文=中村大晃
転機となった1月のラツィオ戦
昨夏、ユーヴェはイタリア史上最高額の9000万ユーロ(約110億円)でナポリからゴンサロ・イグアインを引き抜き、ローマからミラレム・ピアニッチも獲得。バルセロナを退団したダニエウ・アウベスも加え、史上初の6連覇とチャンピオンズリーグ(CL)制覇への本気度をうかがわせた。
しかし、シーズン前半戦は、決して順風満帆ではなかった。インテルやミランに加え、格下ジェノアにも黒星を喫してしまう。12月のスーパーカップでもPK戦の末にミランに屈し、タイトルを逸した。冬には一部主力が不満を隠さず、マッシミリアーノ・アッレグリ監督もいら立ちをのぞかせるなど、不穏な空気が取りざたされたほどだ。
転機を迎えたのは、フィオレンティーナ相手に今季4つ目の黒星を喫した1月。好調ラツィオとの一戦で、アッレグリ監督はフォーメーションを4-2-3-1に変えた。イグアイン、パウロ・ディバラ、マリオ・マンジュキッチ、フアン・クアドラード、サミ・ケディラ、ピアニッチの5人を同時起用する大胆な戦術が大ヒット。これを機に、王者は一気に上昇気流に乗る。
あらためて評価を高めたアッレグリ監督は、ポルトとのCL決勝トーナメント1回戦ファーストレグで、前の試合で反抗的な態度を見せたレオナルド・ボヌッチをベンチメンバーからも外す荒療治を強行。チームの気を引き締め直し、マネジメント能力の高さを見せつけた。
結局、ユーヴェはラツィオ戦から公式戦15試合13勝2分けと約3カ月にわたって完ぺきな歩みを披露。3冠を目指す中で、優勝濃厚となった終盤に若干の勝ち点を落としたが、終わってみれば「やっぱりユーヴェ」の印象を残して6連覇の偉業を遂げた。
クラブ最多勝ち点を挙げたローマとナポリ
©Getty Images 対抗馬だったローマとナポリのうち、前者は序盤戦のつまずきに加え、肝となるタイミングで勝ち点を落とした。ナポリはアルカディウシュ・ミリクの離脱以降、ドリース・メルテンスのトップ起用が定着するまでの停滞が痛かった。裏を返せば、要所要所を抑えるユーヴェの「らしさ」が光ると言えるが…。
ただ、ローマとナポリも不甲斐ない出来だったわけではない。むしろ、勝ち点87と同86は、それぞれクラブレコードだ。ローマは白星の数でユーヴェまで1つと迫り、ナポリは黒星(4)がユーヴェを下回った。しかも、ともに90得点以上を記録している。「攻撃的で魅力的なサッカー」を保ちつつ、成績も向上させたのだ。
攻撃的になったのは、南の雄たちだけではない。リーグ総得点は1123と欧州5大リーグ最多の数字を記録。得点王に輝いたエディン・ジェコをはじめ、メルテンス、アンドレア・ベロッティ、イグアイン、マウロ・イカルディ、チーロ・インモービレと6選手が20ゴール以上をマークした。これは19年ぶりの快挙となる。
その裏で、60失点以上を記録したチームは8クラブにのぼった。最多81失点の最下位ペスカーラは、わずか3勝の勝ち点18という体たらく。彼らやパレルモは、早くから降格確実と言われた。クロトーネこそ最後の9試合で勝ち点20と驚異の巻き返しで奇跡の残留を遂げたが、「格差社会」の広がり、つまりリーグの競争度を懸念する声もある。
一方で、下馬評を覆す躍進で欧州への切符を手に入れたラツィオやアタランタが、リーグを盛り上げたことも忘れてはいけない。
期待を裏切ったミラノ勢、日本人選手の動向は?
©Getty Images 逆に、今季も落胆させたのがミラノの2チームだ。開幕前から監督交代でドタバタしたインテルは混迷を極め、前半戦は好調だったミランも、スーパーカップ制覇を最後に転がり落ちた。ヨーロッパリーグ出場権をめぐる6位攻防戦は、ミラノ勢の衰退ぶりを如実に物語っている。
本田圭佑と長友佑都にとっても、苦しいシーズンとなった。契約最終年でレギュラーの座を失った本田は、8試合出場1得点、先発わずか2試合という結果に。フル出場したのは、「ご褒美」的にキャプテンマークまで渡された最終節だけだった。一方、チーム同様に調子を落とした長友も、ステファノ・ピオリ監督の就任以降は完全にベンチに降格。ライバルの負傷で終盤は出場機会を得たが、敗戦につながる致命的ミスを犯すなど酷評され、夏の放出が有力視されているところだ。
それでも、中国資本の経済力もあり、ミラノ勢は来季の復活が期待されている。インテルは今季を教訓に大ナタを振るうと言われ、敏腕ディレクターのワルテル・サバティーニを招へいした。ベルルスコーニ体制が終焉を迎えたミランも、久しぶりに大型補強のニュースが紙面を賑わせている。
もちろん、ミラノ勢の復活が確約されているわけではない。だが、彼らが新たなサイクルを始めようとしているのは確かだ。それは、フランチェスコ・トッティに“引導”を渡したローマも同じだろう。
絶対王者ユヴェントスも、守備陣の高齢化は否めない。3冠を達成した場合、主要メンバーの去就も注目される。来季も「ユーヴェ1強」が続くとは限らない…のかもしれない。