ホークスの強さを支える「3軍」制度

柳田悠岐、千賀晃大、武田翔太、甲斐拓也。
ここに挙げたのはホークスが敷く3軍制度によって成長を遂げ、リーグ優勝に貢献した選手の名前だ。球団が育成してきた生え抜きの選手が、チームの先頭に立ち活躍を続けている。

9月16日でのリーグ優勝決定はパ・リーグ最速。歓喜の瞬間を目前に、ベンチには出場登録されていない選手も顔を揃え賑わっていた。その中には4番を担ってきた内川聖一や選手会長の長谷川勇也の姿もある。2位の西武に14.5ゲーム差をつけてのV奪還となったが、今季は故障者が続出した。それでも勝てるのがホークスの強みだ。

若手が育つ環境が最大の強みであり、他球団にはない魅力でもある。その象徴の一つが、主力選手も経験してきた「3軍」制度。この制度を敷いているのは巨人、広島と他にもあるが、いち早くこの制度を導入し、成果を出してきた。

2011年にスタートした3軍は、独立リーグや大学、社会人、ときには他球団の2軍を相手に、今季は年間60試合をこなした。8月には韓国遠征に行き、韓国プロ野球と対戦するのがここ数年は恒例となっている。出場するのは主に育成選手たちだ。シーズン終了時点で在籍していた育成選手は、巨人と並んで12球団最多の23名。2軍戦に出場できない選手の実戦確保、プロ野球選手として通用する身体づくりを主な目的としている。

これだけの育成選手を抱えることや3軍制度は資金力がある球団だからこそ継続できるとも言えるが、成果が出なければ続ける意味はない。
まだ支配下選手には満たないが、期待できる魅力的な何かが備わっているのが育成選手だ。将来、1軍で活躍するための準備として、それぞれに必要な練習メニューをこなし、ときにはコーチとマンツーマンで、ときにはチームメートと競わせながら、じっくりと育成していく。日本代表に選出された千賀や、今季1軍で活躍した甲斐、石川柊太は育成から支配下登録を勝ち取り這い上がった選手だ。将来を担うチームの顔が確かに育っている。そう考えれば、ホークスの「育成」は現時点で実を結んでいると言えるだろう。

今季3軍の指揮を執っていた佐々木誠監督は「人数が少ないから試合に出られている選手もいる。そうではなく、競争に勝てるようになってほしい。指導するには面白い素材が多いですよ」と話す。そう、ここには磨けば輝くであろう原石がたくさん存在しているのだ。

若手の可能性を広げる好環境

故障者が出ても、そこに代わって入ってくる選手層の厚さは育成環境が大きく影響している。2016年からファームの本拠地を『HAWKS ベースボールパーク筑後』に移行した。2軍戦が行われるメインの「タマホームスタジアム筑後(タマスタ筑後)」と、主に3軍が使用する天然芝の「ホークススタジアム筑後第二」の2つの球場を有し、室内練習場、選手寮、クラブハウスを備えている。選手たちはこの整った環境で、1軍への切符を勝ち取ろうと汗を流す。

この施設を訪れた関係者やOBは「ファームとは思えない。13球団目のような施設だ」と口にする。タマスタ筑後は両翼100メートル、中堅122メートルでLEDナイター照明も完備。ヤフオクドームとは異なる芝ながら、耐久性や衝撃吸収性に優れた人工芝を使用している。施設完成当初、コーチ陣から「これだけの施設があったら練習するしかないやろ。特に寮生は練習し放題だな」と投げかけられ、選手が苦笑いを浮かべていたのを思い出す。また、クラブハウス内にあるトレーニングルームは機材の数も種類も充実しており、リハビリ用の流水プールまで備わっている。これだけ素晴らしい環境なら、居心地がよくなってしまわないか心配になるほどだ。

「私たちの仕事は1軍に選手を送り出すこと。育成がメインですが、勝てば選手のモチベーションは上がる。監督3年目の今年はより1軍を意識して、厳しい目で見ています。結果、内容、取り組む姿勢のすべてが重要です」
水上善雄2軍監督はシーズン中にこう話していた。2軍は昨季までウエスタンリーグ5連覇を果たしていた。史上初の6連覇をかけた今季は3位。1軍とは異なり勝利を最優先にしないこと、故障明けの選手が調整で出場することなどから毎年戦い方は異なるが、その中で厳しいレギュラー争いに食い込める人材を育てなければならない。

今季で言えば、上林誠知と甲斐がいい例だろう。4年目の上林は一度も降格することなく1軍の戦力となった。その中で「毎年試合に出続けて結果を残している選手のすごさを実感した」と、もがき苦しみながら試行錯誤しながらシーズンを送った。昨季13試合出場だった甲斐は、持ち味の強肩を生かしてポジションを勝ち取り先輩捕手陣を抜いて103試合に出場。主に東浜巨や千賀など若手投手陣をリードした。甲斐が2軍にいた頃、誰もいない室内練習場で一人、快音を響かせていたのをよく目にした。側溝から自動的にボールが回収されるため、球拾いの必要がない。一人でも打撃練習が容易に行えるのだ。黙々とバットを振り「すべてが足りていないから今ここにいる。やるしかない」と話していた。

故障者続出でも勝てる12球団一の選手層

和田毅、中田賢一、東浜、千賀、武田、バンデンハーク。工藤監督が当初想定してた先発ローテは開幕早々に崩れる。まず、開幕投手を務めた和田が4月11日に登録抹消。左肘骨片除去手術を受け、復帰したのは約4カ月半後の8月末だった。さらに昨季12勝の千賀、14勝の武田も故障や再調整により先発ローテから外れた。

そこで抜擢されたのが3年目のドラ1・松本裕樹や育成出身の4年目・石川ら若手だ。松本は中継ぎで2試合に登板した後、5月27日の日本ハム戦でプロ初先発を果たす。2勝4敗でシーズンを終えたが、10試合に先発し1軍で得たものは大きい。石川は5月31日の中日戦でプロ初先発・初勝利。その後、先発12試合、中継ぎ22試合で投げ8勝4敗でシーズンを終えた。クライマックスシリーズでも中継ぎ要員として仕事をして見せた。

工藤公康監督は「いい経験をしてくれれば」とコンディションにも気遣いながら見守ってきた。離脱した先輩投手ほどの成績は残せなかったが、ポジションが空いたときに名前が上がるだけの調整を積んできた。経験値を上げるという意味も込めて、期待に応えられたのではないだろうか。

野手陣に目を向けると、やはり4番でキャプテンの内川の離脱が挙げられる。首の痛みと左手親指骨折で二度にわたり戦線離脱。その間4番には柳田悠岐が入り、中村晃、柳田、デスパイネのクリーンアップが組まれた。大黒柱を欠いても、打線は切れることなくつながった。各々が仕事を全うし、空いた穴を補ったからだ。

シーズン終盤に復帰した内川は「シーズンにいなかった分までという思いで臨みたい」とクライマックスシリーズ前に意気込みを語っていた。その言葉通り、4戦連続でホームランを放ち存在感を示した。まだ若手には負けられないとばかりに打線を牽引している。

「ベテランと若手がいい関係でバランスよく活躍してくれた。抜けた穴を埋める選手がいてくれたのは大きい」(工藤監督)
チーム力を見せつけたリーグ優勝に続き、日本シリーズでも次々に育つ若手の活躍が期待される。「勝利」と「育成」を同時進行してきたこの選手層の厚さで2年ぶりの頂点を目指す。

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古江美奈子

1982年生まれ。福岡県出身。福岡ソフトバンクホークスオフィシャル球団誌「月刊ホークス」編集部を経て、現在はフリーライターとして活動中。主にプロ野球(ソフトバンクホークス)、社会人野球、ソフトボールの取材・執筆を行っている。