文=斉藤健仁

改善は見られたが、大差を付けられた前半

桜のプライドは取り戻せた。しかし、世界の壁は厚く、勝つ流れには持ち込むことはできなかった。

6月24日(土)、ラグビー日本代表(世界ランキング11位)は、東京・味の素スタジアムで、2019年のラグビーワールドカップで同じ組に入ったアイルランド代表(同3位)とのテストマッチの第2戦を行った。

先週17日(土)の第1テストマッチは、「貪欲さがなかった」と日本代表の指揮官であるジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が落胆したように、国同士の真剣勝負なのに、少し淡泊な試合をしてしまい22-55と敗戦。

アイルランドとの再戦に向けて日本代表は、この1週間、「(勝ちたいという)意欲」をテーマに1週間、練習を重ねた。そして、ジョセフHCが「ハングリーさを出せなかった選手はあらためてもらった。そして汚名を返上して、ファンを取り戻すということを伝えた」と言うように、前の週とは違って、テストマッチに対する姿勢や気持ちをしっかりと作ってから臨んでいた。

そんな日本代表は、指揮官の「プランが人を替える」という言葉の通り、前の試合から先発8名のメンバーを替える。

試合をコントロールするハーフ団は24歳の2人、SH流大とSO小倉順平のコンビを起用。先週SOだった田村優とWTBだった松島幸太朗の2人がCTBに入った。そして、キャプテンのHO堀江翔太がリザーブとなりHO庭井祐輔が先発となったため、この試合が節目の50キャップ目だったFLリーチ マイケルが2015年ワールドカップ以来のゲームキャプテンを務めた。またLOに負傷が相次いだため、日本代表としてワールドカップに3回出場しているLOルーク トンプソンが緊急召集され、1年8ヶ月ぶりに先発に名を連ねた。

一方、先週の勝利で世界ランキングを3位に上げたアイルランドは負傷のFBサイモン・ゼボは外れたが、キャプテンのFLリース・ラドック、PRキアン・ヒーリー、50キャップ目となったLOデヴィン・トナー、正確なキックが武器のSOパディー・ジャクソン、前の試合でトライを挙げたWTBのキース・アールズら2015年ワールドカップ経験者5人がスターターに名を連ねた。主力11人はブリティッシュ&アイリッシュライオンズのニュージーランド遠征で抜けていたが、No.8ジャック・コナン、CTBギャリー・リングローズら将来のアイルランドを担う若手が先発。

3万人近いファンを集めて、日本代表のキックオフで試合は始まった。

気迫のこもった「ブレイブブロッサムズ(桜の戦士たち)は試合序盤から主導権を握ろうと、素早い出足とダブルタックルで相手にプレッシャーをかける。前半2分、LOトンプソン、FL松橋周平のダブルタックルから相手のボールを奪ったところまではよかったが、No.8アマナキ・レレィ・マフィのパスが乱れ、相手にボールを奪われてそのままトライを許し0-7。

その後も日本代表は、相手のラインアウトからのモールを止め、スクラムでもしっかりマイボールをキープするなど、先週の課題が克服されており期待を感じさせた。またアタックでは、従来通り、SH流、SO小倉らハイパントキックから攻め込むものの、なかなか好機を作ることができない。

逆に11分に、相手に連続攻撃を許してしまい、0-14。その後、日本代表はPGを1本返すものの、17分に相手にトライを献上し、3-21と大きくリードされる。

やっと反撃の狼煙を上げたのは24分のことだった。相手のキックしたボールを蹴り返さずに継続、LOヘル ウヴェが力強いランで前進した後、SO小倉、CTB松島とつないで、ステップが得意な松島がギアを上げて相手を抜き去ってトライ、8-21と追い上げる。しかし、32分、FWの近場を突かれてトライを与えてしまい、8-28で前半を折り返した。

まだ3トライ3ゴール(21点)で逆転できる20点差であったこともあり、日本代表は、後半最初から、HO堀江翔太、PR渡邉隆之、SO松田力也3人のフレッシュレッグズを投入して勝負に出た。

3分、CTB松島のランから相手ゴール前に迫り、最後はSH流からFL松橋にボールが渡り、松橋がそのままインゴールにボールを押さえてトライかと思われた。しかしTMO(テレビマッチオフィシャル=ビデオ判定)の末に、SH流がノックオンしていたと判定されノートライに。

その後も、日本代表がディフェンスで粘り続けたことで、膠着状態が続いて、両チームともなかなか追加点を挙げることができなかった。すると22分、日本代表が相手陣奥深くに攻め込み、SO松田のグラバーキックが相手に当たったが、そのままWTB山田章仁の胸に入り、山田が右隅にダイブしてトライ。ゴールは決まらなかったが13-28と点差を縮める。

ここから畳みかけたい日本代表だったが、その後はゴールラインが遠かった。ただ日本代表の組織的なディフェンスも比較的機能し、WTB福岡、大学生のFB野口竜司が体を張ってトライを防ぐなど、最後まで集中力を失うことはなかった。しかし、試合終了間際の38分に相手のFWの連続攻撃にトライを喫してしまい13―35で、そのままノーサイドを迎えた。

W杯までの2年間、日本の課題は山積み

©Getty Images

まず、個人的に、桜のジャージーを着た選手たちが、プライドを持って戦っていたのが誇らしかった。また個々のタックルの意識、ブレイクダウンでのプレッシャー、キックチェイス、スクラム、モールディフェンスなど前の試合に出た課題も100%できたとは言わないが、克服している部分も多く、チームとしての修正能力の高さを見せた。またアタックでも自分たちの形から2トライを挙げた。

そのため、当然、ジョセフHCも「日本代表の選手たちは誇るべきパフォーマンスができた。試合に対する姿勢、意気込みがよくて、実力を出せていた。力で押し込まれていた時もあったが、最後まであきらめずに戦った」と胸を張った。ゲームキャプテンのFLリーチも「前の試合はメンタルが足りなかったが、今日は、それを修正して最後までよく戦った。またラグビーの原点は戦うことが一番重要。ブレイクダウンとフィジカルの部分もよくできた」と及第点を与えていた。

またアイルランドのキャプテンFLリース・ラドックも「ディフェンスの部分でラインスピードもタックルの質も明らかに(前の週と)違っていた。フィジカルも発揮されていたので、ボールに対するプレッシャーも感じた」と日本代表の守備を称え、ジョー・シュミットHCは「非常にタフな試合だった。選手たちはとても暑く感じ、早く疲れを感じていた。ただ良いスタートが切れたので何とかそれを維持できた」と振り返った。

しかし、勝負にはまったく勝てなかった。また勝つ雰囲気も作ることができなかった。日本代表にとっては、アイルランドが世界3位に甘んじることなく最後まで愚直に戦ってくれたことで、より世界との差が鮮明になった。

その差にどう挑めばいいのか。FLリーチが「(アイルランドとの差は)遠いです。一人ひとりのスタンダード、メンタリティーを変えないといけない。一人ひとりが上げればチームのスタンダードが上がる」と言えば、ジョセフHCは「全員が役割遂行できて、日本代表の強さを見せられた場面もありましたが、結果、アイルランドは強かった。ティア1(世界トップ10の強豪国)との差が明らかになりました。それを埋めるのが今後の取り組みです」と2年後の2019年ワールドカップを見据えた。

厳しい、厳しいレッスンとなったアイルランドとの2試合が終えた日本代表。6月はFLリーチ マイケルやサンウルブズやアジアとのテストマッチを経験した若い選手が加わり、新しいチームとなり、新たなスタートを切ったと言えよう。

ただ、ワールドカップ本番までまだ2年ある、ではなく、もう2年しかない。この連敗の経験を糧に、ワールドカップで「ベスト8以上」を掲げるジェイミー・ジャパンの指揮官と選手たちはどう成長につなげることができるか。


斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k