文=北條聡

ハリルは「実力不足」と断じるが……

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 少々、乱暴な言い方が許されるなら「罰ゲーム」だろうか。アジアの最強クラブを決めるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)への出場だ。

 2016年も前年王者の広島を筆頭にG大阪、浦和、FC東京という4つのクラブがACLに挑んだが、東アジア地区のベスト8にも進めず、早々と敗退している。またもや中国勢や韓国勢の後塵を拝した格好だ。

 ACLを制したJクラブは2008年のG大阪が最後である。以降、優勝どころか、決勝にすら駒を進めていない。日本代表を率いるヴァヒド・ハリルホジッチ監督は「実力不足」とばっさり切り捨てたが、そこまで単純な話ではないような気がする。

 何しろ、昨年暮れのFIFAクラブ・ワールドカップ(CWC)で開催国王者の鹿島が決勝に進出し、世界に冠たるレアル・マドリード(スペイン)と好勝負を演じたのは記憶に新しい。これを「地の利」の一言で片付けてしまうのは少々、無理がある。ならば、なぜCWCでファイナリストになるほどの実力を備えたJクラブが、ACLで勝てないのか。

 二兎を追う者、一兎を得ず。あちらを立てれば、こちらが立たず。要するに、JリーグとACLという2つのコンペティションで覇権を狙うことの難しさだ。例年、ACL組はJリーグでことごとく苦戦してきた。事実、過去5年間のJリーグ王者で、同じ年のACLに出場していたのは2013年の広島だけである。残る4クラブは、いずれもACLに出場していないのだ。

 つまり、前年度にACLの出場権を逃したクラブから優勝チームが生まれているわけだ。案の定、2016年の年間王者もACLとは無縁の鹿島だった。ちなみに、連覇を狙った広島は6位に沈んでいる。現状、ACL組には「二兎」を追うだけの体力に乏しい。

足りなかったのは実力以上にカネ

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 唯一の例外と言えるのは、浦和だろうか。2016年はACLで決勝トーナメントに勝ち上がり、Jリーグでもレギュラーシーズンの成績は堂々の1位で、ルヴァンカップでは決勝でG大阪を破り、優勝している。浦和の「二刀流」が成立する理由のひとつに、分厚い選手層がある。過密日程を乗り切るため、一部の主力を温存しても、極端な戦力ダウンを回避できるわけだ。

 群雄が割拠するJ1リーグはクラブ間の戦力格差が小さく、必ずしも有力クラブの勝利が約束されているわけではない。上位陣の実力が抜きん出たヨーロッパの主要リーグとは事情が異なるわけだ。補強に費やせるバジェット(予算)も、それなりの格差があるとはいえ、極端な開きがあるわけではない。

 主力メンバーを「引き抜かれる」側のクラブがACLに出場すれば大変だ。事実上、戦力ダウンを強いられた状態で二兎を追わなければならない。近年の広島がそうだ。やはり、先立つものはカネだろう。ACL組には二兎を追うための戦力アップを促す「補助金」や「支度金」が必要と言っていい。

 その意味で、Jリーグが従来のカネをめぐる仕組みにメスを入れたのは喜ばしい。2017年から優勝賞金が増額される上に、ACL出場枠に絡む1位から4位までのクラブを対象とする「強化分配金」が創設された。とくに、後者は前年以前のリーグ戦の成績に応じて当年度の強化費に充当するカネだ。

 年度ごとの配分条件を満たせば、最長で3年前までさかのぼり、強化費が分配され、一度、J1で優勝すれば、総額約15億円がクラブの懐に転がり込む。中国勢のような「爆買い」は難しいものの、2つのコンペティションを戦い抜くだけの戦力は整うだろう。

 足りなかったのは、実力以上にカネ――。Jクラブに対する代表監督の見立て違いは数年後、明らかになるかもしれない。ACLが「罰ゲーム」でなくなる日は、すぐそこまで来ている。


北條聡

1968年、栃木県生まれ。早稲田大学卒業後、Jリーグが開幕した1993年に『週刊サッカーマガジン』編集部に配属。日本代表担当、『ワールドサッカーマガジン』編集長などを経て、2009年から2013年10月まで週刊サッカーマガジン編集長を務めた。現在はフリーとして活躍。