戦略、戦い方を打ち出したわけでもない。ジダンのチームはその後フットボールのスタンダード、定型になるわけではないが、チャンピオンズリーグ連覇を達成しようとしている。フランス人指揮官はそのカリスマもあって、手元にある素材の良さを最大限に引き出しているに過ぎない。だが、世界最高のメンバーを揃えるレアル・マドリードの監督は、それだけでいいのだ。


座間健司

1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中からバイトとして『フットサルマガジンピヴォ!』の編集を務め、卒業後、そのまま『フットサルマガジンピヴォ!』編集部に入社。2004年夏に渡西し、スペインを中心に世界のフットサルを追っている。2011年『フットサルマガジンピヴォ!』休刊。2012年よりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。