なぜ日本ハムは新球場を建設するのか?  壮大なボールパーク構想の全貌

29日、プロ野球の北海道日本ハムファイターズが、新球場構想に関する発表を行った。札幌市内で行われた説明の中で、責任者である前沢賢事業統轄本部長は「ここにしかない場所、道民の皆様に誇ってもらえるような施設にしていきたい」と夢の構想を語った。新球場構想は単なる球場移転の話に留まらない。球場新設に託す思い、その先にファイターズが描く夢とは? 作家・スポーツライターの小林信也氏に寄稿いただいた。(文:小林信也)

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新球場を作る目的は、大きく集約すると二つある。

ひとつは球団の収益性を高める狙い。札幌ドームは“借家”だから、飲食や物品の収益は札幌ドーム(札幌市)に入る。球団は一部を受け取るに過ぎない。年間13億円と言われる賃貸料も支払わなければならない。持ち家になれば、収益は球団のものになる。2004年に札幌に移転してからすでに14年。地元ファンの支持を得て“人気球団”となったファイターズが自前の球場を持った場合の試算をすると、相当な増収増益、完全な黒字化が見込める。借家ゆえに多額の利益が消失するのはあまりにもったいない。昨年、横浜DeNAが横浜スタジアムを買収した意図もここにある。球団の赤字が親会社の広告宣伝費で補填されていた時代が長かった日本の球団も、独立採算を目指す方向に変わり始めた。その基本が自前のスタジアムを保有することだ。

もうひとつの目的は、ファン・サービスの充実と社会貢献の実現。収益が上がれば、ファン・サービスに還元できる。野球の普及に注ぐ資金も潤沢になる。思い通りの球場運営、演出、ファン・サービスができないジレンマを新球場建設によって解消する。球団が実質的に球団経営の主導権を握れる。例えば、人工芝の張替えを希望しても、判断するのは持ち主である札幌市。スタンドの椅子の大きさや素材についてファンから要望が寄せられても、いま球団ではすぐに対応できない。

「新球場を作り、収益を高めてもっと存分にファンに喜んでもらえる環境を整えたい。

少年たちが、300円とか500円とか、小遣いを握りしめて球場に応援しに来られる球場を作りたいんです」

球団関係者の一人はこのように球場建設の思いを語ってくれた。
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2017年6月30日に公開された、小林信也さんの記事です。この時点では北広島市になるか札幌市になるかは発表されていません。「夢」を語る内容となっています。球団が直接球場を保有することで収益性を高め、サービスの充実を図り、社会貢献を実現することができるという狙い。DeNAベイスターズが横浜スタジアムを買収した理由とも共通しています。

なぜ東京の中心から、サッカースタジアムは消えたのか? 日本のスタジアム史

Jリーグ規格を満たすサッカースタジアムが、東京の中心から消えて久しくなりました。サッカー日本代表の試合はさいたまスタジアム2002(埼玉県)か、横浜国際総合競技場(神奈川県)で行なわれることが多く、首都・東京にはスタジアムが存在しない状態です。サッカー日本代表の人気は大きい中、なぜこのような状況になってしまったのでしょうか? 一級建築士・mataroviolaさんが歴史を紐解きます。(文:mataroviola)

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こうして東京にはJリーグ開幕、ワールドカップ誘致、そしてオリンピック招致と3度もチャンスがありながら、サッカースタジアムが実現できない、ということになってしまっている。もちろん新国立競技場にそのチャンスはまだ残っているのであろうが、規模縮小があったとしても、そのキャパシティは7万近く、日常的なプロサッカー興行として現実的なバランスとは言えない。

2017年7月には、新聞報道で、23区である渋谷区の代々木公園敷地内に、複数民間事業者がサッカースタジアムを構想し、都側と協議に入っているとの報道があった。まさに新国立競技場の将来活用を球技専用化の方向で検討しているという報道が入った直後のため、この報道は一種の「観測気球」のようなものではないか?(報知新聞1社のスクープで他社の後追い報道がなく、複数民間事業者の情報もほとんどないため)という見方もある。

だが、これも「東京の首都のサッカースタジアムが、巨大すぎてピッチも中途半端に遠く、お世辞にも見やすいとは言えないであろう新国立競技場→(改)球技場で本当にいいのか?という議論が詰まっていないことにたいしての警鐘をならす意味がないとはいえないだろう。

東京の、首都のスタジアムはどうあるべきなのか。いかに首都東京とは言え、プロサッカーの適性キャパシティは大きく見ても5万程度だろう。そして、そこをFC東京が使うにしても、東京ヴェルディ1969が使うにしても、サッカー日本代表の国際試合が開催されるとしても、「東京ならでは」のアイデンティティがないと、ウェンブリーのように永くは愛されないだろう。

もちろん採算は度外視することはできない。ただ、それよりも必要なのは、政官財界と、サッカーを愛する都民の「シンボル的なスタジアム」への熱意を表に出すこと以外にないと思われる。それはいつの日にか、「コスト」問題を凌駕すると、筆者は信じてやまない。
なぜ東京の中心から、サッカースタジアムは消えたのか? 日本のスタジアム史 | VICTORY

こちらは熱心なサッカーファンである一級建築士・mataroviola氏の記事。東京の首都から、サッカー日本代表やJ1リーグで使用することができるサッカースタジアムがなぜ消えてしまったのかを詳述しています。その後にもFC東京が主体、ミクシィ社が協力する形で代々木公園内にサッカースタジアムを作るという報道がなされています。FC東京が23区内それも代々木公園というアクセス至便な場所に本拠地を作れるなら、Jリーグはより一層の発展が見込めるでしょう。

誰もがマツダスタジアムに魅了される理由。設計に隠された驚きの7原則

2009年にオープンした広島東洋カープの新本拠地、MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(マツダスタジアム)。訪れた者なら誰もが魅了されるこの異空間は、日本のこれまでのスタジアムの概念を覆すようなアプローチによってつくられた。「スタジアム・アリーナを核としたまちづくり」が経済産業省を中心に進められるなど、今やスポーツの域を超えて大きな注目を浴びているスタジアム・アリーナ建設。今回、マツダスタジアムの設計に関わった株式会社スポーツファシリティ研究所代表取締役の上林功氏が、同スタジアムに隠された知られざる特徴と、未来のスタジアム・アリーナ建設のヒントを明かした――。(取材・文=野口学)

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 マツダスタジアムはスタジアム観戦の概念を大きく変えたとも評価されているが、観客動員がこれだけ伸びていることからも、それが証明されているといえるだろう。

 同スタジアムの設計を担当した上林功氏は、このように話す。

「スタジアムを新設しても、こけら落としから数試合は観客動員が増加するものの、年間を通じて見ればあまり変わらないというのが従来の定説でした。それは、スタジアムが新しくなっても、そこで行われる“体験”が進化していないからです」

 上林氏は大学院卒業後、日本建築学会大賞を受賞したことでも知られる仙田満氏が代表を務める環境デザイン研究所で働いていた。「建築というものは、ただ建物だけを設計していてはいけない。建築はもっと広がりを持つべきだ」という仙田氏の信念に共感してのことだった。

 その仙田氏のよく使う言葉に、「意欲を喚起する建築」というものがあるという。例えば、勉強したくてたまらない図書館、働きたくてたまらないオフィス、遊びたくてたまらない公園や遊具、などだ。

「仙田先生はもともと公園や遊具の設計を数多くしてきていたこともあり、講師時代には、学生に遊具を造らせて、実際に幼稚園に持って行かせて、子どもたちに遊んでもらうというワークショップをやっていたと聞きます。子どもというのは素直なもので、遊ばれる遊具と遊ばれない遊具がはっきりと分かれるそうです。この違いはいったい何なのかを研究されました。

 すると、ある原理原則があるということが分かってきたと。これを仙田先生は7原則によって構成される『遊環構造』と呼んでいます。子どもに限らず、人間の根源的な欲求はどこにあるのか。人がそこに集まらざるをえないくらい夢中になってしまうような建物とはどのような構造を持っているのか。この原則は科学館や博物館に取り入れられ、非常に多くの人たちが来場する実績を重ねて、マツダスタジアムにも導入されました」(上林氏)
誰もがマツダスタジアムに魅了される理由。設計に隠された驚きの7原則 | VICTORY

「スタジアム観戦の概念を大きく変えた」と評されるマツダスタジアムについて、同スタジアムを設計した上林功氏に話を伺った記事です。遊環構造とはなにか、人間の根源的な欲求を喚起する設計とは何か? そうした抽象レイヤーからの思想が設計に落とし込まれたことで、マツダスタジアムは大きな魅力を獲得するようになったことが理解できます。

「世界に通用する日本のスタジアムを」 マツダスタジアム設計者が語る言葉の真意とは?

スタジアム観戦の概念を大きく変えたとも評価されている、広島東洋カープの新本拠地、MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島(マツダスタジアム)。2009年のオープン以来、観客動員を着実に伸ばしている同スタジアムの設計に関わった株式会社スポーツファシリティ研究所代表取締役の上林功氏が、このスタジアムに隠された知られざる特徴と、未来のスタジアム・アリーナ建設のヒントを明かすインタビュー後編。今回は、スタジアムはどのようにして発展していくべきかについて話を聞いた。(取材・文=野口学)

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「仙田先生は、子どもたちに愛されている遊具は、その後、どのような変化を見せていくのか調べています。これを『遊具構造における段階的発展』といい、“機能的段階”、“技術的段階”、“社会的段階”という3段階に分け、遊具の使われ方が発展して変化すると述べています」(上林氏)

 例えば滑り台の場合、最初の“機能的段階”においては、子どもたちは「上る→滑る→戻る」という動作を繰り返すといった、あくまでも滑るための遊具として使われる。だが、そうして遊んでいるうちに、その遊具をもっと面白く、もっと上手な自分なりの滑り方を見つけるようになる“技術的段階”へと進むという。

 ここまではどんな遊具にも見られる傾向だが、いわゆる名作と呼ばれる遊具は、次の“社会的段階”へと進むという。

「この段階まで来ると、滑り台を他の何か、例えば砦に見立てて遊ぶなど、もはや滑る機能はほぼ意味を成さなくなってきます。子どもたちの発想によって設計者の意図を超越した使い方をされ、新たな意味を与えられた遊具へと変化していきます。『遊環構造』は、この『遊具構造における段階的発展』を促進させる役割があるといいます」(上林氏)
「世界に通用する日本のスタジアムを」 マツダスタジアム設計者が語る言葉の真意とは? | VICTORY

同上、マツダスタジアムを設計した上林功氏にお話を伺っています。『遊具構造における段階的発展』という概念から、スタジアムが単なるスタジアムつまり野球を見るためだけの機能ではなく、そこに住む人達にとってどんな機能を持つ場所になるか、都市の一部・社会の一部としての機能をどう果たすのかという観点から説明を加えていただいています。

なぜ日本には“使い勝手の悪い”競技場がつくられるのか? 見直すべき国体の意義

10月10日に閉幕した愛媛国体。72回目を迎えた歴史あるこの日本スポーツの祭典は、スポーツの普及という面で大きな役割を果たしてきた一方で、日本スポーツならではの大きな問題点を抱えている――。(文=大島和人)

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個人的にスポーツがこの国の中で果たせる役割は大きいと考えている。青少年の教育、市民の健康、街のアイデンティティ構築といった“最大多数の最大幸福”につながる活動であり、国や自治体が支援を強めることも必要という立場だ。

国体もこの国のスポーツを盛んにする、この社会を活気づける手段として活かせるはずだ。現実には目的が見失われ、手段が独り歩きしている。形式的に模倣され、コストだけが膨らむ愚が繰り返されている。巨額な予算の投入が未来につながらず、死に金になっている。

もちろん国体の主催者である日本体育協会が全く無策だったということではない。2003年、13年には国体改革に関して簡素化、負担の軽減を唱えた「提言」が行われている。しかし実情として目に見えた変化はない。

2015年10月には文部科学省の外局としてスポーツ庁が設立された。日体協も18年4月から「日本スポーツ協会」と名を改める。今は東京オリンピックの開催を控え、まずそちらにエネルギーを割かねばならない時期だ。

一方で中長期的には国体の目的、コスト構造について、日体協にとどまらない議論と見直しが必要だ。国体は県を挙げた巨大事業であり、開催地は10年以上先に向けて動き出す必要がある。スポーツ界が座視しているうちに、どんどん浪費が進んでいく。端的にいうなら開会式にテーマを絞ってもいい。この惰性、目的の喪失から脱出することは、日本のスポーツを飛躍させる大きな端緒となるはずだ。
なぜ日本には“使い勝手の悪い”競技場がつくられるのか? 見直すべき国体の意義 | VICTORY

球技ライター・大島和人さんの記事です。タイトルに集約されるように、日本にこれだけ使い勝手の悪いスタジアムが多い理由は何なのでしょうか。国体では、「人が来にくい場所に、大きな施設をつくる」ことが多く、メイン会場は陸上競技場であることが多いため、大会後の利活用も難しくなっています。大島さんは国体という大会が無ければ「日本にこれだけ陸上競技場、体育館、球技場が整備されることはなかった」とする一方で、2週間で終わるイベントのためにその後の40~50年が疎かになっていると喝破しています。


VictorySportsNews編集部