序盤調子の上がらなかった桑原将志と倉本寿彦を起用し続けた理由

死力を尽くして戦い抜いた157試合。

19年ぶりに日本シリーズに進出した横浜DeNAベイスターズのラミレス監督は、激動ともいえた今シーズンを、落ち着いた表情で振り返る。

「ペナントはもちろん、クライマックスシリーズ(CS)や日本シリーズでは選手たちの成長を感じることができました。とくにCSと日本シリーズは予想を超えるものだったと思います。敗戦したということだけではなく、得たモノも多かった。我々はここで立ち止まるわけにはいかない。ここから前進し続け、常勝チームとして優勝を狙えるようにしたい。来年も素晴らしいシーズンを送れることを強く信じています」

今季セ・リーグの台風の目となったDeNAであるが、若い選手たちの頑張りは言うまでもなく、とくに注目を浴びたのがラミレス監督の采配だった。大胆かつ繊細。CSファイナルの広島戦で見せた流れを引き寄せる先手を打つリリーフ継投などは顕著な例だといえるだろう。

ラミレス監督は自身の采配について以前から次のように語っている。

「わたしのスタイルは一般的な監督とはやり方が違います。多くの監督は選手の調子が良ければ使い続け、調子が悪くなればベンチに下げラインナップを代えます。しかし、わたしはそういうタイプではありません。基本的に信じた選手に対しては我慢をする。もし代えることがあるとすれば、それは選手の状態の良し悪しではなく戦略があってのこと」。

選手たちを信じ抜く力――。

特にシーズン前にレギュラーに指名された桑原将志と倉本寿彦に対してラミレス監督は、序盤調子が上がらなくても忍耐強くゲームで使い続けた。サポートする青山道雄総合コーチらは「代えたほうがいいのでは」と意見したというが、ラミレス監督は首を縦には振らなかった。もちろんその際にロジカルな説明は受けているという。

報道陣には彼らの起用について、次のように語っていた。

「レギュラーとして指名するのはわたしにとって重い決断です。だから休ませるということはしない。わたしは現役時代、毎日プレーしたいと思っていました。それは彼らも同じだし、そう考えることのできる選手だからこそ毎日使うんです。またレギュラー2年目は非常に難しい年。去年は早いカウントからアグレッシブに打てていたのに今年はストライクを見逃してボールに手が出てしまう。本人はなぜ打てないか悩んでいるでしょうし、当然相手チームもレギュラーの選手に対しては分析が進みます。彼らとしては自分自身でそういったことにも対応していかなければいけない。ポテンシャルを考えれば、しっかりと成績を残してくれると信じています」

2年目のジンクスではないが、ラミレス監督は彼らが壁にぶつかるのは想定済みだったということだろう。そこを超えたとき、チームの大きな力になると信じての起用だった。

すべてはシーズンをトータルで俯瞰する目線の大切さ。結果、桑原は7月の月間MVPを獲得し、倉本は最終的にフルイニング出場を果たし巨人のマギーに次ぐ得点圏打率2位となる.342を記録している。

またラミレス監督の采配として物議を醸したのが、その倉本を9番に入れ、ピッチャーを8番打者に据えたことだろう。

打撃センスの高いウィーランドが今シーズンから加入したことで実現した戦術だったが、ラミレス監督は昨年からイメージしていた戦術であり、あとはどのタイミングで実施するかだけだった。

「例えば8番キャッチャーで9番ピッチャーだと、ピッチャーがバントした場合、キャッチャーは足が遅いのでダブルプレーになる可能性が高い。そこで6番キャッチャー、7番に足のある選手、8番ピッチャー、9番倉本にしたほうが、バランスがいいと考えたんです。倉本は本来6番が理想だと思いますが、クリーンナップが塁に出た場合、バントなどのスモールベースボールの要素を好まない。基本的には好球必打のフリースインガータイプで左右を苦にしないので、しっかりと振れる場所に置いておくのが効果的だと思いました」

今シーズン、DeNAの先発投手陣の打撃成績は、ウィーランドの活躍もあり打率、打点、出塁率ともにリーグ1位。また倉本が入った9番打者の成績を見ても、当然のように1位である。極めて判断の難しいところではあるが、ラミレス監督としては「機能していた」と手応えを感じている。

6勝10敗の井納翔一にポストシーズンの大事な試合を任せた信念

そして今シーズン、ラミレス監督がペナントレースで苦戦したのがピッチャーの起用法だ。先発、リリーフともに昨年よりも防御率を落としたことに加え、先発陣はイニング数を稼げず、そのしわ寄せがリリーフ陣にいき、結果的に5人の選手が60試合以上の登板を強いられた。

特に印象的だったのが先発の井納翔一の存在だ。右のエースと目されていたが、成績は6勝10敗と大きな期待に応えるほどではなかった。だが、ラミレス監督は一定の評価を下している。

「何をしなければいけないか分かってきている。マウンドでただ投げるのと、しっかり投球することは違う。今年はランナーがいたらダブルプレーにとる投球をするようになったし、またリードしてからのペース配分が上手くなった」

一方で、ひとたび調子の波を崩すと交代のタイミングが難しかった投手だとも語る。

「今日は完封するぐらいのピッチングだと思っていたら、次の回で急に崩れて逆転されることがある。ただ、崩れたときの投球内容を見るとスピードも落ちていなければ、攻め方も変わっていたわけでもない。結果として打たれているだけで、精神的な問題があるとも思えない。こういうピッチャーは修正が難しい。けれども、そこで責任を取るのがわたしの仕事なのです」

チームでは数少ない完投能力の高い選手ゆえ、代え時の難しさがあったに違いない。シーズン序盤から中盤にかけ井納を引っ張り過ぎて代打を出さず、さらに突然被弾を重ね逆転負けしてしまうことも少なくなかった。

しかし終盤になると、井納の交代は速やかに、かつ効果的に行われる。9月16日に行われた巨人との最終戦、Aクラスを占ううえで大事な試合となったが、6回まで0封だった井納をラミレス監督は躊躇なく交代し、勝利へ導いた。また記憶に新しいところでは10月20日に行われたCSファイナルの広島戦で、無失点のまま迎えた6回、一死後にランナーを2人出すと、すかさず井納をリリーフと交代。三上朋也、砂田毅樹、須田幸太とつなぎピンチを何とかしのぎ、対戦成績を2勝2敗としシリーズの流れを掴むに至った。

ペナントを経て迎えたポストシーズンにおいて井納は、ほかにもエース級のピッチャーがいるなか難しいシリーズ最初のカードを任され、またリリーフとしてもマウンドに立ち、ラミレス監督の起用に応えている。

これらはほんの一例に過ぎないが、ラミレス采配の基本は、まず選手を信頼し、自分が導き信じたことにトライし、過去から学び、選手をしっかりと観察し見極めるということである。

時として『頑固采配』と言われることもあるが、リリーフ陣の起用に関しては常にピッチングコーチからOKをもらうようにしているし、筒香嘉智がペナントレース終盤に3番から4番に戻る際は青山コーチの意見を参考にしている。そして10月19日のCS広島戦、1点リードの5回二死満塁の場面で髙城俊人に代わり乙坂智が打席に立ち2点適時打を打ったが、この非常に早いタイミングでの代打は光山英和バッテリーコーチの提案によりラミレス監督は決断している。もちろんゲームを戦ううえで指揮官として譲れない部分はあるかもしれないが、しっかりとコーチ陣の話に耳を傾ける柔軟さもラミレス監督は持ち合わせている。

日本シリーズ敗戦で露呈した力不足と来季への課題

就任2年目にして大きな成果を挙げたラミレス監督ではあるが、福岡ソフトバンクホークスとの日本シリーズを見る限り、大健闘はしたもののチームとしてまだまだ足りない部分が露呈したことは周知の通り。選手層も厚くはなく、守備の詰めの甘いミスもあれば、足も使えず1点をしっかりと取り切る確実な野球ができているわけではない。ただその分、若いチームゆえ飛躍的成長の余地があるということでもある。

「今年はバントの数、盗塁の数がリーグで一番少なかったので、来年に向け改善していかなければいけない。ピッチャーもクイックの部分を改善し向上しなければいけない。それらが整備できれば来年は優勝を狙えると思います。選手たちはCSと日本シリーズの戦いを通して確実に自信を得たと思います。わたしとしては“若いチーム”というよりも“競争力のあるチーム”として、選手全員がレベルアップを目標にやっていければいいと思います」

来年の開幕までまだ先は長いが、現在行っている秋季キャンプや来年の春季キャンプでは、夢と消えた日本一目指し、激しい競争が始まる。果たしてラミレス監督の慧眼は、そこで一体何を見出し、どんな戦術へとつなげていくのか、今から楽しみだ。

<了>

【完全版】アレックス・ラミレス監督(横浜DeNAベイスターズ)「責任を与えることで選手は伸びる」

昨シーズン、新人監督のなかで最も高い評価を受けたのが横浜DeNAベイスターズのアレックス・ラミレス監督だろう。チームを11年ぶりにAクラスに導いた手法は見事の一言。そして、決して諦めることのないポジティブ・スピリッツと、選手たちを見放さない信頼の厚さ――若い選手たちはラミレス監督の応えようと頂点を目指し奮闘した。そんなルーキー監督の思考に迫る。※本記事は、3月31日に前後編で公開した記事を1本に再編集したものです※

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1992年の横浜大洋ホエールズ入団から横浜一筋25年の現役生活を終え、2017年からは横浜DeNAベイスターズの球団スペシャルアドバイザーを務める三浦大輔氏。“ハマの番長”としてファン、チームメイトから愛された三浦氏が、ともに5シーズンを戦いホームスタジアム「ハマスタ」に多くの観客を呼び込むことに成功した前球団社長、池田純氏に、「ファンサービス」、そして自身の「今後のキャリア」について大いに語りました。

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石塚隆

1972年、神奈川県生まれ。スポーツを中心に幅広い分野で活動するフリーランスライター。『週刊プレイボーイ』『Spoltiva』『Number』『ベースボールサミット』などに寄稿している。