平均視聴者数は8年連続で1億人を突破

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 プロ・アメリカンフットボールNFLのシーズン王者を決める一戦、スーパーボウル。その2016年シーズン優勝決定戦、第51回が現地2月5日、アメリカ・テキサス州ヒューストンのNRGスタジアムで開催された。AFC王者ニューイングランド・ペイトリオッツはNFC王者のアトランタ・ファルコンズに一時25点差までリードを許したが終盤に追いつき、スーパーボウル史上初の延長戦に持ち込んだうえ、ランニングバック、ジェームズ・ライトのタッチダウンで逆転勝利を収めている。ペイトリオッツにとって5度目の優勝となった。

 スーパーボウルはアメリカ最大のスポーツイベントと呼ばれるが、今回もそんな劇的な展開に違わぬ大きな盛り上がりを見せた。まず取り上げたいのが、全米向けテレビ中継だ。今回の中継は4大ネットワークの一つ、FOXによって行われたが、その平均視聴率は48.8%、平均視聴者数で1億1130万人を記録している。1月23日に行われ、ペイトリオッツが9回目のスーパーボウル進出を決めたAFCチャンピオンシップの視聴率が27.6%、平均視聴者数が4795万人で、それもそれでNFLの人気の高さを示す好数字だったのだが、スーパーボウルはさらに一段格が違うことがわかる。

 ちなみに最も視聴率が高かったのは試合最終盤の東部時間午後10時から10時30分にかけてで、視聴率が52.1%、占有率は実に74%に上ったということだ。

 スーパーボウルのテレビ中継の平均視聴者数はこれで8年連続1億人突破となっている。ただし第49回で記録した1億1440万人をピークに2年連続で微減となった。今回後半の途中までファルコンズがリードする一方的な展開だったことが原因といえそうだ。とはいえ多チャンネル化が定着しているアメリカにおいては驚異的な数字であり、いかにお化けコンテンツとなっているかわかるのではないだろうか。

たった1試合で開催地に2億ドルの経済効果

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 ほぼ確実に視聴率40%以上、視聴者数1億人以上を見込めるのだから、その中継内で流されるCMの価値ももちろん非常に高くなっている。毎年世界最高額のCM放送権料を更新するのももはや恒例で、今回の場合30秒のCMを1回流すための平均放送権料は500万ドルに達した模様だ。

 そしてそれだけ高額な放送権料を支払うとあって、広告主の企業は高い制作費をかけた豪華な新作CMを競って放送する。そのためスーパーボウル中継で流されるCMはスーパーボウルCMと呼ばれ、これも人気となっているのだ。ある調査では2割の人がスーパーボウルCMを目的に中継を見ると答えたという結果もあるほどである。

 今回、70近い企業、組織のCMが放送された。さらにFOXは試合の前後にも関連番組を放送しており、それを合わせるとスーパーボウルの1日だけで約5億ドルの広告収入を得たと見込まれている。

 ちなみに全国紙USAトゥデーによるCM人気ランキングでトップになったのは韓国の自動車メーカー、現代自動車の傘下にある起亜自動車の「ヒーローズジャーニー」という作品だった。

 もちろん大きなビジネス効果をもたらすのはテレビ中継だけではない。金融会社、BBVAコンパスによれば今回の開催都市ヒューストンに与えた経済効果は2億ドル以上と見積もられている。MLBのワールドシリーズやNBAファイナルズと違って1試合しかないのにだ。

 これは毎回スーパーボウルの開催都市にはスタジアムの収容人数を上回る10万人規模の人々が訪れるためだ。試合関係者や観客だけなく、スポンサー関係などのビジネス客も集まるのである。さらに地元内外のファンに向けて、ダウンタウンやコンベンションセンターでNFLのテーマパークや屋外ライブなどのイベントが試合の1週間以上前から多数開催される。試合前日の夜にはスポンサーやメディアによるセレブが招待されるパーティーがいくつも開催され華やかに試合前夜を盛り上げたりもする。1試合しかなくても巨大なエンターテインメント・イベントともなっているのだ。

 もちろん運営コストも高く、今回の場合6900万ドルと試算されていた。しかし十分な収益を得られる計算である。また、開催都市となると全米からの注目度が上がり、観光面でプラスになったり、開催都市になることで再開発が促進されるとする研究もある。

 まさに“正のスパイラル”に入り、世界的にも例を見ないレベルでの成長を続けているのがスーパーボウルなのだ。


渡辺史敏

兵庫県生まれ。ジャーナリスト兼NFLジャパン リエゾン オフィスPRディレクター。1995年から2014年3月までニューヨークを拠点にアメリカンフットボールやサッカーなどスポーツと、さらにインターネット、TV、コンピュータなどITという2つの分野で取材・執筆活動を行う。2014年4月に帰国、現職に。『アメリカンフットボール・マガジン』『日刊スポーツ電子版連載コラム:アメリカンリポート』『Sports Graphic Number』などで執筆中。