文=村上晃一

伝統の早慶明を関西の大学が破る

共同通信

 日本の大学ラグビーは、長らく「東高西低」の勢力図が続いてきた。一方、高校は「西高東低」。ジュニアの選手層が厚い大阪、京都、福岡などから優秀な選手が関東の有名私大に流れているのが、大学の東高西低の大きな要因であり、関西のラグビー関係者にすれば「関西は勝てませんね」と言われるのは納得できないところがあった。それでも、同志社大学が3連覇(1982年度から84年度)して以降、関西の大学が日本一になっていない現状は見直すべきと、近年は関西ラグビー復興のためにさまざまな施策が行われている。

 その成果が今季、関西の2大学が10年ぶりに全国大学選手権ベスト4に進出する形で現れたのだ。

 2016年度の全国大学選手権は前年の18チームから出場枠が減り、関東大学対抗戦Aから4、関東大学リーグ戦1部から4、関西大学Aリーグから3、地域リーグから3の計14チームで争われた。対抗戦と関東リーグ戦の枠が多いのは、前年の決勝戦進出チーム(帝京大学、東海大学)が所属するための特別枠だ。

 関西大学Aリーグ1位の天理は3回戦から登場し、慶應義塾を破ってベスト4進出。関西2位の同志社は、2回戦からの出場で中央、早稲田を破ってのベスト4。そして、関西3位の京都産業は、2回戦で明治を破った。関東8校、関西3校という出場枠で関西2校がベスト4に残ったことも特筆すべきだ。

「早慶明に、関西の大学が全部勝つって、すごいな」。天理大学を約20年率いてきた小松節夫監督は感慨深げに話した。ここ数年、関西ラグビー復興のために尽力してきた関係者は、一様に嬉しそうな表情を浮かべていた。

優れたリーダーが動けば組織は変わる

共同通信

 関西復権のキーマンを一人あげるなら関西ラグビー協会の坂田好弘会長(写真)だろう。元日本代表の名ウイングであり、大阪体育大学を36年にわたって率いた坂田氏は、2012年に関西ラグビー協会会長に就任。2012年の日本代表対ウェールズ代表戦が行われた時は、「関西のみんなで日本代表を応援しよう」と、高校、大学チームに観戦を呼びかけ、花園ラグビー場を2万人超の観客で満員にした。日本代表は惜敗したが、ヘッドコーチのエディー・ジョーンズはこの姿勢に感激し、坂田会長に「あとは任せてください」と言葉をかけ、翌週の秩父宮ラグビー場での歴史的勝利につなげた。

「関西の大学ラグビーが盛り上がれば、関西の高校生も残ってくれる」と関西学生代表を結成して2015年春にはNZU(ニュージーランド大学選抜)と対戦し、2016年春には関東大学リーグ戦選抜との試合を開催。「関西の代表に選ばれる」という明確な目標が学生たちのモチベーションを高めた。今年の3月には関西学生代表がラグビー王国ニュージーランドに遠征する予定で、関西学生代表のステイタスはさらに高まる。

 こうした施策のためには費用がかかる。坂田会長は関西大学リーグを盛り上げるために10数社の協賛を集め、各大学への入場料収入の配分も改良。部員たちの集客に対するモチベーションを高めた。2016年度は関西大学Aリーグの命名権契約を、広島県を拠点にする物流サービス会社「ムロオ」と結ぶ。ムロオの山下俊夫会長はかつて近鉄ラグビー部で坂田会長とともにフィールドを駆け抜けた選手。「関西ラグビーのために使ってください」と3000万円を出資した。

 関西協会はこれを関西学生代表の遠征やレフリーの国際交流、普及活動に費やす予定だ。この他、最近は関西協会のホームページも見やすくなり、SNSなどでの情報発信も活発化している。Aリーグだけではなく下部リーグの情報も迅速にアップされ、ファンや各大学OBに好評だ。人望の厚いリーダーが本気で動けば、組織は大きく変わるという好例だろう。

 もちろん、天理、同志社、京都産業各大学のコーチ陣の指導力がチーム力を押し上げたのは言うまでもない。同志社は高校日本代表や、U20日本代表選手が多く、コーチ陣もトップリーグ経験者が並ぶ。人材、コーチともに恵まれている印象があるが、スポーツ推薦による学費免除などの制度はなく、山神孝志監督、大西将太郎、仙波智裕コーチなどの指導陣も仕事の合間を縫ってのボランティアだ。天理、京都産業は高校日本代表やU20日本代表の経験者が強豪校の中では極端に少なく、体格も小さい。無名選手をハードトレーニングで鍛え上げ、ラグビー理論を叩き込み、人材を有効活用しながらの強化で地力をつけてきた。才能で劣る部分をどう補うかを考え続け、実力拮抗のリーグで切磋琢磨したことがコーチングの質を高めたとも言えるだろう。

 京都産業が明治に勝利した試合では、控え選手を含むメンバー23人中、世代別代表歴で明治が「14人」、京都産業が「3人」という開きがあった。まさに雑草軍団の勝利。大西健監督、元木由記雄ヘッドコーチの男泣きが苦難の日々を感じさせた。

 東高西低の勢力図に風穴を開けた関西3大学の活躍は、関西ラグビーが力を合わせた末の必然的な結果だった。今後も関東への人材流出は続くだろうが、関西に残る高校生も多くなり、関西勢も着実に力をつけていくはずだ。

 近い将来、大学日本一の座につく関西のチームはどこになるのか。必然の優勝を楽しみに待ちたい。


村上晃一

1965年、京都府生まれ。10歳からラグビーを始め、現役時代のポジションはCTB/FB。大阪体育大時代には86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年にベースボール・マガジン社入社、『ラグビーマガジン』編集部勤務。90年より97年まで同誌編集長。98年に独立。『ラグビーマガジン』、『Sports Graphic Number』などにラグビーについて寄稿。