文=戸塚啓

UAE戦とタイ戦で結果を残していた久保裕也

 6月7日のシリア戦は、どちらにとっても決定的なアピールとはならなかった。久保裕也にとっても、本田圭佑にとっても。

 昨年11月のサウジアラビア戦から、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は久保をスタメンに抜擢している。代わってベンチへ座るのは本田圭佑だ。23歳のリオ世代が所属クラブで結果を残しているのに対し、30歳のレフティーはACミランで不遇をかこっているからだった。

 システムが4-2-3-1から4-3-3へ変更された3月のUAE戦でも、ハリルホジッチ監督は右ウイングに久保を指名した。クラブでの好調なパフォーマンスを代表へ持ち込んだ久保は、1得点1アシストの結果を残す。続くタイ戦でもゴールとアシストを記録し、チームの勝利にはっきりと貢献したのだった。

 2017年の久保に、2010年の本田が重なる。

 08-09シーズンにVVVフェンロをエールディビジへ昇格させた本田は、10年1月にCSKAモスクワへ移籍した。自身初出場となった2月のチャンピオンズリーグでは、セビージャを相手に直接FKを叩き込む。日本代表でも決定的な仕事を果たし、岡田武史監督の信頼を勝ち取っていった。所属クラブでの出場機会減でコンディションを整えられない中村俊輔に代わって、6月の南アフリカW杯でも攻撃を牽引していくのである。

 16-17シーズンの冬のマーケットで、久保はヤングボーイズからヘントへ新天地を求めた。スイスからベルギーへ移籍すると、さらにゴールを量産していく。ミランでの立場を好転させられない本田に代わって、ハリルホジッチ監督の期待に応えてきた。

 ならば、2017年の本田に、2010年の中村が重なるのか。

 これがワールドカップ・イヤーなら、ハリルホジッチ監督は二人の序列をはっきりとさせたかもしれない。スタメンは久保だ、と明言したかもしれない。

 しかし、いまはまだロシアへの道のりの途中である。本田には猶予がある。シーズン終盤にミランで出場機会を得たことで、今回は多少なりともいい状態で日本代表に合流できているところもあるだろう。

 南アフリカW杯前の中村がそうだったように、本田を苦しめているのはゲーム勘やゲーム体力だ。コンディションさえ整えば、地力を見せることはできる。経験もある。サイドを巡る久保との競争は、これからも続いていく。

 そのうえで、シリア戦のパフォーマンスを振り返ってみる。

右サイド以上にインサイドハーフで存在感を示した本田圭佑

©Getty Images

 スタメン出場した久保は、前半のみでピッチを去った。久保だけでなくチーム全体が、この日は機能性を失っていた。3月末以来の国際Aマッチだったためか、コンビネーションによる崩しがほとんど見られないのである。「距離感が遠かった」という久保の感触は、シリアの鋭い出足が目についた前半の試合内容を裏づける。

 後半から出場した本田も、右ウイングとしてのアピールには欠けた。とはいえ、ピッチ上ではポジティブな印象を残す。右インサイドハーフへポジションを移した60分過ぎから、久しぶりに彼らしさをのぞかせたのだ。中盤でボールのおさまりどころになりながら、3トップにパスを出すだけでなく受け手にもなっていく。そのなかで、ふたつの決定機に恵まれた。

 利き足ではない右足でのシュートだったとはいえ、得点を奪えなかったのはトップフォームではないからだろう。心身が充実している彼なら、仕留めることのできていた場面である。

「久保か本田か」を問えば、現状では久保がファーストチョイスになるはずだ。ただ、二者択一ではない。本田に代わって右ウイングで起用された浅野拓磨も含めた三択で、考えていくべきではないだろうか。

 シリア戦で左肩を負傷した香川真司は、イラク戦の欠場が決定した。シリア戦で復調を印象付けた今野泰幸も、トップフォームを取り戻したわけではない。様々な状況を勘案すると、本田のインサイドハーフは現実的な手当てのひとつだ。

 昨年11月以来の国際Aマッチ出場となった浅野は、シュツットガルトでも3トップの右サイドでプレーしたことがある。「左サイドに比べると、右サイドでのプレーに難しさを感じる」とシリア戦後に話したが、左サイドには原口元気と乾貴士がいる。浅野のスピードと突破力を考えると、左サイドの3番手にするのはもったいない。

 日本の右サイドは、ここから新たな局面を迎えるかもしれない。


戸塚啓

1968年生まれ、神奈川県出身。サッカー専門誌編集者を経て、98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続取材中(取材規制のあった11年11月の北朝鮮戦を除く)。02年からは大宮アルディージャのオフィシャルライターとしても活動。