文=斉藤健仁

田中HCが注入したサントリーのエッセンス

©斉藤健仁

ただ勝っただけでなく、「今年こそ……」と期待を抱かせるのには十分な内容だった。

大学選手権の優勝は歴代2位の12度を誇るものの1996年度から21年間栄冠から遠ざかっている明治大。夏合宿の練習試合では王者・帝京大に27-56で敗れたが、昨シーズンの大学選手権ベスト4の天理大、東海大を撃破し、好調が伝えられていた。

関東大学ラグビー対抗戦の開幕戦で青山学院大に108-7と大勝し迎えた10月1日(日)、東京・秩父宮ラグビー場での2試合目は、難敵・筑波大と対戦した。明治大は前半こそ21-21と同点だったが、後半だけで7トライを重ねて68-28で快勝した。

明治大は昨年の対抗戦は5勝2敗の3位、大学選手権は初戦となる3回戦で、公式戦では初めて京産大に22―26で敗退、ベスト8にも入れず早々にシーズンを終えてしまった。今シーズン、就任5年目となる丹羽政彦監督は続投したが、実際にグラウンドに立って指導にあたるヘッドコーチには田中澄憲氏が新たに招聘され、丹羽監督と二人三脚で強化にあたることとなった。

今年42歳になる田中HC(ヘッドコーチ)は、サントリーサンゴリアスや15人制と7人制の日本代表として活躍したSHで明治大OBである。かつては清宮克幸監督(現・ヤマハ発動機監督)らの下で、そして元日本代表HCのエディー・ジョーンズ氏が指揮していた2010年度までサントリーで現役を続けた。2012年度からは大久保直弥(現NTTコミュニケーションズ・FWコーチ)、沢木敬介監督をチームディレクターとして支えてトップリーグの優勝に貢献。優勝を知る人物が名門サントリーのエッセンスをどう注入し、どう変えたのか、耳目を集める一戦となった。

「この半年間、練習の質と強度を上げてやった自信はあります。選手もそう思っているし、鍛え方が違うということが証明することができた試合じゃないですかね」と淡々と田中HCが振り返ったように、新生・明治大の真骨頂は、21-21と同点で迎えた後半開始早々のノーホイッスルトライだった。

相手がキックしたボールを自陣から少しずつ継続し、攻撃を重ねた回数は32回、丹羽監督が「明治の看板ポジションなので期待している」と名指ししたNo.8坂和樹(2年)が前に出てつなぎ、最後は田中HCの高校(報徳学園)の後輩でもあるFL井上遼(3年)がインゴールに飛び込んだ。

なお井上は前半も2度、ポールの根元にボールをグラウンディングする技ありトライを挙げており、このトライで「ハットトリック」を達成、この試合のMVPにも選出された。

このトライで勢いに乗った明治大は、前半は苦しんだ筑波大の前に出るディフェンスを、BKが少し深めに広くラインを取ることでそのプレッシャーをかわしつつ、FWは前半同様に前に出て、期待の大型ルーキーのLO箸本龍雅らが6トライを重ねて、終わって見れば前後半で計10トライを挙げて68-28で快勝した。

高い強度を保ちながらスキルを出す今季の明治大

©斉藤健仁

明治大はハイパントこそ蹴ったがボールをほとんどタッチに蹴らず、自陣からでも積極的に回していったのは、ただ闇雲に行ったのではなく、裏付けがあった。

まず、春から積み上げてきたフィトネスとスキルに自信があったこと、筑波大のバックスリー(WTBやFBの総称)に良いランナーがいたこと、そして筑波大のラインアウトからのアタックが脅威だったという3つの理由からだった。相手のキックオフしたボールをしっかり処理できなかったり、ラインアウトから一発でトライを許したりとディフェンスには課題が残ったものの、しっかりとゲームプランを実行した試合でもあった。

キャプテンのLO古川満(4年)は「(アタックでは)我慢することを意識していた。高い強度の中でスキルが出せるかという練習をしてきて、それが全員でできているところが大きい。(攻撃を重ねるプレーをしながらも)精神的にも余裕を持ってプレーができていて、今までの悪い明治らしさがでていない」と自信をのぞかせれば、丹羽監督も「FWが前半から走りまくって、後半はしっかりやるだけだと思っていた。今日のFWは、例年だとそこで取りきれないが取り切った。FWもBKもみんな頑張った」と、好感触を口にした。

筑波大の古川拓生監督は「強い明治に対して、一歩も引かずに、どれだけ前に出られるかが(勝敗の)一つの分かれ目だと思っていた。前半は、その部分がしっかりできたが、後半、明治がテンポアップしたときにずれて食い込まれていった。明治の最後まで反則をせずに継続する力が我々より上だった」と相手を称えた。

青山学院大学戦で15トライ、筑波大戦で10トライを挙げた明治大の攻撃力もさることながら、前の試合もこの試合もたった1度しか反則をせず、規律が高いことも特筆すべきだろう。守っているときは、外側の選手がしっかりとコールしてオフサイドにならないように気をつけており、攻めている時は接点に対する2人目の寄りのスピードを早く、しっかりと相手を排除するよう個々の選手が役割を果たしている証拠だ。

明治大のウリの一つであるFWのスクラム、ラインアウトからのモールなどは、昨シーズンまでリコーブラックラムズでPRとして現役を続けていた明治大OBの滝澤佳之FWコーチがフルタイムで指導している影響も大きい。

田中HCは2月末にチームに合流すると「マインドセットを変える」とプレゼンテーションを行ったという。大学選手権決勝が行われる来年の1月7日まで、いつどういう練習をして、ピークを最後に持って行くというスケジュールが提示されたという。「最初のミーティングで田中HCに『日本一』という目標を掲げて、日頃の練習から明確に、全員が日本一になるという意識を持つようになりました」(FL井上)

ただ田中HCは「良い部分も出たが、ディフェンスに課題はある。帝京大や慶應大に4トライ取られたら勝てない。今までだったら勝ったら『いいね!』で終わったと思うが、選手は納得していないと信じている」と冷静に先を見つめた。

対抗戦は10月1日で全8校が2試合を終えて、明治大だけでなく優勝候補筆頭の帝京大、早稲田大、慶應大が2連勝を達成した。まだシーズンは始まったばかりだが「NEW “MEIJI”」をスローガンに掲げた新生・明治大の改革がしっかりと前に進んでいると肌で感じた試合となった。

FWの力強さだけでなく、フィットネスとスキルを武器に「前へ」出続ける今シーズンの紫紺のジャージーは簡単に止めることはできなさそうだ。

王者・帝京大も警戒 大学ラグビー初戦で筑波大に逆転勝利した慶應大の潜在能力

関東大学対抗戦の初戦が24日に行われ、慶應義塾大学は筑波大学と対戦した。開始直後にトライを許すなど、2度のリードを許した慶應大だが、最終的には43-26で勝利。開幕前から注目を集めていた慶応大が、初戦で示した強さに迫る。

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斉藤健仁

著者プロフィール 斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k