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文=西尾典文


【分析内容】
対象期間は2007年〜2016年の10年間。項目は以下の5項目を分析。

・スカウティング(ドラフト上位指名選手の活躍度)
・育成(ドラフト下位指名選手の活躍度)
・トレード・FA(獲得選手の活躍度)
・外国人(獲得選手の活躍度)
・将来性(選手の年齢構成)

ドラフトに関しては2006年〜2015年の指名選手が対象。またドラフト上位指名の定義は下記とした。

・ドラフト上位指名:各年1球団2名まで
2006年と2007年の分離ドラフトは高校生ドラフトの1巡目、2巡目指名の選手、大学生・社会人ドラフトの希望枠もしくは1巡目指名の選手。2008年以降は1位および2位指名の選手。
※07年の西武のみ裏金問題のペナルティで高校生ドラフトが4巡目からの参加のため、上位指名は大学生・社会人ドラフト1巡目指名の平野将光投手の一人のみとなる。また、入団拒否のケースも下位の選手は繰り上げないものとした。

日本人選手の成功基準は投手、野手ともそれぞれ下記とした。
・投手:通算40勝or通算250試合登板orタイトル獲得。セーブ、ホールドは0.5勝とカウント。
・野手:通算500安打or通算500試合出場orタイトル獲得

※タイトルはベストナイン、新人王も含む。在籍年数が少ない選手は今後の見通しでクリアが期待できる場合は成功とカウントした。

また、外国人選手は投手、野手とも中心選手としての活躍と判断した場合を成功選手とした。



厳しい予算上限をカバーするさすがの育成力

©共同通信

■日本ハム:総合2位(21P)

・スカウティング:1位(6P)
投手は吉川光夫、大谷翔平、有原航平がエース格となり、短命だったものの榊原諒も新人王を獲得。しっかりと狙った選手が主力となっている。野手も中田翔、大野奨太、西川遥輝がレギュラーへと成長。主砲、捕手、リードオフマンとタイプの異なる三人の成功は見事である。

・育成:2位(5P)
投手は宮西尚生、谷元圭介、増井浩俊、鍵谷陽平がリリーフでなくてはならない存在へ成長。高梨裕稔も新人王を獲得した。高校卒は少ないが上沢直之も成功予備軍に控えている。野手は中島卓也、近藤健介がレギュラーを張り、杉谷拳士、谷口雄也、岡大海、浅間大基など成功予備軍も多い。育成力はさすがである。

・トレード・FA:5位(2P)
厳しい予算上限があることから過去10年でのFAでの獲得選手はゼロ。大型トレードで獲得した木佐貫洋と大引啓次は主力となったが在籍年度は短く、完全に成功とは言いづらい。他では石井裕也と市川友也がわずかに目立つ程度。件数の割には有効な補強にはなっていない。

・外国人:2位(5P)
投手はグリン、スウィーニー、ケッペル、ウルフ、クロッタ、メンドーサ、バース、マーティンの8人、野手はセギノール、スレッジ、アブレイユ、レアードの4人が成功選手。しっかりとチームの弱点を補っている。また他球団からの移籍はセギノールだけで、費用対効果の良さも目立つ。

・将来性(選手の年齢構成):2位(3P)
大谷がメジャーに移籍しても有原、高梨、上沢など若手が控えているのは頼もしい。一方でリリーフ陣の世代交代は今後の課題となりそうだ。野手はベテランのレギュラーは田中賢介だけ。西川や近藤にまだまだ若さがあり、ルーキーも早くから抜擢するなど将来への備えに対する意識は高い。

すべての面で成功を収め圧倒的な1位

©共同通信

■ソフトバンク:総合1位(29P)

・スカウティング:2位(5P)
投手は大隣憲司、岩崎翔、武田翔太、森唯斗が成功選手で東浜巨も予備軍としてカウントできる。全く活躍しなかった選手もいるが、モノになった選手のスケールの大きさはさすがだ。野手も今宮健太、柳田悠岐の数は少ないもののいずれも日本代表クラスの大物で、チームになくてはならない存在となっている。

・育成:1位(6P)
投手は森福允彦、摂津正、千賀滉大の3人、野手は高谷裕亮、長谷川勇也、中村晃の3人とこちらも数は多くないが摂津、長谷川、中村と3人のタイトルホルダー、そして育成出身ながら侍ジャパンにまで上り詰めた千賀とその顔ぶれは見事と言う他ない。今後が楽しみな高校卒の若手が多いのも大きな強みだ。

・トレード・FA:1位(6P)
過去10年で小久保裕紀、細川亨、内川聖一、帆足和幸、寺原隼人、中田賢一の6人をFAで獲得しているが、いずれも主力級の働きを見せている。ただお金をかけるのではなく、そこに戦略がある証拠と言えるだろう。トレードも成功は多くないが多村仁、金澤健人と長く戦力となった選手を獲得できている。

・外国人:1位(6P)
投手はホールトン、ファルケンボーグ、スタンリッジ、サファテ、バンデンハーク、スアレスの6人、野手はオーティズ、ペーニャ、イ・デホの3人が成功。投手、野手とも1年限りではなく複数年に渡って活躍した選手が多いのが素晴らしい。

・将来性(選手の年齢構成):1位(6P)
先発投手は武田、千賀を筆頭に若さとスケールの大きさは抜群。数年後に投手王国となる可能性が高い。リリーフは五十嵐亮太、サファテの高齢化が少し気がかりだ。野手は内川、松田宣浩の後釜が課題。ただ外野を中心に楽しみな若手が多く、将来への備えにもきちんと目が向いている。

高卒ルーキーの伸び悩みが深刻化

©共同通信

■ロッテ:総合3位(15P)

・スカウティング:4位(3p)
投手は唐川侑己、大谷智久、藤岡貴裕、松永昂大、石川歩は成功基準をクリアするペース。大嶺祐太、南昌輝も可能性はあり、上位指名選手がしっかり戦力となっているが、スケールという意味ではもうひとつの印象だ。野手も上位指名が少ない割に荻野貴司、伊志嶺翔大、中村奨吾が成功ペースに乗っている。ただ荻野、伊志嶺は故障もあって伸び悩んでおり、昨年1位で入団した平沢大河の出来次第で将来が大きく変わりそうだ。

・育成:4位(3P)
投手の成功は伊藤義弘と益田直也の2人だけ。高校卒では二木康太くらいしか見当たらず、下位指名が育っていない。逆に野手は角中勝也、岡田幸文、清田育宏、鈴木大地、田村龍弘とレギュラークラスが育っている。彼らが今のチームを支えていることは間違いないだろう。

・トレード・FA:2位(5P)
最大の成功はFAで獲得した涌井秀章。期待通りエース級の活躍を見せている。しかし、トレードでは主力となったのは2006年オフに入団した早川大輔くらい。逆に清水直行、久保康友を放出して失敗した印象が強い。サブローも不可解な放出からFAで呼び戻しており、補強として機能しているとは言えない。

・外国人:5位(2P)
投手はシコースキー、マーフィー、カルロス・ロサ、グライシンガー、イ・デウン、スタンリッジの6人、野手はキム・テギュン、クルーズ、デスパイネの3人が成功選手。際立って少ないわけではないが、タイトル獲得者はゼロ。チームを変えるほどの影響力のある選手は獲得できていない。

・将来性(選手の年齢構成):5位(2P)
投手は完全なベテランはスタンリッジだけだが、20代後半に主力が偏っているのが気がかり。前述した通り高校卒の若手で一軍の戦力となっているのが二木だけというのが大きな問題だ。野手は捕手の田村、内野の中村、平沢と楽しみな若手がいるのが頼もしい。ここに強打者タイプが加われば更に将来図を描きやすくなるだろう。

層の薄さをカバーできる方法が見つからず

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■西武:総合4位タイ(14P)

・スカウティング:5位(2P)
投手は岸孝之、野上亮磨、菊池雄星、牧田和久、十亀剣、増田達至が成功基準を超え、高橋光成と多和田真三郎も予備軍。高校卒は少ないがスケールの大きさもあり、成功確率は高い。一方の野手はそもそも上位指名が3人しかいない。森友哉はいるものの、もう少し上位で大物を獲得したいところだ。

・育成:3位(4P)
投手は武隈祥太、高橋朋己のリリーフ2人以外は目立つ選手がいない。このあたりが層の薄さの原因と言える。一方野手は大崎雄太朗、斉藤彰吾、浅村栄斗、秋山翔吾、永江恭平、金子侑司と6人が成功。浅村、秋山はリーグを代表する選手を2人育てていることは見事という他ない。

・トレード・FA:6位(1P)
過去10年でFAにて獲得したのは2人。そのうち石井一久は入団から5年で45勝をマークしており、じゅうぶんに成功と言える。一方でトレードでは13年の途中に入団した渡辺直人が戦力となっているものの、レギュラーと呼べる選手は獲得できていない。

・外国人:3位(4P)
投手はグラマン、シコースキー、ウィリアムス、サファテの4人、野手はカブレラ、フェルナンデス、ヘルマン、メヒアの4人が成功選手。2007年以降に2年以上活躍したのはヘルマンとメヒアだけ。ここ数年は投手陣の外れが続いている。

・将来性(選手の年齢構成):4位(3P)
岸が楽天に移籍し、菊池もメジャー移籍が見えてきた。高橋光成、多和田、そしてドラフト1位ルーキーの今井達也とスケールのある投手を獲得しているが、先発もリリーフも生きのいい若手は多くない。野手は中村剛也、栗山巧がベテランの域に入ったが、浅村、森など、山川穂高など長打力のある若手がいるのは心強い。課題は秋山に続く外野となるだろう。

外国人助っ人獲得がチームの課題

©共同通信

■楽天:総合4位タイ(14P)

・スカウティング:3位(4P)
投手は田中将大、永井怜、則本昂大、松井裕樹が成功選手。田中と永井は既に球団を去っているが塩見貴洋、美馬学、釜田佳直も成功予備軍として控えており、上位指名選手が機能している。逆に野手は10年間の上位指名の5人中4人が高校卒と攻めてはいるが、まだ結果は出てきていないのが現状だ。

・育成:6位(1P)
投手は成功選手はおらず、予備軍も辛島航、西宮悠介くらいしか見当たらない。今後が期待できる選手も少なく、苦戦が続いている。逆に野手は嶋基宏、渡辺直人、聖沢諒、岡島豪郎、茂木栄五郎が主力へ成長している。ここに高校卒の選手が加われば育成力は本物と言えるだろう。

・トレード・FA:3位(4P)
FAでは中村紀洋、今江年晶の実績のある内野手2人を獲得したが、いずれも移籍前ほどの結果を残せていない。ただトレードでは数は少ないものの、不動のセカンドとなった藤田一也、貴重な中継ぎ左腕の金刃憲人を獲得できたことは高く評価できる。

・外国人:6位(1P)
球団創設当初からあまり外国人選手獲得はうまくない。日本一に輝いた13年はマギー、ジョーンズが機能したが、それ以外に主力として活躍したのはリック、フェルナンデスと昨年のミコライオ、ウィーラーしかいない。球団にとって大きな課題と言えるだろう。

・将来性(選手の年齢構成):3位(4P)
近い将来エース則本のメジャー移籍の可能性がありそうだが、備えとしては釜田、安樂智大、ドラフト1位ルーキーの藤平尚真などがおり、しっかり将来に目が向いている。守護神の松井に若さがあるのも大きな強みだ。一方の野手は24歳以下の若手で目立つのは茂木くらい。内田靖人、オコエ瑠偉など楽しみな選手もいるが、まだまだ備えは不十分な印象を受ける。

すべての面で課題が残り、見通しは暗い

©共同通信

■オリックス:総合6位(10P)

・スカウティング:6位(1P)
新人王を獲得した小松聖以外は成功基準をクリアした投手はゼロ。予備軍に比嘉幹貴、松葉貴大、吉田一将、東明大貴などがいるが、チームを背負う存在にはなっていない。野手は後藤駿太、安達了一、吉田正尚と1位指名が元気なのは救いだが、全体的に成功確率も選手のスケールも物足りないのが現状だ。

・育成:5位(2P)
投手は西勇輝と佐藤達也の2人が楽に成功基準をクリア。ただ、それ以外でも塚原頌平、海田智行が予備軍にいるだけ。野手も大引啓次、伊藤光、西野真弘が成功ペースだが、長くチームを支えられるかは疑問だ。育成にも課題を抱えていると言えるだろう。

・トレード・FA:4位(3P)
過去10年で4人の選手をFAで獲得しているが、レギュラー、主戦となった選手はゼロ。トレードでは糸井嘉男、寺原隼人、木佐貫洋などの成功はあるものの、平野恵一や谷佳知など退団後に活躍した選手もおり、有効な補強にはなっていないと言える。

・外国人:4位(3P)
野手はラロッカ、ローズ、カブレラ、バルディリス、ヘルマン、ペーニャの6人が成功しているが、全員が国内他球団の経験者。また、投手はディクソンしか主力となっていない。外国人獲得の戦略にも問題があると言えるだろう。

・将来性(選手の年齢構成):6位(1P)
エースの金子千尋、抑えの平野佳寿がベテランとなり、若手と呼べる主力は西くらいしか見当たらない。昨年のドラフトはスケールのある投手を多く指名したが、その流れは続けたい。野手は何より吉田正尚の存在が大きい。ただ、他は捕手の若月など楽しみな選手はいるものの、まだまだ見通しが明るいとは言えない状況だ。

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西尾典文

1979年、愛知県生まれ。大学まで野球部で選手としてプレーした後、筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から技術解析などをテーマに野球専門誌に寄稿を開始。修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材し、全国の現場に足を運んでいる。