サービス精神で愛と感動の巨編となった「ベイスたん」

©カネシゲタカシ

――今年の横浜DeNAベイスターズは、98年以来19年ぶりに日本シリーズに進出しました。今シーズンのベイスターズの戦いぶりを、どう見ていましたか?

カネシゲ やっぱ嬉しかったですね。僕の場合、2012年に球団のオーナー会社が変わり「横浜DeNAベイスターズ」になってから応援するようになったので、これまでの軌跡を考えると、とても感慨深いものがありました。

――もともとベイスターズが好きで、「ベイスたん」を描き始めたのですか?

カネシゲ いいえ。2012年の終わりごろまでは阪神ファンでした。子供の頃は巨人ファンで、その後、オリックスファンになりまして、阪神ファンになり、そして今はDeNAファンという紆余曲折な流れです。

――VICTORYでも「ベイスたん」は人気のコンテンツですが、どういう経緯で生まれたのでしょうか。

カネシゲ スポーツナビブログさんで「週刊キヨシくん」という4コマ漫画を描くことになったんです。それまでは「週刊イガワくん」というヤンキース・井川慶投手を追いかける2コマ漫画を連載していたんですけど、当時アメリカでプレーしていた井川選手が日本に帰国することになって、連載を変えようという話になったんです。

――当時、横浜DeNAベイスターズの初代監督に就任した中畑清さんは、コメントが面白くて注目を集めていました。

カネシゲ そうなんです。マスコミやファンの心をつかみ、フィーバーが巻き起こっていましたね。そこでブログを作り、「週刊キヨシくん」の連載を開始することになり、それをきっかけにベイスターズの試合を日常的に見るようになりました。当時は週に一回、4コマ漫画を描いていたのですが、全然アクセス数が上がらないんですよ。「このまま週に一回だけやっていても、1年で連載が終わってしまう。アクセスを上げるために、何かやらないといけないな」と考えて、キヨシくんを更新しない日に、あまり労力をかけずに1日一枚くらいの絵でアップできるものを……と考えて、思いついたのが「ベイスたん」だったんです。編集部の許可すら取らず、突然始めました。

――そうだったんですね。

カネシゲ むかし流行していた「たまごっち」を思い出して、ベイスターズの白星を主食に、「今日は負けて、お腹が空いた」「今日は星がもらえてお腹がいっぱいだ」といった感じの漫画を描こう考えました。「ベイスたん」という名前も、そのときパッと思いつきました。

――ペナントレース中、毎日その日の試合結果を反映して描いていたんですか?

カネシゲ はい。一枚ならいけるじゃないですか? ただ、そういう経緯で始めたんですけど、それがすぐに意図しない爆発的な人気になったんです。「面白い」「可愛い」と、こちらの読みをはるかに超える反響が来ました。そうすると生来のサービス精神が出てしまうんですね(笑)。1日1コマだったのが、2コマになり、4コマになり、最終的には1回の更新に10コマ以上、作画にも2、3時間かかるようになってしまったんです。しかも当時は「キヨシくん」の原稿料はいただいていたのですが、もともと「ベイスたん」は「キヨシくん」の隙間を埋める企画だったので無償でやっていたんですよ。

――ボランティアだったんですね! 当時のページを見たら、「ベイスたん」がいっぱいある中、5本に1本くらい「キヨシくん」があったので、「これはなんだろう?」と思っていました(笑)。

カネシゲ 本来、「キヨシくん」がメインコンテンツで、「ベイスたん」はオマケでした。今、Twitterで「バファローズポンタ」というオリックス・バファローズの試合前と試合後に更新される漫画があるのですが、それを見て「本来『ベイスたん』でやろうとしていたのはこれ!」と思いました(笑)。「ベイスたん」は、ちょっとサービス精神が出てしまって、どんどんストーリーがデカくなり、最終的には愛と感動の物語になって、シーズンが終わったときはみんなが涙して、僕も涙して……という状況になっていったんです。

――そうなると、愛着もどんどん湧いてきそうですね。

カネシゲ やっぱりキャラクターを作っていると、楽しくなってきますね。ベイスターズという球団にも愛着が湧いてきて、その魅力がわかってくるんです。ベイスターズと出会ったのは、中畑さんの1年目で弱かったけど、中畑さんは常に前向きでしたし、若い選手も出てきていました。最下位だったから当然ではありますが、球団全体から「絶対上に行ってやる」というパワーを感じました。シーズン中には球団さんのほうから「ベイスたんとコラボレーションさせてもらえませんか」というお話をいただき、グッズも作らせていただきました。一介の漫画家がやっているよくわからないことに対して、声をかけて下さるフロンティア精神は、素直にすごいと思いましたね。

――「ベイスたん」を描きながら、どんどんベイスターズも好きになっていったんですね。

カネシゲ そうですね。チームが勝てなさすぎて、ベイスたんが死にかけたことが何度かあったんです。でも、そのたびに奇跡的な勝ち方をしたりして、「これは本当にミラクルだな」って思いましたね。自分が決定的に「俺はベイスターズファンだ」「ベイスターズファンで良かったなぁ」と思ったのは、2013年の5月10日のジャイアンツ戦。7回表で3対10と負けていたのを大逆転した試合でした。代打で登場した多村仁志さんが2本ホームランを打って、サヨナラ逆転勝利した伝説の試合です。そういうのを球場で生で見てしまうと「とんでもないな、このチーム」って思いますよね。奇跡とかミラクルとかが、本当に似合うんですよ。

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――のめり込んでいくには、うってつけのチームかもしれませんね。

カネシゲ ダメなときは、本当にとことんダメで、どうしようもなくデタラメなのですが、一度勢いに乗ると、誰も手をつけられなくなる。自分が大好きなパンクロックにそっくりなチームだと思ってます。若さと勢い、いわば“プロ野球初期衝動”ですね。今回のCSでもそれが証明されて、「これこれ!これがオレの好きなベイスターズだよ」っていう、熱い試合をやってくれました。だから日本シリーズ出場が決まったときは、もう本当に嬉しかったですね。「ついに出たんだ」って、感慨深いですよね。最下位の頃を知っていると。

――日本シリーズ進出決定のときも、ベイスたんはかなりのヒット数を記録しました。

カネシゲ ありがとうございます。昔は、ベイスたんって負ければ負けるほどアクセスが伸びていた時期があったんです。でも今は逆で、勝てば勝つほどたくさんの人が見てくださる流れになっています。「ベイスたんと一緒に応援しよう」って言ってくれる方や、「ベイスたんをきっかけにベイスターズファンになった」という方にも、たくさんお会いしたことがあります。そういう話を聞くと、本当に嬉しいですね。

ライトなファンに野球の面白さを伝え続けたい

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――今シーズン、最も印象に残っている試合や場面というのは、どこでしょうか。

カネシゲ 漫画で描いちゃうと、案外忘れてしまうんですよね。作品として昇華してしまうというか。でもやっぱり、対広島戦の三試合連続サヨナラ勝ちは、本当にすごかったですよね。最後の最後、倉本寿彦選手のヒットなんかは神がかっていたと思います。打球のバウンドが変わり名手・菊池涼介選手のグラブをすり抜けて、奇跡的に勝ちました。あのハマスタ(横浜スタジアム)という空間は、お客さんがワーッと火が付き出すと、何かが起こりそうな雰囲気が、スタジアム全体を包み込むんですよね。

――カネシゲさんが応援し始めた頃は、まだスタジアムが満席じゃないこともありましたよね?

カネシゲ 満席どころか、ガラガラでしたよ。三塁側の内野席の上段に、大きなビジョンが置いてあったんです。おそらくそのモニターは今、ビアガーデンのところに置いてあるやつじゃないかな? 空席をごまかすかのように客席にドーンと置いてあるんですよ。それぐらいガラガラでした。それが今や、チケットが取れないほどの大盛況ですからね。東京オリンピックに向けて席を増やすみたいで、今後もどんどんボールパーク化が進んでいくと思うんですけど、席が増えるのは我々ファンとしても、非常にありがたいですね。

――日本シリーズでは、そのパ・リーグを優勝したソフトバンクホークスと対戦しましたが、ベイスターズが今シーズン、日本シリーズに出場できた最大の要因は、なんだと思いますか?

カネシゲ 若さと勢いのパンクロック的部分に、ラミちゃん(ラミレス監督)の知性が加わったことが、すごく大きかったと思います。データに強く、ときにみせる思い切った采配も鮮やかです。また、モチベーターとして選手の気持ちをケアすることに非常に長けておられます。言っていること、すべてに根拠があります。若さと勢いの部分に、あのラミレス監督の知性が加わったことで、より良い試合ができる集団になったと思います。

――ラミレス監督は現役時代、熱心にファンサービスをしていましたよね。お茶目な面もあったので、「知将」と称されるような監督になったのは、ちょっと意外でした。

カネシゲ 監督になられてからは「アイーン」も「ゲッツ」も一切やらなくなりましたからね(笑)。そこは選手に主役に回ってもらうというメリハリですよ。最初はなんとなく寂しかったですけど、今思えばそれがよかったのかなという感じはあります。やっぱり、いつまでも監督だけが目立っていてもダメだったでしょう。チームの負のオーラを中畑前監督が払しょくしてくれて、その熱い気持ちを残してくれた。それをラミちゃんが受け継いで次のステージに連れていってくれた。そうした流れやタイミングが、非常に良かったんじゃないでしょうか。

――そして実際にベイスターズは日本シリーズを戦いました。

カネシゲ 僕は、ビジターで苦戦して、ホームで勝つという“内弁慶シリーズ”を予想していたんです。だから最初にビジターで2連敗したのは、予想の範囲内。そこから横浜がハマスタで3つ勝ち、福岡で一つ負けて、第7戦で何とか勝つ。そういう流れを予想してました。第7戦のチケットも買っていたんですよ。もつれにもつれて、福岡で日本一を決めてほしいと思っていたのですが……。

――残念ながら第6戦でソフトバンクに敗れ優勝は逃しました。ですが、かなり予想に近いシリーズになっていましたね。

カネシゲ 3連敗したときはさすがにやばいと思いましたが、そこから2連勝したときは「なるほど、そういうことか!」と思いました。もうベイスターズのミラクルタイム突入の合図だなと。最後は地力に勝るソフトバンクが日本一に輝きましたが、第6戦でもあと一歩というところまで追い詰めることはできました。すごいチームだなと思います。ベイスターズファンになって本当によかった。

©カネシゲタカシ

――「ベイスたん」は、ベイスターズの試合結果を元に描くわけじゃないですか。試合が終わってから、ストーリーを考えているんですか?

カネシゲ そのときに浮かんだものを、そのときの試合展開で書いています。たとえばサヨナラ勝ちすれば、サヨナラ勝ちの描き方があるでしょうし、手痛い負け方をしたら、「ベイスたん」と一緒に、明日に向かって明るく希望を持てるような内容にしよう、というふうに努めています

――日本では様々なスポーツを見ることができますが、野球ほど試合数が多い競技はありません。一度、気にするようになると、日常的になりやすいと思いますし、それこそ「ベイスたん」のような、かわいいゆるキャラの生活がかかっていたりすると、女性が野球に興味をもつきっかけにもなりやすいのではないでしょうか。

カネシゲ そうなんですよ。例えばマニアなファンだけが内輪で楽しめるコンテンツを作るのは、案外簡単だと思うんです。それを好きな人が、好きな人に向けて作るわけですから。でも、大衆というか、ライトなファン、女性の方とか、あまり詳しくない人をグッと惹きつけられるような華の部分、わかりやすさ、明るさ、楽しさ、面白さ、笑いが求められるところを、僕は引き受けたいなと思っているんです。「ベイスたん」も、そのコンセプトの一つにあります。その部分を背負える人って、実は野球文筆の世界に、もうあまりいないんじゃないかなと思っているんです。たとえば昔は野球をテーマにした四コマ漫画やギャグ漫画がたくさんありました。それらが野球文化に明るさや楽しさをもたらし、ファンの裾野を開拓することに大きく貢献していたと思うんです。でも、いまはありません。その分、僕がライトなファンに、「野球は面白いよね」って言えるようなコンテンツを作っていきたいなと思っています。SNSなどとも連動した新しい方法で。

――他球団のファンを経て、ベイスターズファンになったと言っていましたが、ベイスターズとの付き合いは、長くなりそうですね。

カネシゲ はい、そう思っています。でも愛想を尽かしてしまうようなことがあったら、スパッとやめてしまうかもしれません(笑)。一つの球団のファンを辞めたら、「裏切りもの」とか、「転向しやがって」と言われるかもしれません。でも、僕はある種、球団を「政党」みたいなものだと思っているんです。例えば、自民党に投票した人が、未来永劫、自民党に投票し続けるとは限らないじゃないですか。最近の自民党がダメだとなれば、立憲改進党に入れてみようとか。子供のときからタイガース一筋とか、ジャイアンツ愛一筋というのも素晴らしいですが、僕はそのときの自分が心から応援したいと思えるものを素直に応援したいんです。そしてベイスターズファンとか、タイガースファンとか、ジャイアンツファンとかいう以前に、やっぱり野球ファンでありたいと思っています。12球団、全部好きですから。

――では来シーズンは、「ベイスたん」の他にパ・リーグの球団の漫画ももう一つお願いします(笑)。

カネシゲ いやいや、体力が持ちませんよ(笑)。今でこそ週に2回ですが、毎日のように更新していた1年目は、何をしていても頭の中が、「ベイスたん」でいっぱいなんですよ。試合数を計算して、ここで誰かがホームランを打ってくれるはずだ…とか、ここは勝てそうだとか、ハラハラしながら、星勘定の計算をしていましたね。今はベイスターズが勝ってくれるから、食料もたくさんありますし、餓死の心配はなくなったので良かったですが、昔はリアルに危なかったので(笑)。それをずっとやるのは、すごく体力がいるんですよ。だから、「ベイスたん」と同じルールで、「おほしさま」とか「シウマイ」を別のものに置き換えて、誰かが他球団で描いてくれるなら、ぜひ見てみたいですね。

――実際、いろいろな球団でできたら面白そうですね。最後に今後のベイスターズに期待することを聞かせてください。

カネシゲ とりあえず来季のベイスターズには「完全優勝」を狙ってほしいです。下剋上ではなく、レギュラーシーズンで1位を獲って、CSにも勝ち、日本シリーズでも勝つ。そういう、「ここにはもう手が出せないぞ」っていう、強いベイスターズの姿が見たいですね。昔はスタンドもガラガラだったのに、CSのときはパブリックビューイングも入場規制がかかって、機動隊も出たそうですからね。すごい熱気だと思うし、横浜DeNAベイスターズを中心に好循環ができていて、横浜という街自体が、すごく活気のある街になってきている気がします。おほしさまの球団ですから、昼も夜もまばゆいばかりに輝き続けてほしいですね。

「ベイスたん」がVICTORYにやってきた!~おはようベイスたん2017

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\よこはまごうがい!/

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河合拓

著者プロフィール 河合拓

2002年からフットサル専門誌での仕事を始め、2006年のドイツワールドカップを前にサッカー専門誌に転職。その後、『ゲキサカ』編集部を経て、フリーランスとして活動を開始する。現在はサッカーとフットサルの取材を精力的に続ける。