あと一歩で金星を逃すも、U-19日本代表の『真のエース』となった八村塁の手応え「世界のレベルにどんどん近づいている」
得点だけでなく、ディフェンス面でも機能したエース 55-57で惜敗したイタリア戦。「世界に驚きを与えよう」と取り組んできたU-19日本代表は16ラウンドで敗れ、あと一歩のところでベスト8入りを逃した。だが、22得点14リバウンドを記録し、土壇場で3ポイントシュートを2本決めた八村塁は、敗れたこの試合でこそ、真の意味でU-19代表のエースになったのではないだろうか。 もちろん、八村は5月にこのチームに加入した時からエースとして迎え入れられ、予選ラウンドが終わった時点で得点1位(平均18.7得点)、3試合連続で得点とリバウンドのダブル・ダブルをマークするなど、すでに絶対的エースの役割を担っていた。 だが、大会に入ってからの八村は自身のパフォーマンスにどこか納得していない様子があった。初戦のスペイン戦は後半に体力が続かずに息切れし、2戦目のマリ戦はファウルトラブルになったところをチームメートに救われた。3戦目のカナダ戦では自分より身長が低いガードにブロックされるシーンもあり、試合後のミックスゾーンでは、自分自身の出来に満足いかないあまり、一度ロッカールームに戻って頭を冷やさないとメディアの質問に答えられなかったほどだ。 しかし、あまりにも悔しい負け方をしたイタリア戦の試合後にはスムーズに言葉が出てきた。 それはチームの約束事を遂行し、相手のインサイドのプレーに対してショーディフェンスで献身的にカバーするなど、ディフェンス面で貢献した自負があったからだろう。言い換えれば、絶対に欠けてはならない八村が相手のインサイドにディフェンスで対抗し、コートに立ち続けていたからこそ、日本はベスト8が見える位置まで来ることができたのだ。 八村は2戦目のマリに勝利した後に「自分は1年間、NCAAの高いレベルでやってきたので、本当にやらなきゃいけない試合でその成果を出したい」と語っていたが、それがこのイタリア戦だった。そして、ロイブルバスケの生命線であるチームディフェンスをようやく発揮できたのも、このイタリア戦だった。 最後の土壇場で決めた2本の同点3ポイントシュートは強烈なインパクトがあり、『日本の八村塁』の注目度をハネ上げたのは間違いない。しかし何より、イタリア戦の接戦を演出したのは相手を57点に抑えたタフなチームディフェンスであり、その中心にいたのが八村だった。 もちろん大一番で敗れた悔しさはある。これまでカテゴリーを問わず日本の男子代表チームが世界のベスト8が見えるところまで来たことはないのだから、逃したものはあまりにも大きい。ただ、この試合での八村は攻守両面においてU-19代表の真のエースになったのと同時に、今後の日本を背負う道筋までを我々に見せた一戦として記憶されるに違いない。それだけのインパクトを残した八村の、イタリア戦を終えての言葉を記しておきたい。 「大事な時に自分がやらなきゃいけない」という自覚 ――イタリアに惜しくも敗れた今の率直な気持ちはどんなものですか。 試合前にロイブルコーチから「ベスト8に勝ち進むにはイタリアが一番いい相手じゃないか」という話があって、僕たちもそう思っていました。昔だったら、ヨーロッパのチームとやると日本は戦えないイメージがあったけれど、今はヨーロッパのチームのほうがやりやすいと臨みました。 前半はすごく良い立ち上がりだったわけではありませんが、すごいディフェンスが効いて相手を21点に抑えられて、後半もちょこちょことディフェンスのミスはあったんですけど、そんなに大きなダメージはないようなディフェンスができました。試合の最後まで競って負けた試合なんですけど、どんどん世界のレベルに近づいていると思います。 ――最後の3ポイントシュートは自分で打とうと思って打ちましたか? はい。だから打ちました。こっちに来る前にゴンザガのコーチ・フュー(ヘッドコーチ)から「そういうシュートをどんどん打っていけ」という話があったので、それを思い出したわけじゃないけど、大事な時に自分がやらなきゃいけないと思ってシュートを打ちました。 ――これまでファウルが先行することもありましたが、イタリア戦はディフェンス面でも頑張ることができたのでは? 初戦からチームのシステムとして僕が機能していないところがあり、いらないところで手を出して無駄なファウルをしたり、無駄なジャンプが多くて疲労してしまうことがあったんです。それを(分析スタッフの)末広さんとビデオを一緒に何回も見て、どこが悪い、どこをどうしようと、自分なりに細かく修正して臨みました。 「自分たちのチームを誇りに思います」と前を向く ――イタリア相手にやれた手応えはありますか。 試合前にロイブルコーチから「絶対に悔しさを残すな、後悔するようなことはするな」と言われて試合に臨みました。チーム的にはディフェンスをしっかりやって、オフェンスでもみんなでボールを回してできましたが、最後の詰めの甘さのところで負けてしまいました。でも、チームディフェンスが機能して、前半に相手を21点に抑えることができたので、自分たちのチームを誇りに思います。 ――毎試合、トリプルチーム、ダブルチームされてマークが厳しいですが、どう対応しようとしていますか。 相手も強いチームだし、スカウティングをしていると思うので、僕がどういうプレーをするか分かってダブルチームに来ていると思います。日本にいた時からダブルチームされていたので気にしていませんが、僕がダブルチームになる分、他がノーマークになるので、他の選手のシュート確率が上がりやすいし、僕がダブルチームされてもいいんじゃないかなと思います。 ――残りの順位決定戦はどう戦いますか。 チームにケガ人が出たり、疲れも出てきた選手がいると感じているので、明日はしっかり休んで、もう一回、チームのやるべきことを確認したい。1勝でも多く勝ち取りたいです。
文・写真=小永吉陽子