文=鈴木智之
真剣勝負で実力を出し切ったもの同士がわかる連帯
勝ち負けを越えた先に、感動がある。スポーツの持つ素晴らしさを教えてくれたのは、サッカーでプロを目指す子どもたちだった。2016年夏、東京の片隅で繰り広げられた、子どもたちのスポーツマンシップあふれる行動が、世界中で大きな反響を呼んだ。『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2016』でのFCバルセロナの選手の振る舞いが、スポーツ界のアカデミー賞とも呼ばれる『ローレウス・ワールド・スポーツ・アワード2017』において『スポーツの最高の瞬間賞(Laureus Best Sporting Moment of the Year 2016)』に35%の得票数で選ばれた。
『スポーツの最高の瞬間賞(Laureus Best Sporting Moment Of The Year)』は「試合の結果やスコアを越え、スポーツの真の価値を象徴し、スポーツに世界を変える力があるというメッセージを世界中のスポーツファンと共有する」(公式サイトより)ことを称え、ドラマ、フェアプレー、スポーツマンシップなどのコンセプトから選出されるもの。
2017年2月15日に発表された『スポーツの最高の瞬間賞(Laureus Best Sporting Moment Of The Year)』に選ばれたのは、『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ』決勝戦後、FCバルセロナの選手たちが見せた、大宮アルディージャジュニアの選手達に対する振る舞いだった。
それは心温まる光景だった。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、1-0で勝利したFCバルセロナの選手たちは輪になって喜びを爆発させたあと、グラウンドに倒れ込んで悔しがる大宮アルディージャの選手たちの元へ、一人、またひとりと駆け寄っていく。
FCバルセロナのカピタン(カタルーニャ語でキャプテンの意)カプテビラ選手を始め、若きバルセロナの選手たちは大宮の選手の肩を抱き、頭をなで、励ましの言葉をかけていく。大宮の選手は試合後、「言葉はわからなかったけど、励ましてくれているのはわかった」と、バルセロナの選手たちの心意気を感じ取った。そこに言葉はいらない。真剣勝負で実力を出し切ったもの同士がわかる連帯。
そして表彰式。バルセロナの選手たちは自発的に2列に並び、花道を作った。そこを大宮アルディージャの選手たちが通っていく。バルセロナの選手たちには勝者のおごりも、敗者を見下す視線もない。そこにあるのは、スポーツマンシップと思いやりだ。
スポーツは子どもを大人にし、大人を紳士にする
この光景がSNSを通じて世界中を駆け巡った。まずは日本語、次にスペイン語。大会を主催したAmazing Sports Lab Japanの浜田満氏は「世界中、100以上のメディアに取り上げられ、アメリカ、ドイツ、韓国、イングランド、スペイン、ノルウェー、アイルランド、ブラジル、コロンビア、ギリシャのメディアに映像を提供しました」と反響の大きさに驚きを隠せない。
この出来事から1ヶ月後、大宮アルディージャはクラブのYoutubeチャンネルに「大宮アルディージャジュニアからFCバルセロナへのメッセージ」と題し、感謝の言葉を送った。そこでキャプテンの多久島良紀選手は、次のようにコメントしている。
「僕たちは試合に負けて、悔しい思いをしました。でもバルセロナのみんなの優しさあふれる振る舞いによって、とてもいい思い出になりました。もし逆の立場になったら、自分たちも勝敗を越えて、お互いに称え合うことのできる人間性を磨いていきたいです」
試合後、大宮アルディージャの森田浩史監督が「FCバルセロナはサッカーだけでなく、人間的な部分の教育もしっかりしている」と語ったように、FCバルセロナのカンテラ(育成組織)は、人間教育に力を入れている。FCバルセロナのセルジ監督は「(大宮の選手を慰めたのは)選手たちが自発的に行ったもの」と話していたが、若き選手たちは勝者がとるべき態度を、12、3歳にしてすでに身につけていたのである。
日本サッカーの父、デットマール・クラマー氏の言葉に「サッカーは子どもを大人にし、大人を紳士にする」というものがあるが、2016年夏の終わり、日本のピッチでFCバルセロナの小さな選手たちが見せた振る舞いは、大人であり、紳士たるものだった。今回受賞した賞は「Best Sporting Moment」だが、このモーメント(瞬間)は多くの人の脳裏に残り、瞬間ではなく永遠の記憶になるだろう。