インタビュー=日比野恭三
監督やコーチもやってみたいけど、球団社長をやってみたい
池田 里崎さんとお会いするのは初めてですね。現役を引退されて、もう何年になりますか?
里崎 引退したのは2014年ですから、今年で3年目に入りました。
池田 こういう形で元選手の方とお話しする機会って、実はほとんどないんです。今回は、「里崎さんが球団社長に興味があるらしい」という話をある記者さんから伝え聞いて、私もそんな元選手にぜひお会いしたいなということで、こういった対談が実現しました。
里崎 ありがとうございます。正直、めっちゃ興味あります(笑)。
池田 どのへんが?
里崎 だって、おもしろそうですもん。監督とかコーチの日常は、ある程度は想像できる。それもやってみたい思いがないわけではないけど、どっちかしかできないんだったら、球団社長をやりたいですよね。イメージできないから。
池田 オーナーには興味ないですか?
里崎 それは……現実的に無理ですよ。
池田 この間、アメリカでダルビッシュ有選手と話す機会があったんですけど、彼も将来のことをいろいろと考えているみたいでした。GMに興味があると言うので、「いっそのこと球団を買えばいいんじゃないですか」と提案したんです。マイアミ・マーリンズみたいな例(元ニューヨーク・ヤンキースのデレク・ジーター氏らが買収)もあるわけですから。そこまでは彼も考えていなかったようですが、稼ぎの良かったOBが何人か集まれば、資金的には不可能ではないと思います。
里崎 うーん……日本だとまた事情が違いますからね。オーナー会議で認めてもらわなきゃいけないし、アメリカみたいにポンとは買えない。なにより、日本の球団は収益を出せる構造になっていないですから、経営を成り立たせるには親会社からの補填(ほてん)に頼らざるを得ないですよね。
池田 確かにそうですね。例えば千葉ロッテの選手たちは、球団の収支だとか経営状況だとかをだいたいはわかっているものなのですか?
里崎 僕は知っていましたけど、みんなは知らないと思います。確か赤字が20億円ぐらいあったときもありました。最近では球団も頑張って、かなり赤字額は縮小されているみたいですが、それもチームの強さにもかなり関わってきます。選手の給料だけでも20億を超えるので、人件費の負担は大きいですよね。
本当のスーパースターは高卒じゃないと生まれない
©松岡健三郎池田 選手の目線で見ると、今のロッテの試合はお客さんが入っていますか?
里崎 昔、川崎球場時代はお客さんが入らなくて本当に悲惨だったんですけど、1998年に18連敗した頃から僕が現役でやっている頃までに、これまでで一番入るようになりました。そして今季は、チーム状態も悪いので観客動員数も昨年比から比べるとマイナスですね。昔に比べれば全然悪くなく、まだ良いほうなんですけどね。
池田 何で入らないんだと思いますか?
里崎 チームが勝てていないというのもあると思いますし、とにかく交通の利便性も悪いし……。でも一番は、今は来場者にいろんなモノを配っているんですけど、その戦略がうまくいってないのかなという気がしますね。最初は良いのかもしれないけど、ただ配るだけではだんだんと飽きられてしまう。「いつ行ってももらえるんだ」ということになると、足が遠のくことにもなってしまいます。球団は頑張っているとは思うんですけど……。
池田 ギブアウェイは、言い方が悪いけど“ドーピング”みたいなものですからね。やめるとお客さんが来なくなるから、一度打ったら打ち続けないといけない。
里崎 どこの球団もやっていますよね。ここ2、3年の流行じゃないですか?
池田 ベイスターズでは、ちょっとずつ配る機会を増やして、シーズン中の制限を設けて、ギブアウェイ中毒にならないように管理していました。アメリカの事例を見て、メジャーの球団がギブアウェイをやめられなくて悩んでいるのを知っていたんです。ベイスターズでは年に5回なら5回、それ以上は絶対にやらないと決めていました。それもあって観客数が大きく伸びたものだから、他の球団も「グッズを配るとお客さんが増えるんだ」と思った部分もあるのかもしれない。
里崎 ロッテは今シーズン、僕が知っているだけでも、フリース、Tシャツ、レプリカユニフォームと、かなり配っています。レディースデーということで女性に限定で配ったり、キッズ用のキャップだったりと、ありとあらゆるものを配っている。
池田 過去の例を見ると、だいたい3年もすると来なくなるんですよね……。
里崎 そうなんですか。確かに、ロッテも去年まではグッズを配る日は8割以上も入っていたけど、今年はそうでもない気がします。あとは、やっぱりスター選手がいないというのが大きいと思いますね。
今、ロッテの観客数が伸びていないのは、「この選手を見に行きたい」っていうスター選手がいないのも大きいと思うんですよ。僕には持論があって、本当のスーパースターは高卒じゃないと生まれないと思っているんです。日本人は高校野球が大好きなので、高校時代のストーリーがプロになってもくっついてくる。大学や社会人を経由すると、あまりメディアで報じられなくなってしまうので、そこでのストーリーをみんなが知らない。斎藤佑樹ぐらいになれば別ですけどね。
池田 なるほど。ベイスターズでいえば筒香嘉智のような存在。
里崎 そうです。しかも彼は横浜高校から入団している。今メジャーでやっている田中将大も、前田健太もそうだし、日本で活躍している大谷翔平、中田翔、坂本勇人、藤浪晋太郎、みんな高卒ですよね。
新人で即戦力になれる選手は1割もいない
池田 そうなると、ドラフトでどんな選手を取るかが大切になってくる。ロッテの場合は、そのへんのことは誰が決めているかとかもご存知ですか?
里崎 どうなんでしょうね。僕が見ていた印象だと、監督の意見はかなり反映されているように思いました。だから「え?」と思うことも結構ありましたね。例えば、2014年のドラフト1位で早稲田大学から中村奨吾を取ったんです。そのときは、向こう10年に内野はいらないという話だったのに、次の年に仙台育英高校の平沢大河を取った。そこのコンセプトはよくわかりませんでしたね。
池田 監督は、自分が契約している何年かの間に結果を出さなければいけないから……。
里崎 だから目先の利益というか、どうしても即戦力を欲しがりますよね。そのせいかロッテはめったに高校生を指名しませんでした。特に上位指名は少ないですね。田村龍弘(光星学院)とか平沢を取るようになるまで、12球団で最も少なかったんじゃないですかね。
池田 平沢選手は今どうしてるんですか。
里崎 今は二軍で頑張っています。一軍でチャンスもありましたが、期待に応える結果を出せませんでしたね。でも、まだ2年目ですから、そこまで慌てる必要もありません。そもそも、僕は新人選手を即戦力として見たことがありません。
池田 ドラフト1位の選手でも?
里崎 はい。活躍してくれたらラッキーと思っているだけです。僕が思うに、新人選手にそのチームの命運を託さなきゃいけないとしたら、そういう編成をしていること自体が間違っていますよね。まずは現有戦力で編成して、その上でチームの弱いところを新人が助けてくれたら、さらに強くなるっていう見方だったら良いんですけど、この新人が活躍してくれないとAクラスは無理やなっていう編成は間違っている。
池田 1年目の選手は、夏場に大抵バテがきますしね。
里崎 そう。結果を出すことよりも、1年間ケガせずに戦い切ることのほうがはるかに大変です。動物園から野生のサバンナに放り出されて、1年間生き残れというぐらい酷な話です。それができる本当の即戦力は、僕の感覚で言うと1割もいないですね。12球団で100人ドラフトされるとして、10人もいないと思います。
池田 里崎さんが仮に球団社長になったとして、ドラフト戦略についてどれくらい関与しますか?
里崎 僕の考える監督の位置づけは、一般的な会社でいうところの部長なのかなと。“現場部”の長。だから、どんな選手が欲しいかという意見はもちろん聞きますけど、決めるのはこっちやからって言いますね。あなたたちじゃないよと。
理想の監督はボビー・バレンタイン
©松岡健三郎池田 球団社長になったとしたら、監督は自分で選びます?
里崎 自分で選んでも良いですし、僕は公募しても良いと思います。やりたい人に手を挙げてもらって面接に来てもらう。そこで自分の野球理論、哲学、信念なんかを訴えかけてもらいますね。
池田 どんな人が監督に合っていると思いますか。
里崎 選手の邪魔をしない人ですね。野球の指導力うんぬんよりも、マネジメント能力が長けている人が一番良いです。将棋の駒じゃないですけど、いろんなタイプの選手がいますからね。モチベーションを下げないように、あとはコーチが働きやすいように、うまくマネジメントできるっていう能力がすごく大事だと思います。
池田 里崎さんが出会った中で、理想の監督に最も近いのは誰なんですか?
里崎 現場としてやりやすかったのは、やっぱりボビー(・バレンタイン)ですね。裏ではフロントとだいぶもめていたんでしょうけど、僕ら選手からするとそこの部分は見えていなかったですからね。
池田 バレンタイン監督のどこが良かったんですか?
里崎 ボビーは演説が好きだったんです。練習日やキャンプのとき、練習前に20分間とか話す。話が長いなと感じることもありましたけど、しゃべるから意思がわかる。何をしてもらいたいのか、これをされるのは嫌だとか考えていることを言ってくれるから、こっちも彼の意に沿わせやすいんです。
池田 例えば?
里崎 「ロッテを日本で一番ツーベースヒットが多いチームにしたい」と言っていました。最初は意味がわかりませんでしたね。え、ホームランじゃないの? って。でもボビーが言うには、ホームランは打てる人と打てない人がいる。だから、ホームランを打てるチームになろうという目標を与えても、ホームランを打てない人は自分には関係ないと思ってしまう。スリーベースも同じで、足が遅い選手にたくさん打てと言っても増えるものではない。じゃあヒットはどうか……これはみんな打てるけど、極端な話4本打って1点なので効率が悪い。
池田 ツーベースなら2本打てば1点入るということですね。
里崎 そうです。しかも、「ツーベースというのはパワーの有無にかかわらず、足の速い遅いにかかわらず、みんなが意識次第で増やせるものだ」とボビーは言ったんです。ツーベースを連続して打てれば、大げさに言えばエンドレスに点が入る。そういうチームにしようという話を聞いて、なるほどなと思いましたね。
池田 でも、どうやったらツーベースが増えるんですか?
里崎 要は、最初から二塁を狙って全力で走るということです。そうすると、守備でちょっとしたミスが起きたときに二塁まで到達できる確率が高くなる。当たり前のことではあるんですけど、実際のところはなかなかできない。目標値をはっきりと設定することでチームの意識が変わり、みんながガーっと全力で走るようになりました。チーム全体が同じ方向を向くようなルール作りとかはうまかったですよね。
監督人事でも費用対効果を考えるべき
池田 ただ、監督はフロントとはもめていたらしい、と。そういうのって、選手としてはどうなんですか?
里崎 何とも思わないですね。僕らには関係ないこと。でも、あの当時を振り返るとチームはボビーの味方になっていました。フロントが悪いんやろと。ボビーの雰囲気づくり、マネジメントがうまかったから、洗脳されていたのかもしれませんね。
池田 そんなにうまいんですね、ボビーは。
里崎 ミスしたりしても、まず怒らない。門限を破ったとしても、やんわりは言われますけど怒らないですよ。日本人の監督に門限を破ったことがバレたら、試合前に監督室に呼ばれて文句を言われて、モチベーションが一気に下がる。でも、ボビーは練習しているところにトコトコって歩いてきて、「サトさん、昨日は楽しかったですか?」って言うんです。「歌って、おいしいお酒を飲んで、ハッスルしましたか?」って。「うわ、門限を破ったのバレてるわ」と思うんですけど、怒ることもなく「昨日の夜と同じように、今日の試合もハッスルしてくださいね」と言うんです。
池田 うまいですね。
里崎 そう言われたら、がんばらないわけにはいかないですよ(笑)。しかも、そういうときって結果も出るんです。選手への声かけ、コミュニケーションは本当にうまかったですね。
池田 里崎さんが球団社長だったら、ボビーとうまくやれていたと思いますか?
里崎 それはわかりません。けど、当時のフロントはボビーにすべてを任せすぎたんじゃないかなと思います。以前に解任しているという経緯もありますし、全部を任せるから来てくださいという迎え方をしていた。アメリカから外国人選手を取るのもボビー頼みで、何か問題が起こっても球団として文句を言えないような状況になってしまっていた。結局は入り口のところで間違ってしまったのかなと僕は思っていましたね。
池田 ボビーさんはいくらぐらいもらっていたんでしたっけ?
里崎 年俸5億円ぐらいだったと思います。
池田 結構な額ですよね。それも後々ネックになったんでしょうね。
里崎 でも、僕は選手も含めてこの人はもらい過ぎだと思ったことは一度もないんです。球団もそれで良いって言っているわけですからね。
池田 でも、もし球団社長になったら、今度は払う側になるんですよ。
里崎 そうですね。費用対効果を考えなきゃいけない。年俸5億円を払っても、その人のおかげで6億円稼げるんだったら、まあいいかなと思います。
池田 年俸5億円の監督が6億円……どうすれば稼げると思います?
里崎 ボビー(・バレンタイン)の場合、聞いたところでは、入場者数も出来高に入っていたらしいんですよ。ボビーが連れてきたスタッフの中に、統計学の専門家みたいな人もいたんですけど、試合前にスタンドを見ながらめっちゃ怒っていたことがあったんです。「全然、客が入ってない。今から幕張の駅に行って、お客さんを呼んで来い」って。だから、最も手っ取り早いのは、やっぱりお客さんでいっぱいにすることじゃないですか。あとはスポンサー。その人を監督にするだけで黙っていても10億円のスポンサーを連れてきてくれるなら、5億円払っても5億円プラスになるからでかいですよね。
スター選手たちがファンサービスで動員
©松岡健三郎池田 当時、球場が満員になっていたのはボビー監督のおかげもあるでしょうけど、それ以外の要因は? どうやって入れていたと見ていましたか?
里崎 スター選手がいっぱいいました。2006年WBCのメンバー、ロッテだけで8人もいましたからね。
池田 そんなに! 確かに、あのころのロッテは人気ありましたよね。球団も頑張って集客していたんですよね?
里崎 頑張っていたと思いますよ。今でこそ、ファンサービスは12球団どこでも当たり前にやっていますけど、あのころのロッテははしりだったと思います。他球団の人たちもよく視察に来ていましたね。
池田 どんなファンサービスをしていたんですか?
里崎 賛否のあることをしていました。選手が試合後に歌ったりもしたし、って僕ですけど(笑)。ボビーもグラウンドで社交ダンスをしたりしていました。あと、当時はスタメンじゃない選手の選抜された2人は、試合前のシートノックを受けなくても良かったんです。その代わりにベンチの上にはしごで上って、ノックが終わるまで30分ぐらいサイン会をしていましたね。
池田 選手としては、ノックを受けるのとサイン会はどっちが良かったんですか?
里崎 そりゃ、サイン会ですよ(笑)。ファンサービスを面倒くさいと感じるような空間ではなかったです。なぜかというと、やっぱりボビーが率先してサイン会をしていましたからね。唯一ファンにちょっと控えてほしいなと思ったのは、練習中にグラウンドレベルでサインをお願いされることです。ファンクラブの方々とかを入れてあげていたんですけど、距離が近すぎるというか……ホームでの試合前ぐらいしか、しっかりと練習できる時間が取れないですからね。たまにならまだしも、毎日はちょっときつい。
池田 球団社長になると、そうやって面倒がられることを選手にお願いしなければならない立場になります。私は、横浜スタジアムのバックスクリーン下の搬入口だったところをぶちぬいて、練習の様子が外から見えるようにしました。近くで練習を見られるのを嫌な選手もいたかもしれませんけどね。
里崎 大事なのは選手を言いくるめることですよね。ちゃんと説明して納得させる。勝手にやるから反発が起きるんです。
池田 そのとおりですよね。私も全部を説明してからやっていました。
里崎智也×池田純 球団社長に、オレはなる! #2
球団社長を目指す里崎智也氏と球団社長を経験した池田純氏の対談は、球団内部の問題を斬る。監督やコーチ陣の本質的な問題点を突き、その改革案を提示する。
Vol.3は7月31日、掲載予定