文=向風見也

大会まで2年あまり。45%が「開催を知らない」という現実

 いまから約2年3カ月後の2019年9月、ラグビーのワールドカップが日本でおこなわれる。

 4年に1度のビッグイベントだ。イングランドで2015年に開かれた前回大会では、日本代表が歴史的な3勝を挙げて爆発的なブームを巻き起こした。

 ところが現在、状況はやや変わっている。東京都生活文化局が2017年1月31日に発表した「ラグビーワールドカップ2019の周知度・関心度」という調査によれば、回答者1820人中44.8%もの人が「ラグビーワールドカップが開催されることを知らない」と応じているという。

 熱しやすく冷めやすい傾向にある日本列島へ、ひとつのスポーツを継続的に楽しむ文化をどう定着させるか。そんな課題解決の糸口として、ある試みに注目が集まっている。

「秩父宮みなとラグビー祭り2017」。東京都港区で6月6日から6日間かけて続く、ラグビーやラグビー選手と触れ合う非日常的な期間である。

 自治体や日本ラグビー協会のメンバーからなる実行委員の1人が、思いを明かす。

「ラグビー界の思いを持った方々にご協力していただくなかで、我々のやりたいことが形になっていった。それだけに責任は重い。必ず成功させなければいけない」

 目玉は、最終日の11日に組まれた国際親善試合である。

 カードは豪華だ。スーパーラグビーで2014年の王者となったワラターズに対し、昨年度の国内タイトルを総なめにしたサントリーが対抗する。

 ちなみにワラターズのあるオーストラリアは三田に大使館を持ち、サントリーも港区赤坂に本社を構えている。いずれも港区との縁は深い。リコーやダイキン工業など日本のスポンサー企業へ謝意を示したいワラターズ側と、競技文化を根付かせたい実行委員側のニーズが一致。結果、この豪華なマッチメイクが実現した。

“聖地”を活かした地元振興で住人のアイデンティティを作る

©独立行政法人日本スポーツ振興センター

 会場となるのは、こちらも港区の秩父宮ラグビー場だ。実行委員が管轄する独立行政法人日本スポーツ振興センターの要職へ交渉し、「聖地」と謳われるステージが使えることになった。

 試合前のグラウンドでは、都内のラグビースクール対抗の交流試合、元ラグビー日本代表選手らによる初心者向けラグビー教室、レベル別の女子ラグビークリニックも実施される。さらに当日は、最寄りの外苑前駅から会場までのスタジアム通りが車両通行止めとなる。

 グラウンドの目の前には事実上の歩行者天国やフードコーナーができ、ファンは朝からビール片手にキックオフを心待ち。アイドルグループのライブステージもある。ワールドカップの試合直前のような雰囲気にできたらいい。

 試合日よりも前は、まさに「ラグビーワールドカップが開催されることを知らない」層へのアプローチを重ねる。来日したワラターズ勢のアクティビティを通し、ラグビー選手のキャラクター、親善試合の実施をアピールする。例えば、外国から来たラグビーの選手が東京タワーの階段をダッシュで昇っていたら、それだけで注目を集めるだろう。

 6月8日の木曜には、八芳園でレセプションが開かれる。会費制で集める300名のファンには、試合の自由席チケットを1枚プレゼントする。

 秩父宮ではワールドカップの本大会はおこなわれないなか、実行委員の願いは熱い。

「とにかく、スタジアム通り前の車を止めることに全力を尽くしてきました。ワールドカップが来る。ただ、いまのままでは、ワールドカップ期間中に秩父宮では何も起こらない。港区は、それでいいのですか? もったいないですよね? と投げかけてきました。港区で言えば、住む人と働きに来る人の人数の差が激しい。そんななか、住む人に地域のアイデンティティを作るのにスポーツスタジアムを活用できれば……」

 秩父宮は港区だけでなく新宿区、渋谷区にも隣接している。それだけに来年以降は、より広範囲での「祭り」も期待される。「聖地」のイベントに携わる矜持もあるから、今後のマッチメイクについてもよりプレミア感を出したいという。

 それだけではない。今回の運営で必要になった事務的手続きやものの進め方などは、できる限り明文化。それらはワールドカップ開催都市の自治体や各地域のラグビー協会などにとって、機運醸成事業をする際の参考になるかもしれない。言葉は熱を帯びる。

「スポーツを地域振興に繋げる。それはこれまでいろいろな方ができなかった課題だと思っています。我々にどれだけできるのかわかりませんが、誰かがその画を描いていかなくてはいかない」

 もちろんいまは、最初の「祭り」の成功に心血を注ぐ。はじめの一歩。まずは満員のスタジアムが見たい。

「秩父宮みなとラグビー祭り2017」公式HP
向風見也

著者プロフィール 向風見也

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、ラグビーのリポートやコラムを『ラグビーマガジン』や各種雑誌、ウェブサイトに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。