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バルセロナを2試合完封した鉄壁のユベントス

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岩政 決勝戦の対戦カードは、レアル・マドリード対ユベントスというスペインとイタリア両国のチャンピオンチームの対戦になりました。

戸田 両クラブの歴史、抱えている戦力、今シーズンの出来を見ていると、一番見たい決勝戦になりました。僕は現地に行かせてもらうのですが、ワクワクがとまりませんね。

岩政 まずユベントスの戦力から見ていきたいのですが、今シーズンは、ダニエウ・アウベスとイグアインを補強し、チャンピオンズリーグを獲りにいくための補強をしました。そして実際、決勝まで勝ち上がっています。

戸田 両選手ともにチームにフィットするまで時間がかかりました。イグアインに対してもディバラが気を使っていたり、アウベスも骨折をして戦列を離脱した時期もありましたが、年明けは良くなりました。極めて完成度が高く、守備面で素晴らしい組織を持ちながら点を取れる。ですから、これは強いですよ。リーグでも6連覇を達成しましたし、決勝戦に進出するチームとして、何も言うことがない。(ファイナリストに)ふさわしいチームだと思います。

岩政 ユベントスの今シーズンの勝ち上がり方を見ると、無失点の試合が多いですね。

戸田 はい。基本的に、失点がありません。グループリーグは(6試合で)2失点、決勝トーナメントでもモナコ戦のセカンドレグで1失点だけ。失点が少ないだけではなく、ピンチ自体もあまりないんです。なぜかというと、監督、GK、最終ラインがイタリア人で、根底にはイタリアの血が流れている。選手のレベルも高いですが、組織としてもレベルが高い。彼らの戦いを振り返る中で、一番衝撃だったのは、準々決勝のバルセロナ戦です。バルセロナと2試合やって、1点も許していない。バルセロナからしても、衝撃的だったと思います。

 ユベントスがどんなことをしていたか。準々決勝のセカンドレグの開始早々を見ると、バルセロナのビルドアップに対して、少しずつ少しずつボールを奪いに行くのですが、見事にアンカーのブスケッツを消したり、センターバックにけしかけて、顔を上げさせていません。バルセロナに長いボールを蹴らせて、それを回収する。ファーストレグを3-0で勝利した後のセカンドレグの立ち上がりの守備です。完全にボール中心の守備で、前線に怖い選手が3人いても、そこにボールを渡さない。ブスケッツのところをしっかりケアして、中央を閉じて、少しずつ制限をかけていき、全体で微調整をしながら自分たちが狙ったゾーンに長いボールを蹴らせてボールを回収する。一見、簡単そうに見えますが、ピッチの平面の視野で、瞬間、瞬間に判断して遂行する。さらにバルセロナの前線にはトリデンテ(メッシ、スアレス、ネイマール)がいますからね。相当、怖いことだと思います。

 別の場面ではプレッシングではなく、相手を自陣に引き込んだ守備からカウンターまで持っていっています。きれいに距離を保ちながら、イヤなコースは消して、ジリジリと追いつめていく。そしてボールを奪ったところから、見事にカウンターに持っていきます。プレッシングだけではなく、構える守備も持っているチームですね。岩政さんは、どう見ましたか?

岩政 全員が常に動いていて、その中で、誰が出るべきか。行くべきか、行かないべきか、もしくは人を見るべきか、スペースを見るべきかを考えて、みんなが一緒に動いていますよね。意図が切れていません。そして、相手に出さざるを得ないパスを選択させておき、そのボールを取った瞬間には相手の空いているスペースを狙う。そのカウンターを仕掛けるところまで、全員が同じ絵を描けていますよね。

戸田 この場面でもボールをクリアーするのではなく、狙ってパスしていますよね。ゴールに直結するコースを、ボールに近い選手がしっかりと消して、その選手に対してまわりの選手もカバーにも行けるし、自分もアプローチにも行ける。そういうものを感覚として持っているのでしょうね。

危うさを抱えながらも相手を打ち破るレアル・マドリー

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岩政 ユベントス、強いなという印象がありますが、もう一方のレアル・マドリーも、違う意味で強いなという印象があります。

戸田 そうですね。とにかく各ポジションに、地球上で考えられる最高レベルの選手がそろっているな、と。脆さみたいなものが同居しながらも、それを打ち負かす強さ、すごさがあります。ユベントスとは意味合いが違いますが、各個人の能力の高さを含めて、強いなと思います。

岩政 ここまでの勝ち上がり方を見ても、先ほどのユベントスの数字とは全然違います。点は取っていますが、取られてもいます。

戸田 そうです。取るけど、取られる。そういう危うさみたいなものを常に抱えながらの戦いになっています。その意味では、BBC(ベンゼマ、ベイル、C・ロナウド)の3枚を前で使う難しさが出ています。ナポリ戦、バイエルン戦でも、相手が勝てた試合かなと思っても、打ち破ってきました。このチームは、理にかなっていなくても、点を取ってしまう。C・ロナウドは基本的には、左ウイングでずっとプレーしてきましたが、今シーズンは2トップでプレーする機会が増えました。なおかつ、ゴールのシーンで1タッチで決めるシーンが増えてきました。彼自身、年齢を含めて、自分のプレースタイルを変えていると思いますが、結局、点を取りまくっているのは彼です。

 たとえば、バイエルン戦の得点シーン。前半は4-3-3でサイドを突かれてうまくいかず、後半に2トップに変えて、すぐに点を取ってしまいました。センターバックの視点からすると、いかがですか?

岩政 (DFは)GKとの間のスペースが怖いのですが、それをC・ロナウドはよく知っているなと。それでも、(レアル・マドリーは)ここまで試合の流れをつかめていなかったんですよね。

戸田 これもリスタートからのゴールなんですよね。ちょっとしたところなんですが、一瞬で点を取ってしまうのは、レアル・マドリーの強さの一つですね。アトレティコ・マドリーとの準決勝ファーストレグの3点目の場面は、カウンターでした。もともとレアル・マドリーが持っている武器ですが、速いですし。スペースの使い方もうまいですし、結局、決めるところにC・ロナウドがいます。まず、ボールを奪った位置ですが、ここまでセンターバック(セルヒオ・ラモス)が出てくる決断力がすごい。

岩政 結局、相手が攻めに出てくれば、それをひっくり返す力もあるよと。それがあると、相手も出ていくのが怖くなりますからね。

戸田 非常に冷静だと思います。この時間帯は、ベンゼマを下げていて、C・ロナウドが1トップを務める4-5-1にしているのですが、バスケスもガンガン出てきます。個人での緩急の使い方もうまいですし、結局、C・ロナウドが最後に得点を奪う場面に入ってきます。この3点目で決勝進出が決まったようなものでしたが、このカウンターも大きな武器ですね。

トップ・オブ・トップのプライドを懸けた戦い

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岩政 強い2チームの対戦となった決勝ですが、見所はどこでしょうか?

戸田 レアル・マドリーは4バックで、ダイヤモンド型の中盤の底にカゼミーロがいて、その前にクロースとモドリッチが並び、トップ下にイスコ。そして、2トップ。イスコはトップ下ですが、攻守に献身性にあふれていて、守備のときは中盤に入ったり、ボールをいろいろなところで受けて、つないで、点を取らせる。良い仕事をしているのですが、レアルにはベイルもいますので。

岩政 決勝の開催地であるウェールズ出身の選手ですね。

戸田 彼もスーパースターだと思うので、プレーできる状態であれば、ジダン監督は使うでしょうね。

岩政 その場合は4-3-3になりますか?

戸田 そうですね。

岩政 ユベントスとしても、やりにくさは変わってきますか?

戸田 爆発力という意味では。怖さはありますよね。ただ、ユベントスの守備は百戦錬磨なので。バルセロナ戦を見て、本当にすごいなと思いました。基本的にユベントスは基本的に3バックの3枚が構えていて、必要に応じて左右のウイングバックが戻ってきて5バックになったり、3バック全体が右にスライドして、左ウイングバックが左サイドバックに入って4-4-2になったりもします。先ほど紹介したように、プレッシングで相手陣内まで出ていきボールを奪うこともできます。ボールを中心に、近いところから相手についていく守備もある。完成度では、ユベントスの方が高いと思います。一方のレアル・マドリーには爆発力、経験値もあります。ただ、両チームのサッカーを見ると、少しレアル・マドリーに不安要素があると感じます。

 たとえばレアル・マドリーが4-3-3で試合に臨んだら、どうしてもC・ロナウドとベイルという両ウイングの守備が緩くなり、中盤の底に入るカゼミーロの脇を使われてしまうことが考えられます。仮にイスコがトップ下に入る4-4-2で試合に臨んだら、彼がフレキシブルに動き、(カゼミーロと並ぶ位置まで戻って)中盤で4枚のブロックを形成します。しかし、イスコが戻ってブロックを形成する前に攻め込まれることもあります。一方のユベントスは極めて完成度が高いので、欠点という欠点が見つけられませんでした。その意味では、システム的なところ、配置的なところで、レアル・マドリーに若干の不安要素があるかなと思います。

 決勝トーナメント1回戦のナポリ戦のファーストレグでは、4-3-3で構えていて、前からの規制がかからずに、カゼミーロの脇に縦パスを通されて、サイドにボールをつながれます。サイドバックのオーバーラップに対してもベイルが付いていけず、クロスを入れられて決定機をつくられました。

岩政 ナポリからしたら、狙い通りというような攻撃ですね。

戸田 これはレアル・マドリーが4-3-3でプレーしたときの、難しいところの一つだと思います。また、アトレティコ・マドリーとの準決勝セカンドレグでは、中盤が菱形の4-4-2で戦いました。カゼミーロが少し下がっていたときに、クロースの脇を使われてしまいます。自分たちの中盤が4枚の横並びに戻る前に、3枚の中盤の脇を使われました。フェルナンド・トーレスが予測して、もう少しゴール前に入っていれば得点になっていてもおかしくありませんでした。これが一つ、菱形のときの難しいところですね。

岩政 ユベントスにとっては、レアル・マドリーが最終ライン4枚、中盤3枚で構えているうちに、どれだけ攻められるか。レアル・マドリーは、いくつかのチャンスをC・ロナウドがいつものように決められるか。そういうところがポイントになりそうですね。

戸田 そうですね。理屈ではなくて点が取れるのが、レアル・マドリー。ユベントスは細部にわたるところまで、ディテールをつくって守って攻めることができます。相手の布陣がどうであれ、空いてくる空間をダニエウ・アウベスやディバラ、イグアインが使って、攻撃を仕掛けられるか。ひょっとしたらユベントスペースで試合が進むかもしれませんが、レアル・マドリーにはカウンターを含め、一発があります。クロスが入って、ドーンと合わせてしまえば、点を取れる人がいます。やってみないとわからないことは多いですし、見ていると隙がありそうなのですが、それでもここまで相手を打ち負かせてきましたからね。
 個人を見ても、どこのポジションにもスーパーな選手がいます。C・ロナウドのように確立されたスーパースターがいて、ディバラのように今後スーパースターになるであろう選手。スーパーなのですが、大舞台でそこまで活躍できていないイグアインもいて、チャンピオンズリーグを獲ったらバロンドールになるのではないかというブッフォンもいます。レアル・マドリーのGKケイロル・ナバスも、かなりチームを救っています。岩政さんと同じポジションのセルヒオ・ラモスは「93分の男」と呼ばれています。

岩政 チームとしても、個としても、見どころが多すぎますね。

戸田 ですから、こんな試合になりますよとは言えませんが、地球上のサッカー選手のトップ・オブ・トップが大きなものを懸けて、プライドを懸けてぶつかり合うので、そういう局面の争いを含めて楽しんでもらえたらと思います。僕も全人生を懸けて現地から、皆さんに伝えたいと思います。

■スカパー!放送予定
UEFAチャンピオンズリーグ16/17決勝「ユベントス×レアル・マドリード」
6月3日(土)深夜3時〜現地カーディフから生中継!
解説:戸田和幸/実況:野村明弘

放送チャンネル:スカサカ!(CS800、Ch580)

スカパー! UEFAチャンピオンズリーグ特設サイト

VictorySportsNews編集部