里崎智也×池田純 球団社長に、オレはなる! #1里崎智也×池田純 球団社長に、オレはなる! #3

インタビュー=日比野恭三

球団社長の資質

池田 球団社長になったとしたら、例えば1日8時間をどのように使うイメージを持っていますか?

里崎 僕は基本的に自分でやるのが好きじゃないので、できるだけ他の人にやらせたいんですよね。実行ってすごく労力がかかるし、知識もいる。そんなすぐに僕がすごい経営をできるわけではないだろうから、そこそこ得意そうな人にやってもらうほうがいい。方針だけ伝えて、あとは報告をお願いねって。

池田 社長に必要な資質ですね。自分でドキュメントとか書きたくないし、言うだけで終わらせられるのは理想ですよね。ただ、最後の責任は取らなきゃいけない。

里崎 だからこそ、報告はきちんと受けるしチェックもする。問題があれば自分のアイデアも出しますし、話し合いたいと思います。そういう意味では、一緒に仕事をする人たちにイエスマンにはならないでくれって言いますね。選手にもそう言っていたんですけど、最も困ったのが僕に意見しない選手なんです。ピッチャーに「こうしてくれ」って言うと、まずはやってくれますよね。でも、何も言わない選手は納得してやってくれているのか、仕方なくやっているのかがわからない。何が正解なのかがわからなくてこっちが困るし、そのピッチャーのためにもならないです。

池田 何を考えているかがわからないと、その人を評価することも難しいですね。

裏方さんの給料も出来高制で良い

©松岡健三郎

里崎 僕は野球界の人に対する評価とか査定にすごく疑問を持っています。かなり高い確率でクビにならない人たちがいる。スカウトとか、裏方の人たちがそうです。例えばバッティングピッチャー。バッピの質が落ちると選手の練習がままならなくなるわけですから、チームのバッティング能力を上げる大事な仕事です。だけど、どうやって評価されているのかがわからない。スカウトもそう。裏方の人たちに対する評価の仕組みもきちんとつくる必要があると思います。

池田 確かに。特にスカウトが、一番難しいかもしれませんね。私は契約で球団社長をやっていたので、何年間かしたら必ずいなくなってしまう立場でした。選手も同じで、結果を出せなければチームにい続けることはできない。でも、スカウトの人たちは自分から辞めない限りは、定年まで働き続ける人が大半です。査定方式がないから評価が曖昧になりがちだし、責任の所在もはっきりしない。辞めさせると悪い評判が立って、スカウトの人材が入ってこなくなったりもする。だから、私が社長になったときに「スカウトはクビにしちゃダメだ」と元選手の年配の人から言われました。正直、誰が人材を見抜く目を持っているのかなんてわからない。良い選手を獲得したときは褒めていましたけど、たまたまその選手がいる地域の担当だっただけという言い方もできる。

里崎 そうなんです。選手の場合は獲得するだけじゃなくて、その後の育成も絡んできますからね。例えば、ある選手が伸び悩むとスカウトは良い素材を取ってきたけど、現場が壊したと言う。逆に、現場サイドには何でこんな選手を取ってきたんだと言う人もいて、なすりつけ合いが起きてしまう。だから僕は考えたんです。100パーセントの出来ではないんですけど、こうやってスカウトを査定すればいいんじゃないかっていう方法論を。

池田 どのようにするんですか?

里崎 まずスーパースターは除外します。今で言えば清宮幸太郎だとか、どの雑誌を見ても「特A」の評価になっているような選手は、そのスカウトが見つけてきたとは言えないですからね。その上で各スカウトに「あなたの担当地域のドラフトを持ってきてください」って言うんです。10人ぐらい順位をつけてリストを提出させる。もちろん最終的に誰を取るかはこっちの判断ですけど、万が一そのリストに載っていない選手が他チームに入って活躍しようものなら、そのスカウトの行動力はないということになりますよね。少なくとも、自分の地域の選手をどこまで見ているのか、一つの指標にはなると思います。

池田 それを3年か5年ぐらいのスパンで見れば、スカウトの力量がだいたいわかるかもしれないですね。でも、そうやって評価が明確になってくると、できなかったらクビにしなきゃいけない場合も出てくる。今、スカウトの給料の相場っていくらぐらいか知っていますか?

里崎 500~1000万円ぐらいじゃないですか?

池田 そう、球団にもよりますけど、だいたい700~800万円が平均だと思います。結果が出なければ職を失うということになると、失業後のことも考慮して、今よりも給料は上げなければならなくなるでしょうね。

里崎 僕は裏方さんの給料も出来高制で良いと思っています。ピッチャーを担当しているスコアラーは、チーム防御率がこれくらいになったらボーナスが出るとかですかね。給料を下げるっていうのは反発も大きいでしょうけど、プラスアルファでボーナスを出すというなら受け入れられやすいのかなと思います。チームの結果が出なければ、その分の予算が浮くのでそれは来年に回せば良い。

5割くらいしかストライクが入らないバッピもいる

池田 例えばバッピだと、里崎さんクラスの選手が打席に入ると投げにくくなるっていう人もいるでしょう?

里崎 いますけど、僕に言わせれば「でも、あなたプロですよね?」っていう一言ですね。誰が打席に立ってもストライクを投げるのが当たり前です。でも、プロのバッティングピッチャーであっても、ただストライクを投げるということは意外に難しい。池田さんはバッピが何割ぐらいストライクを投げてくれればOKだと思いますか? 内とか外とか投げ分ける必要はなくて、とにかくストライクゾーンに投げる確率です。

池田 8割ぐらいは投げてほしいですね。

里崎 そうですよね。90パーセント以上の人が8割って言います。でも、5球投げてボールが1球だけっていうバッピは、ほとんどいないですからね。

池田 私もよくケージの後ろからバッティング練習を見ていましたけど確かにそうでした。

里崎 8割でストライクを投げられるのは、チームに10人のバッピがいたら1人か2人だと思います。なかには5割くらいしかストライクが入らないバッピもいる。そうなると、バッティング練習の時間は決まっているので、僕らの練習量が実質半分になってしまうんです。無理にボール球に手を出してリズムを崩したり、やりたいことができなかったりする。

池田 ベイスターズでも8割以上がストライクっていうバッピは、2人ぐらいしかいなかったと思います。

里崎 意外にいないんですよ。だから、これは究極の理想像なんですけど、僕は裏方さんを全員キャッチャーで雇いたいんですよ。まず当然ブルペンキャッチャーはできます。それにキャッチャー経験者は小手先だけで投げる技術があるので、バッティングピッチャーもできるしスコアラーもできる。何をやらせてもできるんです。

池田 なるほど。確かに、バッピはピッチャー経験者である必要はないんですよね。ベイスターズにも野手出身のバッピがいて、彼は最もストライク率が高かった。

里崎 ヤクルトにいる福川(将和)というバッピもキャッチャー出身です。バッティング練習で大事なのはあくまでイメージづくりであって、すごく曲がる変化球を投げてもらう必要はありません。ストライクをコントロール良く投げてくれるバッピにはそれなりの査定をして、相応の給料を払うべきじゃないかなと思います。

池田 あれはまだベイスターズが弱かったころだから4年ぐらい前かな。ブランコとか、中村ノリ(紀洋)、多村(仁志)に投げていたバッピが言っていました。「振ってくれない」って。ちょっとボールになると嫌な顔をされて結構つらいんですと。

里崎 そういう頑張りを見て給料を上げてあげれば、やる気になりますよね。横並びの査定じゃ、かわいそうだなと思います。トータルのスタッフ予算を組んでおいて、良い人は上げる、悪い人は下げるというように、その中でやりくりするのがいいと思うんですけどね。

池田 うん、それはいいアイデア。わかりやすいし現実的だと思いますよ。私はバッティングケージの後ろから様子を見て、怖そうな先輩が打席に入るとストライクが入らなくなるバッピとか、見極めていましたね。ストライクをきちんと投げ込める人の給料を上げたこともありましたよ。

里崎 それが結局はチームのためになりますからね。

コーチには自身の野球哲学を話してほしい

©松岡健三郎

池田 私の場合は、野球人でもないのにケージの後ろに立っていると、それだけでコーチに文句を言われたりもしました。何でそこにいるんだよって。

里崎 みんな、自分のテリトリーが侵されるのをすごく嫌いますからね。相手にそんなつもりがなくても。

池田 里崎さんは、球団社長になったらグラウンドにどんどん出ますか?

里崎 楽勝で出ますよ(笑)。それか、スタンドの上のほうにあるVIPサロンみたいなところに行って、そこから見ますね。誰が何をしているか、上からが最もよく見えるんで。

池田 選手出身となれば話は違ってくるんでしょうけど、球団社長のような立場からチームに関わろうとすると、“現場介入”ってすぐ言われてしまう。

里崎 いやいや。「え、何がダメなの?」って感じですよね。というか、何も言わないで勝てているんだったら、そりゃ何も言いませんよ。

池田 私は、ちょっと言っただけで超もめました(笑)。選手がすぐバテるのにあまり走っていないように見えたので、あるコーチに「もっと走らせたほうが良いんじゃないですか」と言ったら、すごい剣幕を見せられました。でも、みんな竹を割ったような性格の人が多いので、もうケンカしたことも忘れているくらいさっぱりしていますけどね。

里崎 自分もそうですけど、熱しやすく冷めやすい。次の日には試合があるんで、終わったことをくよくよしても仕方ないですからね。

池田 選手の目線でコーチの姿を見ていて、何か感じることはありましたか?

里崎 コーチ自身の野球哲学であったり、理論、方針なんかであったりをすべてプレゼンしてほしかったですね。みんなの前で30分間ぐらい。僕が16年間ロッテでやってきて、選手の前で「こういうふうにやっていく」という話を講演みたいな感じで伝えてくれたコーチは2人、金森(栄治)さんと山中(潔)さんだけですね。ほとんどの人は言わないです。

池田 自分の野球哲学、野球理論を持っていない?

里崎 言ってしまうと、後で変更が利かないっていうのもあると思います。

池田 そうか、うまくいかなかったときに責任を取らなきゃいけなくなりますね。

里崎 そうです。ずっと「Aやぞ、Aやぞ」って言っているコーチがいるとしますよね。でも監督が代わって、新しい監督が「それはBやろ」って言う。そうなると、コーチまで「Bに決まっとるやろ」って言い出すんです。だから、理念がはっきりしない人だと、どこについて行ったらいいのかがわからなくなる。

池田 野球に限らず、どこの世界でもそういうことってありますよね……。

里崎 でも、そういうのが僕は好きじゃないですね。だから、何でも結果論になってしまう。僕だったら、自分の野球理論をまとめて伝えるのに30分間ではとてもじゃないけど足りない。みんなは大抵「30分? 長えな」って言いますけど、それぐらいは話ができてほしい。自分自身のやってきた野球のことなんですから。

一軍の監督・コーチと二軍の監督・コーチの違い

©松岡健三郎

池田 里崎さんはコーチをやってみたいとは思わないんですか。

里崎 全く思わないですね。やるとしたら、僕の提示した条件をすべて飲んでもらわないと。

池田 どんな条件?

里崎 コーチっていっぱいいますけど、野球界は年功序列なので、ルールは年上が作るんです。例えばバッテリーに関しては、ピッチングコーチとバッテリーコーチが絡んでくる。そういうとき、最後は年上の人の意見で決まる。もしくは監督と仲が良い人ですね。そういう人間関係でルールを決めることが、僕は納得できない。だから、もし僕がコーチをやるとしたら“バッテリー統括コーチ”です。バッテリーのルールは全部僕が決める。ピッチングコーチには、ピッチングの技術だけ教えてもらって、マウンドに行くのも、ミーティングを主導するのも僕。だって、バッテリーコーチがデータ重視でやっているのに、一方でピッチングコーチは「気合いや」とか言っていたら、終わりじゃないですか。

池田 確かに(笑)。

里崎 それに、僕は自分の理論で言い返すんで、監督はやりづらいと思います。現役のときから、打たれた後にコーチが何か言ってくると、「じゃあ、どうしてほしいんですか?」と言い返していました。そう聞いても、ほとんどの場合は答えを持ってない。だから最終的には「サトに任せる」ってなっていましたね。

池田 里崎さんは全部はっきり言うタイプなんですね。一番よくわかっていると思いますけど、野球界って誰かに気に入られているか、“お友だち”じゃないと中に入れてもらえないですよね。

里崎 そうですね。だから、僕もそこまでして入りたいとは思っていません。結局、コーチとして結果が出なかったら、メディアもファンも「あいつは選手では良かったかもしれんけど、コーチとしてはダメやな」って、絶対に言われるんですよ。だったら、好き勝手やって文句を言われたいですね。それと、コーチの年俸が横並びなのも僕は好きじゃない。やっぱり、ここでも出来高でいこうぜって思います。

池田 もちろん能力も大事ですけど、肩書きで年俸がだいたい決まってくるという側面は否めないですね。

里崎 僕なら、結果が出なければいつでもクビにしてもらって構わない。しがみつきたいとも思わないし、ずっとコーチをやっていたいわけでもない。だから、その代わりに成果を出したら報酬はきちんとくださいよと言いますね。球団にもよりますけど、今のコーチの年俸は二軍も入れて800~1500万円ぐらいが相場。でも、3000万円、5000万円、1億円ともらうコーチがいたっていいと思うんです。それに見合った結果を出しているのならですけどね。

池田 そういう仕組みを取り入れていかないと変わっていかないですね。今は、みんなが1500万円とかもらい続けることを目指してがんばっている世界になっている。

里崎 二軍のコーチは一軍のコーチより下っていう位置づけも好きじゃないですね。何で上下関係があるんだ、と。二軍は時間をかけて、言わば、アマチュアをプロに育てなきゃいけないわけで、僕は二軍のコーチのほうが能力は必要なんじゃないかと思います。一軍のコーチはある程度できあがっている選手たちを見るので、マネジメントだとか、調子の良し悪しを見抜く観察眼、資料の整理といったことができれば何とかなる。でも、二軍は選手と一緒になって育てていけるだけの指導力と長期的ビジョンがいる。だから、一軍と二軍のコーチをシーズン中に入れ替えるのはどうかと思いますよね。一軍でダメな人が二軍に来て、二軍で良い感じに選手を育てていた人が一軍に行ってしまう。そうなると、すごく中途半端な状態になりますよ。

池田 二軍のコーチのほうが重要だっていうのは同感です。でも、日本流のGM制も含めてどうしても一軍の勝った負けたの毎日の結果に意識が偏りがちですし、二軍コーチはないがしろにされやすい。と言うか、引退した選手にはとりあえず二軍コーチをやってもらおうか、みたいなことになりがちですね。

里崎 僕が球団社長をやるとしたら、大げさに言うと、一軍のコーチは監督に全員連れてきてもらっても構わない。結果が出なければ全員辞めてもらいます。けど、その代わりに二軍の監督・コーチは、長期的な目線で選手を育てられるよう、球団主導で人選をさせてもらいます。一軍の結果がどうであろうと、二軍のシステムには全く影響しないという形にしたい。その上で、選手育成の手腕があって、よそに行かれては困る二軍のコーチには、一軍コーチよりも高い給料を払いますね。

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日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。