文=VICTORY SPORTS編集部
圧倒的な資金力を支えている経営力
パ・リーグの首位を独走していたソフトバンクホークスは、16日の西武ライオンズ戦に7-3で勝利し、ペナントレースを制した。2年ぶりとなる優勝は、2015年に記録していた9月17日という自球団が樹立した記録を上回るリーグ最速優勝でもある。
2位の西武に14.5ゲーム差。8月上旬までは楽天を追う2位だったにもかかわらず、首位を奪った8月15日から8連勝。さらに8月31日から9連勝と2度の大型連勝を決めた。この間に楽天は大失速し、一気にその差は広まった。わずか1 カ月の間に、約15ゲーム、その差が拡大したことになる。
今季は89勝41敗で48個の貯金を作っている。8月上旬まで2位にいたとはいえ、結果的に見れば、その成績は他球団を圧倒するものだ。2014年、2015年と連覇を達成し、逆転でのV逸で3連覇を逃した昨季にしても83勝54敗6分の貯金29と、優勝してもおかしくはない数字を残している。
ここ4年間で3度のリーグ優勝を果たし、2位が1回。常勝軍団と言えるほどに結果を残している。なぜ、ソフトバンクホークスは、ここまでの強さを誇り、そしてそれを維持出来ているのだろうか。
その強さを語るうえで、資金力は語り落とせない。プロ野球選手会が発表しているソフトバンクの選手年俸総額は42億800万円であり、選手会登録60名の一人当たりの平均年俸は7,013万円となっている。この金額はパ・リーグ2位の日本ハム(21億9,774万円、平均3,488万円)のほぼ倍額にあたり、巨人(36億8,653万円、平均6,043万円)も上回る12球団トップの金額だ。ちなみにセ・リーグの首位を快走している広島は総年俸額16億8,806万円で、平均年俸は2,767万円となっている。
この資金力を下支えしているのが、球団の「経営」の力である。大前提として押さえておきたいのは、ソフトバンクホークスは球団単体でやり繰りしている点。赤字になっても親会社が“広告宣伝費”として、それを補填してくれるという類のことは、この球団には当てはまらない。さらに、補強の際などに巷で言われる孫正義オーナーによる“孫マネー”というものも存在しなければ、親会社のソフトバンクから高額なスポンサー料が出ているということもない。球団関係者によると、他球団のそれと比べても、至って普通だという。あくまでも球団の収益の中で、やり繰りしており、その中で、ここ数年はきっちりと黒字を計上している。
それを生み出すことができる1つの大きな要因は、本拠地ヤフオクドームを球団で保有しているところにある。他球団の多くは、自治体や民間企業などから本拠地を借り、額の大小こそあれ、賃貸料を払っている。ソフトバンクもかつてはそうで、年間50億円にものぼる球場使用料を払ってきた。垂れ流しとなる巨額の球場使用料は経営を圧迫するだけで、どう考えても無駄だった。そこで2012年、870億円の巨額資金を投じて買収した。そこには、明確なメリットは存在する。
スタジアムを自前で持つことで、まず50億円の年間使用料を大幅に削減できる。球場の入場料収入、物販で得られる営業収入、スタジアム内に掲出するスポンサーからのスポンサー収入に加え、コンサートなど野球非開催時のイベント使用時の使用料など、スタジアムで生むすべてを球団の収入にすることが可能となる。新たなスタジアムのスポンサーなども、自社の営業努力次第で、増やすことが可能。自前でなければ、こうはいかない。これにより、様々なビジネスチャンスが生まれたことは、想像に難くない。
そして、ソフトバンクには地元・福岡、そして九州に熱狂的なファンが多数いる。毎年、ホームゲームには250万人前後を動員。これにオープン戦、そして満員が見込めるクライマックスシリーズ、日本シリーズ(収益は主催のNPBと分配される)もある。2017年3月期に発表された決算公告によれば、売上高は約278億円。これは12球団でも図抜けた数字で、MLB中位クラスに匹敵する売上である。
「金満球団」と揶揄されるホークス。確かに、資金が潤沢なのは間違いではない。だが、それは企業として、当然の姿。Appleやトヨタ自動車などといった世界的大企業が“金満”と批判されるだろうか。それと同じことを、ソフトバンクはやっているに過ぎない。企業としては至極真っ当な姿で、批判は的外れである。
未来を見据えて取り組んだ育成選手が活躍
この経営の力、体力があるからこそ、様々な部分への投資が可能になる。その投資先の1つになるのが、保有しているヤフオクドーム。自前であるため、機動的に変化を加えることが可能になる。ホームランテラスの設置や多種多様な観客席の設置など、観客を楽しませるエンターテインメント性、そして居住性を高め、それが顧客満足度を向上させるためへの投資になり、入場者数のアップへと繋がっていく。様々なイベント、例えば、恒例企画となった「鷹の祭典」などのイベントを開催し、新たなファンの獲得や、既存のファンの満足度を上げることにも、資源を投じている。
最大のファンサービス、顧客満足度を高めるのは「勝利」に他ならない。勝てなくなれば、ファンが離れていくのは自明の理である。チームを強くするための「補強」と「育成」も、重要な経営資源の投資先である。上記のようにソフトバンクの選手年俸は12球団で最も高額だが、これだけ継続的に成績を残しているからこそ、必然的に年俸は高まる。体力があるからこそ、高い能力を持つ選手を抱えることも可能となる。
ただ、決して金に糸目をかけず選手を乱獲しているわけではない。ここ3年はFA戦線には参入しておらず、外国人とメジャーからの復帰組などの獲得にとどまる。主力メンバーを見ると、生え抜きが多い。チームとして足りない部分を補う「補強」という側面とともに、チーム内に高いレベルでの競争原理を働かせる狙いの元に、これは行われている。
そして、若手選手の「育成」だ。強さを維持、向上させるためには、3年、5年先を見据えたチーム作りも求められる。その点、ホークスは早くから3軍制を敷き、若手に徹底的に体作りをさせ、それに加えて、より多くの実戦機会を得られる環境を整えた。このシステムによって輩出されたのが、千賀滉大であり、甲斐拓也であり、石川柊太といった、今季1軍で活躍した育成出身の面々である。近年のドラフト指名選手をみると、高卒選手がほとんどで、育成を主眼としていることが、よく分かる。
2016年には充実の設備を備えるファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」を総工費約50億円を投じてオープンさせた。より「育成」に力を入れ、チームとしての循環機能を働かせる取り組みの1つと言える。適材適所の「補強」により目の前のチームの強さを得つつ競争原理を働かせ、その中で「育成」もする。経営資源を的確に投下し「勝利」と「育成」を両立させている。
ファンサービスやスタジアムに投資して顧客満足度を上げて経営資源を確保し、的確な補強と育成にも投資して常に勝利を続けられる球団にする。この2つが上手く回ることによって、生まれる収益を、またそれぞれに投下する。この理想的なサイクルを作り出しているからこそ、ソフトバンクはその強さを維持できる。資金があるから強いのではない。コストを減らし、より多くの利益を生む経営努力をして形を作り、そうして生まれた資金を必要な部分に投資する。理想的な経営による循環が、機能しているからこそ、ソフトバンクホークスは強いのである。
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