インタビュー&構成=高崎計三

【後編】「このまま亀田家が終わるわけにはいかない」はこちら

ダウンしたことのないサウスポーとの対戦へ

──試合が近づいてきていますが、今はどんなことを考えて練習に臨んでいますか?

和毅 今回の相手はサウスポーなんですけど、サウスポーとの対戦は6年ぶりぐらいです。プロで30戦以上やっている中でも、2~3人しかいません。でもこの先を考えたら、チャンピオンにもサウスポーは何人もいるので、対戦経験は必要なんですよね。そのためにいろんな選手とのスパーをこなして、パンチをもらって慣れていってるという感じです。

──減量に関しては?

和毅 1カ月半ぐらいかけてちょっとずつ脂肪を落として、最後に水分をカットするというやり方をやっています。だいたい8kgぐらい落としますけど、計算しながらやれば、まあ大丈夫です。キツいことはキツいですけど、動くのがしんどくならないようにコンディションを保ちながらやるのが大事ですね。でも階級を上げてからは食べながら落とせているので、比較的楽にはなっています。動きも良いですよ。

──昨年から協栄ジムの所属になりました。その点で、練習に変化はありますか?

和毅 いや、メニューとかはほとんど変わってないです。場所が変わっただけという感じですね。気持ち的にも変化はないです。これまでもいろんな場所でやっていたんで、どこでやろうが変わらないです。

──試合に向けての戦略、戦術の立て方も変わらないですか?

和毅 そうですね。基本的にはトレーナーとか、お兄ちゃんとか何人かで作戦を立てて、それをスパーでやっていく感じです。まずトレーナーのアドバイスをちゃんと聞いて、そこに自分の意見もあるのでお互いによく話をして、良い形で良い作戦を作ってリングに上がっています。

──その中で、今回のイバン・モラレス戦はどういうプランを立てていますか?

和毅 相手は身長も俺と同じぐらいでリーチも長いし、打たれ強くて倒れたことがないんですよね。だからすぐに倒すんじゃなくて、ちゃんと展開を作って痛めつけて、後半に倒したいと思っています。

──試合に向けての公開スパーでは、「左ボディを中心に攻めたい」という言葉もありました。

和毅 やっぱりボディは自信のある武器ですからね。試合までにもっともっと磨いて。相手がサウスポーでも左は入るので、磨いて磨いて、そこからつなげられるように。

──相手のモラレスはフィジカル面がやや弱いという声もありますよね。それも踏まえてのボディでしょうか?

和毅 そういう部分もありますけど、何しろ向こうはボクシングがうまいですからね。要所要所で逃げたり、手数でポイント取りにきたりしてくると思うので、上(頭部狙いのパンチ)だけじゃなく上下をキッチリ打って痛めつけて、後半で足を止めさせて仕留めたいなと。

──これまで倒れたことがない相手ですよね。「俺が初めて倒してやる」ということで燃える気持ちはありますか?

和毅 それはありますね。前の試合が判定だったのもあるし、今回は倒しきりますよ。

必勝態勢で来る相手に、しっかり勝たないと

©VICTORY

──確かに前回は判定勝ちでしたが、フルラウンドをしっかり闘い抜いた一戦でもありました。持ち前のスピードに加えてKOを量産するパンチ、そして今はスタミナ面の進歩も見せています。その中で、現状の亀田選手にとって一番自信のあるポイントはどこですか?

和毅 やっぱりスピードは昔からかなり飛び抜けていると思うので、スピードで勝負はしていきたいですよね。もともとパワーでいくスタイルじゃないし、今からファイターになって打ち合うとかはできないですから。スピードで勝負して展開を作って、痛めつけて最後は倒しきるというのが理想ですね。

──今回、相手もモラレス三兄弟の三男ということで、「三兄弟の三男対決」という側面も話題ですよね。

和毅 向こうも三兄弟で上2人がチャンピオンになっていて、特に長男のエリック・モラレスは4階級制覇を果たしたメキシコの英雄なんですよ。パッキャオにも勝ったことあるぐらいです。兄2人が今はトレーナーになって三男を教えているというところでは、俺らと同じですよね。俺らは3人ともチャンピオンになったけど、向こうも三男をチャンピオンにしたいという気持ちは強いはず。兄2人もセコンドで来るし、必勝態勢で来ますよね。それだけにキッチリ勝たないと。

──まさに亀田三兄弟とモラレス三兄弟の全面戦争ですね。その中で、今の亀田選手にとって興毅さんと大毅さんという2人のお兄さんたちはどういう存在ですか?

和毅 今、お兄ちゃんは俺のサポートもしてくれています。昔からずっと一緒に練習しているので、気持ちの面でも俺の強い部分と弱い部分を知ってくれているので、一緒におってくれたら心強いし、刺激にもなりますね。大ちゃんはいつもではないですが、良いタイミングで色々なアドバイスをくれます。自分にとっては今も昔も2人の存在は大きいですね。

──調べてみて驚いたんですが、もうプロ戦績ではすでに大毅さんの試合数(34戦29勝5敗18KO)を越えていて、次で興毅さん(35戦33勝2敗18KO)も越えるんですね。

和毅 そうなんですか? 気にしていなかったんで、全然分からないんですよ。俺、今34試合ですよね? 次が35戦目?

──いえ、前回の試合が35戦目で、次で36試合目になります。

和毅 あー、じゃあ1試合抜けているのか……。あかん、パンチドランカーやわ(笑)。

──メキシコ時代、短期間で試合数が多かった影響もあるんじゃないですか。

和毅 メキシコでデビューして、ほぼ毎月試合をしていましたからね。次は3週間後、次はここで、みたいな感じで。でもそれで強くなりましたけどね。

──日本では考えられないペースですよね。そもそもそれができるということに驚きます。

和毅 減量も少なかったですから。それに向こうはジムの考え方自体が違うんですよ。「来週試合するか?」とか、「空いたからここに入れ」って簡単に言ってくる。だからメキシコの選手は戦績が多いし、そういう中だから強いヤツが出てくるんです。

今の目標はチャンピオンに返り咲くこと

©VICTORY

──しかし当初は10代半ばで言葉も分からないままメキシコで練習していたわけですよね。すごいことだと思います。

和毅 いやいや、行かせるオヤジがすごいですよ(笑)。飛行機代だって高いし、一回一回帰ってこられないじゃないですか。確かにはじめは言葉と食事がキツかったですけどね。最初はずっと日本食ばっかり食べていたんですけど、いつまでもそういうわけにもいかないので、我慢して向こうの食事に合わせました。はじめは下痢もしたし体調も崩しましたね。コンディションを保つのが難しかったです。その中で最初はアマチュアのトーナメントに出て、1年で35戦やりました。あっちこっち、いろんなところに行きましたよ。あれをやれたから、どんなことでもできるという自信になっているのは確かですね。

──それこそ亀田選手にしかない経験ですよね。

和毅 そうですね。俺は他の日本人選手が持っていない何かを持っていますよ(笑)。

──先ほど、「この先にはサウスポーのチャンピオンがいっぱいいる」という発言がありましたが……。

和毅 今の目標はスーパーバンタム級でチャンピオンになることですけど、この階級にずっとおりたくはないんです。おっても1年半ぐらいかな。その先は階級を上げて、フェザー級とかスーパーフェザー級でやりたいと思っています。そこにはサウスポーの強いチャンピオンが多いので、そこを見ています。

──現在、スーパーバンタム級にもマグダレノやリゴンドーなどサウスポーの王者がいるので、彼らの話かと思っていました。

和毅  いや、見ているのはその先ですね。確かにスーパーバンタム級も強いチャンピオンばっかりですけど、その先はもっともっと強くなりますから。そこを見て、目標を高く持ってやっています。

──当面の王座獲りについては?

和毅 まずはスーパーバンタム級でチャンピオンにならないとダメなので、4団体の中でチャンスのあるところと。チャンピオンには左もいるし右もいるんで、前回の試合で右とやったから今度は左とやります。どっちもいけるようにね。いざ世界戦の話がきた時に、「サウスポー? うわー、俺苦手やわ」っていうんじゃなくて、サウスポーでもいけるよ、っていう状態にしておきたいですから。

──このスーパーバンタム級にはWBAの久保隼選手、IBFの小國以載選手と、日本人王者も2人いますよね。お兄さんも含めて、亀田兄弟はずっと同階級の日本人と比較されてきた歴史がありますが、日本人王者との対戦は意識しますか?

和毅 チャンピオンだから、もちろん彼らのことも見ますよ。俺はもう一回チャンピオンに返り咲くというのが今の目標だし、日本人対決で俺が勝ってチャンピオンになれば日本のボクシング界も盛り上がると思いますからね。ボクシング界を盛り上げていきたいという気持ちが強いので。

後編へ続く亀田興毅×大毅「終わってみたら、幸せやったなって」(前編)亀田興毅×大毅「和毅は、覚悟を決めたんやと思います」(後編)

高崎計三

編集・ライター。1970年福岡県出身。1993年にベースボール・マガジン社入社、『船木誠勝のハイブリッド肉体改造法』などの書籍や「プロレスカード」などを編集・制作。2000年に退社し、まんだらけを経て2002年に(有)ソリタリオを設立。プロレス・格闘技を中心に、編集&ライターとして様々な分野で活動。2015年、初の著書『蹴りたがる女子』、2016年には『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)を刊行。