【第二回】川淵三郎×池田純 スポーツエンターテイメントの経営と未来 Vol.2

川淵三郎氏と池田純氏、スポーツ経営における2人の革命児がスタジアム、アリーナについて語る。ハードとの一体経営がプロスポーツクラブにもたらすものとは——

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もう辞めたと言うんで、ビックリした(川淵)

©新井賢一

池田 2016年10月16日に契約を終えてベイスターズとDeNAの両方を去りました。

川淵 契約を終えたって言ったって……。何でなの?

池田 社長になってから、最初の4年間の横浜DeNAベイスターズは「企業再建」のフェーズでした。ベイスターズは、親会社であるDeNAの子会社であるとはいえ、何もない状況だったので、すごく自由にやらせてもらいました。人気も出て、収益も上がる中で、会社としてのフェーズが変わった。「再建」という自分の役割が終わった。

川淵 ここまでやってきたのなら契約を終えたからと言ったって、まだやりたいことがいっぱいあっただろうから、何でかなと思ったよ。今日、初めて辞めたことを知ったよ。

池田 契約で成り立ってますから、契約が更新されないとどうにもなりません。私はオーナーじゃないですし、結果次第でいずれは辞めないといけなくなります。最初の契約期間は3年間でした。「もう3年に延ばしてください」とお願いしたんですけど、「あと2年だ」となりました。2014年の当時に、これだけ業績を伸ばしても2年にしかならない。そうなのだとすると、いつまでもできるわけじゃないだろうし、契約がある5年の間に結果をしっかり出したら自ら去るべきだろうと……。

川淵 どこかJリーグのクラブに行ってよ(笑)。

池田 今日、村井満チェアマンと中西大介常務理事から、Jリーグ特任理事への就任を承認いただいたとうかがいました。

川淵 うん、理事は理事でいいんだけど、もうちょっと経営の本体のほうに入ってくれるようなね……。横浜DeNAベイスターズはスタジアムを自分のものにした。あれが将来一番大事になることを理解した上でやっていて、他の球団とはまるで考え方が違う。池田さんと南場智子オーナーはうまく気心が合っていたんだ。これからまた変わっていくんだと思っていたら、もう辞めたと言うんで「あれ?」とビックリしちゃったのが正直なところ。

池田 契約が更新されない、更新しないということは、すでに2016年の1月には決まっていて、その段階で今年(2016年)いっぱいで終わりと決まっていました。契約が終了したんです。

池田の功労と今後の横浜DeNAベイスターズ

©共同通信

(写真=横浜DeNA入りが決まり、池田純球団社長(左)、高田繁GM(右)と記念写真に納まるラミレス)

川淵 次の体制とか、僕は意見する立場じゃないけど……。でも、この5年間の功労が大きいということは、僕もよくわかっています。ひとつは、ラミレスを監督に決めたことが挙げられる。彼自身の知名度や人気とかが、横浜DeNAベイスターズの知名度や観客動員を上げたことは確か。ああいう思い切ったことを普通はしにくいからね。まだまだ変わったことをやるんじゃないかなと思っていて、密かに期待していたんだよ。

池田 そうですね。今までは、だいぶ柔軟かつ大胆にやらせてもらいました。ここからさらにどうなっていくのか楽しみですね。私も外部から期待しています。私のときに、ベイスターズがDeNAから借金して、78億円くらいでスタジアムを買収したこともあり、DeNAグループとして大きなお金も動いたので、ベイスターズも次のフェーズに移行するでしょう。

78億円買収劇の内幕

©新井賢一

川淵 78億円ってさ、オレに言わせりゃ安いよ。

池田 安いですよね。

川淵 安い。よくそんなお金でね……。株主は横浜市?

池田 個人株主が多かったんですよ。600人くらいの市民が持っていて、それを1人ずつと話をして回り買い集めました。その前段階で、ベイスターズとしてしっかり経営しだしたよねっていう状態にならないと経営を任せてくれないと考えていたんですよ。それで売ってもらえるようになって、横浜市にはそのまま持ってもらいました。他に建設会社とかテレビ会社とかが持っていて、それらを譲ってもらって76%を取ることができました。

川淵 それは大したものだよ。それは予想外に安いなって思った。普通、そういう株主はなかなか手放さないしね。株主がそんなに多かったなら、こんなに厄介なことはないよ。もうお亡くなりになった森稔さんが六本木ヒルズを作るのに、10何年もかかったんだよね。地元の人を説得して最後は1軒1軒当たって、最終的に了解を得て作った。そういうことを考えると、それを短期間によくやったね。

池田 「買収したいんです」とは誰にも言えなくて、裏でずっと人間関係を作らせてもらっていました。それで、地元の方々に結構可愛がっていただくようになりました。それで自分たちの経営もきちんとしてお客さんも入り、みなさんにも来てもらえるようになって、「じゃあオマエたち運営したらどうだ?」って言ってもらえるようになったんですよ。それで重鎮の方々に話をさせてもらえるようになりました。そしたら「いいぞ。応援してやる」ということで、横浜の魂である横浜スタジアムを任せてもらえる方向になりました。あとは2ヶ月くらいの間に600人くらいを訪ね回って、一気にやったんですよ。

川淵 それは本当にすごいね。そういうすごさを世間の人はわかってないね(笑)。

【第二回】川淵三郎×池田純 スポーツエンターテイメントの経営と未来

川淵三郎氏と池田純氏、スポーツ経営における2人の革命児がスタジアム、アリーナについて語る。ハードとの一体経営がプロスポーツクラブにもたらすものとは——

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岩本義弘

サッカーキング統括編集長/(株)TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者/(株)フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。 国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。