文=座間健司

明らかになった選手とフロントの対立

13日にカンプ・ノウで行われたスーパーカップ・ファーストレグに敗れた後、ツイッターでは#BartomeuDimiteYa(バルトメウ、もう辞任しろ)という言葉がトレンド入りした。バルトメウとは、バルセロナの現会長の名前だ。スペインはもちろん、世界中のバルセロナのファンが、同クラブの現体制、役員の退陣を求めた。バルセロナは昨シーズン、リーガ3連覇を逃し、チャンピオンズリーグもベスト8で敗れ、獲得したタイトルはコパ・デル・レイのみ。失敗のシーズンだった。最大のライバルであるレアル・マドリードがチャンピオンズリーグを連覇し、かつリーガを制したとなれば、なおさらその失望は大きい。

それに加えての、今夏のピッチ外での失態だ。クラブの看板選手の1人であり、未来でもあったネイマールが退団した。アメリカでのプレシーズンの間はずっとブラジル人の去就で騒がれ続けた。バルトメウら役員もチームに帯同していたが、何の解決策も見出せずにいた。ネイマールは退団したが、バルトメウは代わりの人材を手にできていない。まず補強したのは、地元メディアや多くのソシオが望んでいるとは言えなかったブラジル代表パウリーニョで、4000万ユーロ(約51億円)を29歳の選手に費やした。トップチームのパフォーマンスと結果が良ければ、まだフロントの仕事への不満は抑えられたはずだが、ファーストレグではレアル・マドリードに敗れるだけでなく、内容でも完全に凌駕された。特にネイマールの失った穴は色濃くピッチに反映されていた。

火に油は注がれた。

ファーストレグ終了後、バルセロナのスポーツマネージャー、つまり役員の1人であるペップ・セグラが「ピケのミス。あのゴールで試合が決まった」とオウンゴールしたスペイン代表センターバックを名指しで批判した。セカンドレグの前日会見に出席したセルヒオ・ブスケツは「敗戦の責任がピケにあるという意見には同意できない。オウンゴールは不運だった。1-3で敗れたのはそれが原因ではない。僕たちがミスを犯し、相手がゴールを的中させた。1人の仲間のプレーで試合を落とすわけではない。クラブの内部から特定の選手を指摘するのは、いいやり方ではないと思う」と同僚を擁護した。ブスケツはイニエスタ、メッシと同様にキャプテンを任される選手で、ロッカールームのリーダーの1人だ。彼の意見はメンバーの総意でもある。地元メディアはバルセロナのフロントと選手が対立しているという意図を持って大きく報道した。ペップ・セグラはセカンドレグ当日にメディアに登場し、「選手を批判する意図はなかった」と慌てて釈明しているが、クラブがうまく回っていないことは誰の目にも明らかだ。

2戦合計1-5での敗戦で白旗を掲げるピケ

©Getty Images

そんな状況下で迎えたサンティアゴ・ベルナベウでの“エル・クラシコ”は、開始10分でタイトルの行方が決まった。アウェーゲームを1-3で勝利し、大きなアドバンテージがあるレアル・マドリードは、開始早々にゲームを殺そうとし、そして目的を達成した。

キックオフの笛が鳴ると、見事な連携と強度の高いプレーで、バルセロナを自陣に釘付けにした。バルセロナがボールを奪っても、白い集団が囲み、掃除機のごとく瞬時にボールを奪い返していた。ホームチームには本来ならば主軸であるはずの選手たちがいなかった。エースであるクリスティアーノ・ロナウドは出場停止、攻撃の軸を担うガレス・ベイル、そして昨シーズン終盤から好調を維持するイスコはベンチにいた。それでもレアル・マドリードはバルセロナを圧倒した。4分にアセンシオが、豪快なミドルシュートを決め、合計スコアを4-1とし、タイトルの行方を決定づけると、ベンゼマが39分に追加点を決めた。

バルセロナは2つのゴールの起点となったプレーがミスジャッジによるものだと抗議したが、誤審がなくてもたいしてスコアは変わっていなかっただろう。疑念の余地はない。レアル・マドリードの完勝は明らかだ。2戦合計で5-1というスコアは現実を的確に反映していた。メッシだけが攻撃の唯一の手段となってしまったバルセロナにとって、ライバルはどの選手が出場しても全くパフォーマンスが落ちなかった。

この事実は、敗れたバルセロナにとって更なる追い打ちをかけるものだった。レアル・マドリードへの対抗心を隠さず、常に自分の意見を良くも悪くも正直に語るピケは試合後に「僕は9年間ここにいるが、初めてマドリードよりも劣っていると感じる」とメディアに語った。ピケも認めざる得ないほどの大きな実力差が今の両者には存在する。

移籍市場でソシオの期待に応えられるか

©Getty Images

23時にキックオフされたセカンドレグで、バルセロナが惨敗を繰り返すと、ツイッターのトレンドにはまたも#BartomeuDimiteYaが掲載された。

その夜は、それだけではなかった。

バルセロナが負けている後半途中の深夜24時19分、パリ・サンジェルマンの公式アカウントは、ネイマールが笑顔で両手を広げている写真を笑顔の絵文字と共にツイートした。どんな意図があるのか。明らかになることはないだろうが、地元メディアはパリ・サンジェルマンがバルセロナを冷やかし、笑いものにしていると解釈した。

ネイマールを失い戦力ダウンしたクラブは、自尊心も大いに傷つけられている。

バルトメウ会長は眼鏡をかけた風貌が似ていることから『ドラえもん』の主人公である“のび太”という愛称を持つ。会長自身も過去のインタビューで自分が“のび太”似であることを自覚していると公言し「私は“のび太”だ。なぜならメッシは“ドラえもん”で、全てを解決してくれるから」とコメントしていた。だが、今のバルセロナはメッシですら解決できない危機的状況に陥っている。バルトメウはバルセロナのファンが、ソシオの納得するような陣容を移籍市場が閉まる8月31日までに揃えられるのか。

バルセロナは、会費を払うソシオの投票により、会長が決められる。2010年、2015年に行われた会長選挙で立候補し、ソシオでもあるアグスティ・ベネディート氏は、9月1日にバルセロナにバルトメウの現体制に対して不信任を問う投票を請求すると地元ラジオに出演し、語った。ベネディート氏はそのインタビューで「ネイマールが出て行くことを私は知っていた。どうやったら現役員がそのことを知らなかったのか? 彼らは知っていた」とコメントした。

いまだにピッチ内外で、ネイマール退団の余波をうまく処理できずにいるバルセロナ。“エル・クラシコ”での惨敗で、その波はさらに高くなってしまった。

代表監督も大歓迎 ネイマール加入でブラジル代表化が進むPSG

ネイマールのパリサンジェルマン移籍を最も喜んでいる一人が、現ブラジル代表のチッチ監督だろう。ネイマールが加入したことで、PSGには5名のブラジル代表選手がそろうこととなったからだ。ブラジル国内でネイマールの移籍はどのように受け止められ、チッチ監督はどのような意見を持ったのか。藤原清美さんに伝えていただく。

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Jリーグ観戦にかこつけた旅行が、めちゃくちゃ楽しい件。(札幌編)

“スポーツツーリズム”という言葉をご存知だろうか。スポーツイベントの観戦者、参加者と開催地周辺の観光を融合させ、経済への波及効果を目指す取り組みのことだ。2011年6月には、観光庁が「スポーツツーリズム推進基本方針」を取りまとめており、地域振興への寄与が期待される。そして、言うまでもなく各地域にアウェー観戦者が訪れるJリーグは有望なイベントの一つだ。今回は、「アウェー旅行の楽しさ」をテーマに、“Jユニ女子会”主宰の浦和レッズサポーター・木下紗安佳さんに寄稿を依頼した。(写真・文 木下紗安佳)

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座間健司

1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中からバイトとして『フットサルマガジンピヴォ!』の編集を務め、卒業後、そのまま『フットサルマガジンピヴォ!』編集部に入社。2004年夏に渡西し、スペインを中心に世界のフットサルを追っている。2011年『フットサルマガジンピヴォ!』休刊。2012年よりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。